08話 実は騎士ではありません
その日も、私はクレイトン侯爵夫妻とライナス様とともに夜会に参加しておりました。
「セルマがライナスと結婚してくれて、本当に良かったわ」
クレイトン侯爵夫人は誇らしげに私に言いました。
「ライナスがいつもすまないね……」
クレイトン侯爵は苦笑しながら、ライナス様に放置されている私に謝罪しました。
いつもライナス様は、私を放置していました。
夜会でもサロンでも、ライナス様は私をエスコートして必要な挨拶を済ませた後は、すぐに私を放り出してお友達のところへ行ってしまうのです。
今日もライナス様はお友達のところへ行ってしまいましたので、私は一人で放り出されていました。
義両親がいつも一緒にいてくれますから問題はないのですが……。
お友達とつるんでいるライナス様の周囲には、下位貴族の若い令嬢たちが群がっています。
氷の騎士という渾名で呼ばれる銀髪碧眼の美貌のライナス様は、私と結婚した後にも、相変わらず令嬢たちに人気が高いようです。
ちなみにライナス様の『氷の騎士』という渾名ですが……。
ただのイメージからの渾名で、ライナス様は騎士爵の位は持っていませんでした。
この渾名を聞いた私は、ごく自然に、ライナス様は騎士爵の位を持っていらっしゃるのだろうと思ったのですが、違いました。
ライナス様は、侯爵家の子息の教育の一環で剣術を習っていらっしゃったとのことです。
ライナス様が剣術大会に参加したときに、ライナス様が剣をふるうその姿が、まるで絵画のように美しいと大変な話題になったとか。
銀髪碧眼の美貌のご子息ですものね。
それで『氷の騎士』の渾名が付いたようです。
剣術大会の成績のほうは、今一つだったようですが……。
私の目には、ライナス様には女性を守る騎士らしいところは、どこにもないように見えます。
女性に対して横暴なふるまいをするライナス様は、むしろ、騎士に倒される側の人のように思えます。
でも、ライナスが騎士らしく見える人もいるのですね。
人の感性というものは本当に千差万別です。
「ライナスはいつまでも子供気分で、困ったものだ」
お友達とつるみ、若い令嬢に囲まれているライナス様の様子を眺めて、クレイトン侯爵は溜息を吐きました。
「私は気にしていませんわ」
私がそう言うと、クレイトン侯爵夫人は嬉しそうに微笑みました。
「さすがね、セルマ。そうよ、貴女はライナスの妻なんだからそうやって堂々としていれば良いの。何か困ったことがあったらいつでも私に相談してね」
「ありがとうございます、お義母様」
「これからもライナスをよろしく頼むよ」
「はい、お義父様」
クレイトン侯爵夫妻はとても優しくて良い義両親です。
ライナス様と離縁する予定であることを隠していることは、心苦しいです。
この優しい義両親から、どうしてライナス様のようなお方がお生まれになったのやら……。
ともあれ、クレイトン侯爵夫妻のためには三年間、誠心誠意、働く所存です。
スタンリー伯爵家に資金援助をしてくださり、助けてくださった恩人ですから。




