第19話:不死者との乱戦
「おう!」
俺たちの咆哮が重なり、スケルトンの群れへ向かって地を蹴った。
村の境界を抜け、夜の草原へと躍り出る。
先頭を駆けるアロンの背を追い、エルカン、セド、そして俺とテオックが列をなして突き進む。
頭上には月が冴え、闇に慣れた視界には、草原の起伏が思いのほか鮮明に浮かび上がっている。
遠景でうごめいていた白い輪郭が、一歩ごとにそのおぞましいディテールを増していく。
距離が縮まる。敵がこちらの接近を察知し、ぎちぎちと不協和音を立てて向きを変えた。
その瞬間、アロンが右前方へと加速した。
一瞬、視線が追いつかなくなるほどの爆発的な脚力だ。
後ろを走る俺たちを瞬く間に突き放し、スケルトンの集団の右翼を斜めに切り裂くように横切る。
直後、集団の最前列二箇所で鋭い閃光が弾け、鼓膜を震わせる炸裂音が轟いた。
衝撃に煽られた数体のスケルトンが、なすすべなく後方へと吹き飛ばされる。
「任せたよ!」
「おうよ!」「うむ」
アロンの合図に、エルカンとセドが即座に応じた。
隊列の乱れた集団の右側から、二人が雪崩れ込む。
エルカンは重厚な斧を、セドは武骨で巨大な剣を振るい、体勢を立て直そうともがく骨の兵士たちを次々と薙ぎ倒しながら、群れの深部へと突進していく。
「いくぞヨウヘイ!」
「おう!」
テオックの檄を受け、俺もその背を追った。
「(来い、棍棒!)」
踏み込みの力を拳に溜め、脳裏で鋭くイメージを刻む。
掌に熱い感触が走った瞬間、実体化した七十センチの質量が空を裂いた。
横一閃。
吸い込まれるように命中した二体のスケルトンが、乾いた衝突音とともに宙に撒かれた。
手応えは驚くほど軽い。まるで枯れ木を叩き折ったかのようだ。
「スケルトンは頭を潰せ! それで沈む!」
テオックの怒号が飛ぶ。彼は倒れ伏した個体の頭蓋へ、無慈悲にメイスを叩きつけた。
「分かった!」
追撃に移ろうとした、その時だ。背中に焼けるような衝撃が走った。
「がっ……!?」
前のめりに倒れそうになる膝を、必死に踏ん張る。
振り返れば、いつの間にか包囲が縮まっていた。
背後に回り込んだ一体の拳が、俺の脊髄を正確に捉えている。
一つ一つの動きは緩慢だが、剥き出しの硬い骨で殴られる痛みは、想像以上に芯に響く。
「くそっ!」
痛みを怒りに変え、反転の勢いで体を捻る。
振り返りざま、手の中の棍棒を弾丸のように叩きつけた。いや、叩きつける瞬間に「放した」。
旋回する棍棒は標的の肋骨を粉砕し、さらに背後の個体をも巻き込んで地面に転がす。
即座に「次」を呼び出し、倒れた頭部へ振り下ろす。
――硬い。
手首に嫌な振動が残り、イメージの甘さを悟る。
即座に今の棍棒を思考の隅へ「破棄」。コンマ数秒で、より先端に重心を寄せた重量級を再構築した。
空気を孕んで重くなった一撃。
今度は手応えがあった。硬質な頭蓋が、完熟した果実のようにひしゃげ、砕け散る。
魔族の骨ということもあり、その形状は俺の知るヒトの骸骨とはかけ離れている。
その異形さゆえか、不思議と生理的な嫌悪感は薄い。これを遺骸ではなく、単なる「怪物」として認識できているからだろう。
だが、このスケルトンという魔物は、迅速に頭蓋を砕かなければ何度でも動き出そうとする。
隣ではテオックが、四足歩行の獣型スケルトンの執拗な動きに手を焼いているようだ。
加勢に回りたいが、次々と押し寄せる敵を前に、自分の身を守るだけで精一杯だった。
三体ほどを沈めた時、目の前の視界が急激に陰った。
三メートルはあろうかという巨大な人型の骨が、俺の前に立ちはだかっていた。
頭部は牛の頭骨を思わせる無骨な造形。
アロンが警告していた大型個体、ミノタウルスのスケルトンだ。
思考を走らせながらも、条件反射で棍棒を横にスイングし、その巨大な質量を殴りつける。
通常サイズなら粉々になっているはずの一撃。だが……。
腹部に命中した棍棒は鈍い音を立てて止まり、手に伝わる感触は、先ほどまでのそれとは根本的に異なっていた。
「ぐっ、硬い……!」
まるで微動だにしない石壁を叩いているかのような、絶望的な手応えのなさ。
「骨密度……ッ!」
驚愕が言葉となって漏れた。
大型スケルトンは俺の打撃など意に介さず、悠然と巨大な腕を振りかぶる。動きそのものは緩慢だ。
しかし、この質量が直撃すれば、ただでは済まない。
「まずい!」
逃れようのない巨大な腕が、視界を塞ぐように振り下ろされる。




