07話 お飾りの妻の仕事
屋敷内別居をしながら、私はライナス様の妻としての表向きの仕事をこなしました。
家政や社交などです。
家政については、幸い使用人たちは皆、私に協力的でしたので助かりました。
執事をはじめとする使用人たちは、皆、よく尽くしてくれました。
「では夕食のメニューはそれでお願いね」
「かしこまりました」
「皆が協力してくれて助かるわ」
「もったいないお言葉でございます」
「旦那様がああいうお方だから、使用人たちが私の言うことを聞いてくれなかったらどうしようかと思ったのよ?」
気安い間柄になった家政婦長に、私が冗談めかしてそう言うと、家政婦長は面白そうに笑って肩を窄めてみせました。
「奥様、そういうのはロマンス小説の中だけの話ですよ。平民が貴族を虐待したら縛り首ですから。そんな愚かなことをする者はここにはおりませんよ。もしそんなことをする者がいたら……」
家政婦長はニヤリと笑いました。
「すぐに私におっしゃってください。警ら隊に通報してやります」
社交も、義両親が好意的でしたので助かりました。
「王宮の園遊会のために、セルマに新しいドレスを仕立てなければね。また宝石商も呼びましょう」
義母であるクレイトン侯爵夫人は、行事の予定があるたびに私の元に訪れ、ドレスやアクセサリーなどを整えてくれました。
「クレイトン侯爵夫人、いつもありがとうございます」
「気にしなくて良いのよ。うちは娘がいないから、私は娘さんのお世話をしている方々のことがずっと羨ましかったの。娘と一緒にドレスやアクセサリーを選んだりするのが私の夢だったのよ。あなたが私の義娘になってくれて本当に嬉しいわ」
クレイトン侯爵家が主催する夜会やサロンに、私はライナス様の妻として出席しました。
もちろんクレイトン侯爵家の跡継ぎの妻として恥ずかしくない豪奢な装いで。
義母であるクレイトン侯爵夫人がドレスを何着も用意してくださり、アクセサリーなども侯爵家にふさわしい豪華なものを揃えてくださいました。
義両親は嬉々として、私を皆に紹介しました。
私の評判は上々。
「セルマ様はとても教養が高くていらっしゃいますのね」
「さすがは歴史あるスタンリー伯爵家の娘さんですわ」
私の実家スタンリー伯爵家は一言で言えば貧乏貴族でしたが。
歴史はありました。
そのため子供たちは伝統的な貴族教育をしっかりと受けておりました。
とくに年配のご夫人たちには、私の振る舞いは好ましく映ったようです。
「スタンリー伯爵家はこんな美しい娘さんを隠していらっしゃったのね」
「こんな清楚で聡明な娘さんがスタンリー伯爵家にいらっしゃると知っていたら……。先を越されてしまいましたわ」
スタンリー伯爵家に私という娘がいたことが、貴族社会にあまり知られていなかったのは、スタンリー伯爵家が経済的に苦しく、王都の社交界からは遠ざかっていたからです。
両親や跡継ぎの兄は、王宮の催しには出席していました。
ですが娘の私は、幼馴染のアーサーと結婚するのだろうと思われていたこともあり、社交界には出ていませんでした。
「美しい花嫁を迎えられて、クレイトン侯爵家も安泰ですね」
意外にも、私は容姿をよく褒められました。
私の容姿は平凡の部類だと思うのですが。
クレイトン侯爵家の財力で、ドレスでも宝飾品でも化粧品でも優秀な侍女でも、美しくなるために必要なものは何でも揃えることができましたので、それで私も磨かれたのでしょうか。
美しさは、お金があればある程度は買えるものなのかもしれません。
地味な私でも、宝石の輝きを借りればキラキラと輝けますもの。
侯爵家の爵位の威光の輝きも大きいかもしれませんね。
「クレイトン侯爵、そなたの息子は良い花嫁を迎えたな。教養も高い」
王宮の夜会で、私は国王陛下にお褒めいただきました。
「セルマのおかげで鼻が高いよ」
「さすがね、セルマ」
国王陛下へのご挨拶が終わると、クレイトン侯爵夫妻は私を褒めてくださいました。
ライナス様は……国王陛下へのご挨拶が終わった途端に、さっさとどこかへ行ってしまわれたので、この場にはもういませんでした。




