第20話:刹那、そして目覚め
眼前に大型スケルトンの質量が迫る。
刹那。
大型スケルトンの腕が爆発した。
不自然に軌道を歪められた剛腕が、俺の脇をかすめて地面へと突き刺さる。
実際には爆発したのではない。何かが着弾し、炸裂した衝撃で強引に動きが逸らされたのだ。
腕も、そしてスケルトン本体もいまだ健在だ。
「大丈夫!?」
アロンの声が響く。
手製の癇癪玉のような投擲武器をぶつけ、援護してくれたらしい。
開戦直後、集団に投げ込んだものと同じ代物だろう。
「あ、ああ、助かったよ、アロン」
一瞬の硬直から、泥縄で正気に立ち返る。
視界の端でアロンは、俊敏な獣型スケルトンをすでに二体仕留め、今まさに三体目を転倒させたところだった。
仲間を救いつつ、自身の獲物も着実に削る。
その無駄のない動きに圧倒される。
だが、アロンの加勢で体勢こそ崩したものの、大型の巨躯は沈んでいない。
俺の力では、この怪物を仕留めることは叶わないのか。
「いや……」
脳裏に、クステリの森で対峙したラズボードの記憶が掠めた。
あの時の相手は、このスケルトンよりもさらに巨大だった。
それを俺は退けたはずだ。
「来い!」
あの時と同じ、一メートルを超える長大な棍棒を念じ、呼び出す。
腕を地にめり込ませた大型スケルトンは、まだ復帰できていない。
やるなら今しかない。
「うおおおぉぉぉ!!」
全身のバネを使い、渾身の力でフルスイングを叩き込む。
棍棒が肋骨の檻を捉え、重低音とともに巨躯が地面へ崩れ落ちた。
「はあっ……はあっ……よし……」
肺が焼けるように熱い。だが、安堵して立ち止まる余裕など微塵もなかった。
早急に頭蓋を粉砕しなければ、死霊はすぐに再起する。ここで決めきらなければ、次を戦い抜く余力はもう残っていない。
「これでっ!」
倒れ伏す頭骨へ向け、棍棒を渾身の力で振り下ろす。
「っ!?」
衝撃が手に跳ね返り、棍棒が弾き飛ばされた。
胴体ですらあの頑強さだ。頭部の骨密度は、それを遥かに上回っている。
「くそっ!」
焦燥がせり上がる。このままでは再生を許してしまう。
思考が空回りし、選択肢が混濁する。
棍棒を叩き続けるか、だが腕の感覚はもう限界だ。エルカンやセドに後を任せ、一度下がるべきか。
逃げて……誰かに頼るのか。
それは、俺がこの場で「役立たず」だと認めることではないのか。
エルカンやセドなら、この硬質な骨をも断つ力があるだろう。
アロンは戦場を縦横無尽に駆け、的確なフォローをこなしている。
テオックは非戦闘員だと自称しながら、ラズボードの時も、そして今も、俺より遥かに立ち回れている。
複数のスケルトンを相手取り、翻弄し続けている。
俺には何ができる。俺は、ただの人間だ。皆が当たり前にこなすことが、俺にはできない。
……もしかしたら、俺はこの世界の人族よりも根本的に弱いんじゃないのか。
視界が、思考が、どろりと曇っていく。
俺にできるのは、有用かも怪しい棍棒を出すことだけ。
剣や斧が最初から手元にあれば、こんな能力に頼る必要すらない。
せめて、テオックが持つような金属製の武器があれば……。
待てよ。
そこで、ハッと何かに突き当たった。
曇っていた思考が、一気に晴れ渡っていく。
……もしかして。
俺は握っていた巨大な木製棍棒を手放し、天に向かって叫んだ。
「来い、棍棒!」
イメージするのは、これまで頼りにしてきた「木」の質感ではない。
俺の掌に重々しく実体化したのは、鈍く光る鉄の塊――重厚なメイスだった。




