第18話:即席の戦友
…まずは、静かな緊張感の中で互いの素性を交わすことになった。
「オイラはアロン。
こっちのドワーフはエルカン、二人でパーティを組んでる。
一仕事終えてマーテンのギルドに戻る途中だったんだけどね」
少年のような幼い顔立ちをした人物が、自らをアロンと名乗った。
金色の短髪から覗く耳はわずかに尖っている。
ハーフリングという種族特有の小柄な体躯は、成人していてもなお子供のような錯覚を抱かせる。
その隣でどっしりと構える、髭面の男がエルカンだ。
黒い髪には緩い波がついており、陽に焼けた肌の色は濃い。
人族かと思ったが、その太い腕と独特の骨格は、彼がドワーフであることを物語っていた。
「我、名、セド・カラ。修行の旅、している」
リザードマンのセドが、低く響く声で応じる。
暗い青緑色の鱗に覆われた背には、一メートルを超える幅広の片刃剣が括り付けられていた。
使い込まれた剣の重みが、彼の旅の過酷さを静かに示している。
「俺はテオックだ。こっちの人族はヨウヘイ。よろしくな。まあ、俺たちは冒険者ってわけじゃないんだが」
テオックが手際よく紹介を済ませると、エルカンが白い歯を見せて笑った。
「おお、この辺りに人族がいるなんて珍しいな! しかもコボルトと一緒とは。よろしく頼むぜ!」
初対面の堅苦しさを微塵も感じさせない、フランクな物言いだった。
アロンが真剣な表情で一同を見渡し、口を開く。
「セド、テオック、ヨウヘイ、よろしく。
……じゃあ、早速どう動くか決めようか」
アロンが拾い上げた木の棒で、乾いた地面に楕円を描いた。スケルトンの群れが、緩やかな弧を描いて迫っている様子を大雑把に示していく。
「スケルトンはこんな風に横に広がって迫ってきてる。
ただ、厄介な武器持ちが三体。位置はこのあたりだ」
楕円の右奥に、三つの丸が書き加えられた。
「あいつらが持っているのは錆びた農具だけど…、横からあの質量で殴られると危ない。
まずはこいつらを叩きたいんだが……任せられるのはエルカンと……」
アロンは隣の相棒に視線を送り、次いでこちら側へと目を向けた。
そして、静かに佇むセドに問いかける。
「セド、君は剣士だよね。
リザードマンの頑丈さなら押し負けないはずだ。任せてもいいかい?」
「承知」
セドの短い返諾には、一切の迷いもなかった。
「俺たちは、どう動けばいい?」
状況に取り残されないよう、俺はアロンに尋ねた。
「君たちには周囲の連中を任せたい。
二人の背中を守ってやってくれ。オイラは後ろから援護する」
アロンは武器持ちを示す印の手前から、左側へとはじき出すような線を引いた。
「分かった。……ところで、スケルトンってのは、俺でも太刀打ちできる相手なのか?」
返事をしつつ、隣のテオックにずっと抱いていた疑問をぶつけてみた。
「ああ。生前より動きは鈍いし、衝撃を与えればすぐバラバラになる。
俺も戦いの専門家じゃないが、数体なら問題ない。
こないだのラズボードに比べれば、よっぽど気が楽だぜ」
テオックの口調には、悲壮感も緊張もない。
その軽い態度が、不思議とこちらの強張った肩の力を抜いてくれた。
「だが、俺には手頃な武器がないんだ。何か貸せるものはあるか?」
テオックの言葉に、エルカンが即座に反応した。
「予備が一つある。これを使え」
エルカンが荷物から鉄製のメイスを引っ張り出し、テオックへ放り投げた。
受け取ったテオックが、その重みを確かめるように数回振る。
「お、助かるぜ」
エルカンの傍らには、身の丈ほどもある大きな戦斧が立てかけられていた。
それが彼の主武器なのだろう。鈍い光を放つ刃は見るからに重厚だが、彼にとっては手慣れた道具に過ぎないようだった。
アロンが、今度は俺の腰元へ視線を落とした。
「あんた、そのナイフ一本じゃ骨相手には厳しいと思うけど大丈夫か?
オイラたちも、もう予備は持ってないんだ」
「ああ、俺は大丈夫だ」
確かに、刃物で硬い骨を断つのは効率が悪い。
だが俺には「棍棒」がある。叩き折る術があるなら、問題はないはずだ。
アロンは一瞬、怪訝そうな顔をしたが、それ以上は追及せずに全員を力強く見渡した。
「よし。オイラがまず右側に突破口を作る。
エルカンとセドはそこから突っ込んで武器持ちを潰してくれ。
二人はその後に続いて、溢れたスケルトンの相手を。
……宿場の皆さんは、撃ち漏らしがいたら食い止めてもらえる?」
宿の主人が力強く頷く。
気づけば、その後ろには一人のオークと二人のコボルトが控えていた。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた、宿場の住民たちだろう。彼らも覚悟を決めた面持ちで、静かに頷きを返した。
視界の先、草原の暗がりに白い輪郭が浮かび上がっていた。
カチカチと乾いた音を立てながら、骸骨の群れが確実に距離を詰めてきている。
「よーし、それじゃあそろそろ行こうぜ! 一暴れしてやるか!」
エルカンが野太い声を上げ、武器を手に取った。




