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第16話:俺が知らない異世界

 そして

「と言っても、実は何を話すかは特に決めていないのだよ」

 とさっきまでの空気が嘘のようにあっけらかんと言う。


「だから折角だから君の事を尋ねよう。マーテンには人族はほとんどいない。どうしてここに人族の冒険者が来る事になったのか、差し支えなければ教えてくれないかの」


 俺が着ている冒険者の服のせいで、リユードには冒険者と思われているらしい。

 冒険者ではないし、マーテンに来たのも観光のようなものだから、期待される答えは出来なさそうだ。


「実は、俺は冒険者じゃなくて、アステノから連れと一緒に来たんです」


「ほう……アステノとはクステリの森の中にある村じゃな。あそこに人族が居たとは」


 俺は異世界から来たことを伏せ、記憶喪失の異国の旅人という体で話をした。

 アステノでの生活と、マーテンには観光で来ている事も説明する。

 リユードとリヨは俺の話を興味深そうに聞いていた。


「ほほう、そうだったのか。アステノやここで見るものはどうかね?」


「ええ、今まで見た事無いものが沢山あって、新鮮で楽しいです。アステノでは……」

 話しながら、ふと思う。


 元の世界では代わり映えのしない毎日だった。家と職場を往復して、特に何かが変わるわけでもない日々。

 この世界に来て、死ぬ思いもしたけれど、目に入るものは何もかも新しかった。

 童心に返ると言うのだろうか。

 リユードやリヨとの出会いも含めて、今日は楽しいと素直に感じている。


 一通り話し終えると、リユードから

「次はこちらに質問は無いかね」

 と尋ねられた。


 この町に来てから気になっていた事が一つあった。


「マーテンの中央部を囲んでいる壁って、どうしてあるんですか?」

 テオックは知らないと言っていたが、リユードなら知っているかもしれない。


 リユードはすぐに答えてくれた。


「マーテンの歴史は魔獣との戦いじゃ。

 マーテンが開拓され、あの壁の内側だけがマーテンの町だったのだ」

 この辺りはかつて魔獣が多く、壁を作りその中で生活するしかなかった。

 そこから長い年月をかけて少しずつ周囲を開拓し、今のマーテンになったらしい。

 壁はその当時の名残であり、有事の際の防壁としても使われるようだ。

 他にも開拓によって広がった町には同様の壁があるケースがあるという。


「なるほど、そうだったんですね……」

 魔族にとっても魔獣は非常に危険な存在だ。

 人族との戦争が及んでいない場所であっても、戦いそのものは存在していた。

 テオックたちからある程度の話を聞いていても、俺の知らない事はまだまだ山ほどある。

 この世界の事をもっと知りたいと思い始めていた。


「リユードさんとリヨさんはずっとこの町に住んでいるんですか?」


「いや、実はここは別荘の一つでな、ワシらは各地を巡っているのだ」

 予想外の返答だった。

 この家はかなり立派で、半分屋敷と言っても良いくらいだ。

 それが別荘とは。


「今もこの町に少しの間滞在しているのじゃが、時期にまた次の旅に出るつもりじゃ」


「何か目的があるんですか?」

 何となく興味が沸いただけだった。


「目的か……うーむ、強いて言うなら、世界を見ることそのものかの。

 年寄りの道楽じゃよ、リヨはそれに付き合ってくれているのだ」


 リユードの言葉にリヨが反応する。

「私は旦那様と共に居る事が何よりも大切ですから」


 ここもその通過点のうちの一つという事か。


「どれくらい続けているんですか?」


「そうじゃな、旅を始めたのは魔族と人族の戦争が終わって少ししてだから、400年くらいにはなるか…」


 思ったより長い時間だった…

 俺の人生の20倍旅をしているのか、パワフルな余生の過ごし方だ。


「戦争が終わり、少ししてから人族の文化や、人族自体も徐々にこの国に浸透し始めた。

 そこでワシは人族そのものに興味を持って……」


 お茶を一口飲んでからリユードが続ける。


「いや、そもそもワシが見てきた世界そのものが狭かったのではないかと思ったのだ。

 だから、まずは人族の国、それからデュコウ以外の魔族の国、いずれも巡ってみようとな。

 リヨと出会ったのもこの旅の途中じゃな」


 懐かしむような表情でリユードが語る。

 リヨはその隣で静かに話を聞いていた。


「まずはレインウィリスに向かった。

 デュコウとの戦争が終わり、周辺諸国でも魔族と人族の対立は少なくなりつつあった時だが、

 れでも感情としてはまだ禍根が残っている時でな。

 当時はワシ一人だったから、交流の盛んだった王都ならまだしも、

 地方の都市では一人で旅する魔族への偏見も少なくなかったよ。

 しかし、それは魔族の側も同じ事じゃからな」


 リヨがそっとリユードを見た。

 そこからリユードが語ってくれたのは、俺がこれまで聞いたことも想像した事もないものばかりだった。


 燃える木、火炎樹が立ち並ぶ森。水晶に覆われた湖。

 巨大な竜族に半壊させられたが、百年近い歳月をかけて以前の活気を取り戻した人族の町。

 切り立った崖にある、魔族と人族が共に暮らす村。災厄を封じた伝説が残る山。


 どれも壮大な旅の一部なのだろうと思わされる。


 その話を聞きながら、クステリの森にある大樹の水場を思い出した。

 あそこもとても幻想的な場所だった。

 あの様な場所がこの世界には数えきれないほどあるのだろう。


 リユードが一息ついた頃、既に日が傾きかけていた。


「おっと、もうこんな時間か、ワシばかり喋ってすまなかったな」


「いえ、凄く面白いお話でした。正直、自分の目で見てみたいと思いました」

 リユードの顔が綻んだ。


「そうだろう、君にも見て欲しいとワシは思っているよ。

 勿論旅は危険も付きまとう、必ずしも美しいものばかりではない、それでも楽しいものだよ」


 リユードがリヨに目配せする。二人が立ち上がった。


「長々とこの老いぼれの話に付き合ってくれてありがとう」


 俺も立ち上がって頭を下げた。

「こちらこそ、楽しい話を聞かせてもらってありがとうございます」


 この後、宿への帰り道をリヨさんが教えてくれた。

 玄関を出る時にリヨさんがクッキーをお土産に持たせてくれて、俺は二人に礼を言って宿に帰った。


 ***


「旦那様があれほど楽しそうにお話されているお姿を見たのは久々でした」

 リヨに話しかけられたリユードが答える。


「そうじゃのう、あの若者を見て、昔会った人族の若者を思い出してな。何となく話したくなったのだ」


 リユードの表情を見て、リヨは僅かに微笑んでいた。


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