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第21話:砕けろォォ!!

 視界に現れたその質感に、一瞬だけ思考が止まった。


 掌に伝わるのは、木材の温かみではない。指先から芯まで突き抜けるような、無機質で冷徹な鉄の感触だ。

 柄頭は鈍い輝きを放つ球状で、その側面には肉や骨を抉るためのスパイクが鋭く突き出している。

 全長は約60センチ。木製の長大な棍棒に比べれば重厚だが、重心が一点に集中している分、驚くほど手になじみ、取り回しやすい。


「うおおおおおぉぉぉ!」


 咆哮とともに、鉄の塊を頭骨の急所へと叩きつける。


「くっ……!」


 一撃では砕けない。だが、先ほどのように無様に弾かれることもなかった。

 骨の奥まで衝撃が浸透する、確かな破壊の手応えが拳に返ってくる。

 腕の筋肉はすでに悲鳴を上げ、限界に達しつつあった。

 スケルトンが再起動を始めるまでの猶予はないだろう。


 俺はメイスを両手で握り直し、天高く掲げた。


「砕けろおおおおぉぉぉ!!」


 全体重を乗せ、垂直に振り下ろす。


 衝突の瞬間、硬質な岩石が爆ぜるような轟音が夜の草原に響き渡った。ミノタウルスの強固な頭骨が、真っ二つに叩き割れる。


「やった……!」


 喉の奥から、絞り出すような声が漏れた。安堵、達成感、そして高揚。

 相反する感情が濁流のように押し寄せ、膝が震える。


 だが、余韻に浸る間もなく、戦場の空気が肌を刺した。

 まだだ。戦いは終わっていない。


 慌てて周囲へ視線を走らせる。

 テオックが押し留めたスケルトンの隙を突き、アロンが鮮やかな手際でナイフを突き立てていた。

 他の個体も、ほぼ全てが物言わぬ骨の山に帰している。俺が大型と死闘を演じている間、周囲の雑兵は二人が引き受けてくれていたのだ。


 少し離れた闇の中に、いまだ巨大な影がうごめいている。その足元には、2つの人影があった。


「後はあれだけだね」


 背後から声がした。いつの間にか間近まで戻っていたアロンだ。


「助けに入らなくていいのか?」


 同じく合流したテオックが、アロンに問いかける。


「あれに割って入ると、却って邪魔になるよ。本当に危なくなったら手を貸そう」


 アロンは服に付着した草や土を無造作に払いながら、淡々と答えた。


 足元には、武装したスケルトンが使っていたであろう農具が無残に転がっている。

 残る敵は、エルカンとセドが対峙しているあの大型一体のみ。

 全部で3体いた大型のうち、1体は俺が、もう1体は2人のどちらかがすでに仕留めたらしい。


 2人が相手にしている個体は、牛の頭骨ではない。

 何の種族かは判別できないが、その体格は俺が倒したものに勝るとも劣らない威圧感を放っている。

 鉄のメイスを手にした今の状態でも、底を突いた体力で挑むにはあまりに荷が重いと感じさせる質量だ。


 スケルトンが、丸太のような腕をエルカンに向けて横薙ぎに振るった。

 エルカンは回避することなく、巨大な斧を盾のように構えてその豪腕を真っ向から受け止める。


「なかなかやるじゃねえか!」


 激突の衝撃を殺しながら、彼は愉悦に満ちた声を上げた。この状況で、笑っていられるのか。


 その隙を見逃さず、セドが音もなく距離を詰める。


「むんっ!」


 一閃。セドは剣を反転させ、刃の反対側――峰をスケルトンの胴体へ叩きつけた。

 凄まじい衝撃を受けた巨躯が、大きくバランスを崩す。


「これで終わりだ!」


 エルカンの雄叫びが夜気に木霊した。

 頭上に振り上げられた斧が、吸い込まれるようにスケルトンの頭部へ渾身の一撃を放つ。


 乾いた破砕音が響き渡り、巨大な頭骨が真っ二つに割れた。

 同時に、戦場を支配していた不浄な気配が霧散し、草原に静寂が戻った。


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