第14話:マーテンの情緒
マーテンでの二日目は、テオックが「折角だから自由に見て回ってみろよ」と言った事で自由行動となった。
朝食を宿で済ませ、テオックと別れて行動する。テオックは朝っぱらから酒場に行って呑むつもりらしい。まあ、それがテオックというものだ。
取り敢えず市場に行って、適当に散策してみる事にした。
***
市場は相変わらず人でごった返していた。
活気があり、露店は主に食材や食品を取り扱っている。他にも武器、防具、衣服、スクロールを売っている店もある。
昨日とは違う角度から歩き回るだけで、また新しいものが目に入ってくる。
多少の視線を感じながら露店を物色していると、声を掛けられた。
「そこの人族のにいちゃん、ちょっと見てってよ」
声の主はトカゲのような姿をした人、リザードマンだった。
店を覗いてみると、香ばしい匂いが漂っている。魚屋のようだが、すぐ食べられるよう串に刺された焼き魚がメインの商品みたいだ。
「うちの魚は早朝に湖で獲ってきた活きの良い魚だよ、どうだい?」
幾つか種類があるようだ。魚には詳しくないが、多分元の世界では見た事のない形状のものが多い。
やたら平べったい魚と、円柱のような形状の魚が特に印象的だった。
結局購入したのは、魚のすり身を野菜と混ぜて焼き上げたものだった。生魚も勧められたが、調理も保存もできないのでそちらは断った。
かじってみると香ばしくて、悪くない味だ。
魚屋を後にして通りに戻ろうとした時、何かにぶつかった。
「おっととと……」
ふらついて、尻餅をついてしまう。通行人にぶつかってしまったらしい。
「申し訳無い」
ぶつかった相手から声を掛けられる。
「こっちこそすいません」
見ていなかった俺にも非があるので素直に謝った。
「立てるか?」
手を差し伸べてくれている。その手を取って立ち上がり、相手の姿を確認する。
黒と青を基調としたローブのような全身鎧に身を包んだ、身長2メートルはある大男だった。
その男からは言い知れない威圧感のようなものを感じた。
単に体格の大きい魔族ならこの町には珍しくない。オーガやミノタウルスはこの男以上の体格だ。
しかしそれとはまた異なる雰囲気がある。オーラと言っても良いかもしれない。
ファンタジーもので言うところの魔王の幹部みたいな鎧がそうさせているのだろうか。
俺が呆気に取られていると、男に「どうした」と声を掛けられた。軽くエコーのかかった中性的な声だ。
鎧のせいかどうかは分からない。男の顔は兜に隠れて見えないので表情は読めないが、怒っている様子はなさそうだ。
「怪我はないか?」
「はい、大丈夫です……」
気圧されて情けない声が出てしまった。
大男は特に気にする様子もなく、「そうか」と言った。
「すまなかったな、それでは」
踵を返して数歩歩いた後、大男がこちらに振り返った。
「ど、どうしました……?」
「もし良かったら良い食事処は知らないだろうか?私はこの町に来て日が浅いから良く分からなくてな……この市場も悪くないが、ゆったり座って食べたいのだ」
俺自身マーテンに来たのは昨日だ。しかし食事どころなら思い当たる場所があった。
「あそこの通りを入ると、路地の中に【サンフィン】って店があります。とても美味しかったですよ」
大男はほう、と言い、「そうか、では早速行ってみよう、恩に着る」と足早に路地へ入っていった。
その姿を見送り、俺はまた市場の散策に戻った。




