09話 ライナス様の様子が変です
私はお飾りの妻としての役目を淡々とこなしました。
お仕事ですからね。
夜会やサロンで笑顔を浮かべるのも、もちろんお仕事のうちです。
そして二年半が過ぎました。
ライナス様は三年で離縁するとおっしゃっていたので、離縁まであと半年です。
しかし……。
「これからは、食事は一緒に摂らないか?」
ある日、ライナス様が私にそう言いました。
嫌な予感はありました。
夜会やサロンで、ライナス様は最初のころは私を放り出してお友達のところへ行っていましたが。
だんだんに、私の隣にいるようになったのです。
そしてライナス様は、私のことをじろじろと見るようになりました。
嫌いな人にじろじろ見られたら不快でしかありません。
屋敷の中でも何故か偶然、顔を合わせることが増えました。
最初のころは屋敷の中でライナス様と顔を合わせることがなく、それなりに快適だったのですが。
最近はライナス様が無駄に近くにいて、無駄に顔を出すので鬱陶しく思っておりました。
ライナス様は私に、白い結婚を約束してくださいましたので、その点には感謝しております。
ですが私を酷く侮辱してくださいましたから、差し引きしたら対等でしょう。
「何故ですか?」
私がそう質問すると、ライナス様ははにかむようにもじもじとして、私のほうをちらちらと見ながら言いました。
「……食事をともにしたほうが連絡も取りやすいだろう。何かと都合が良いと思うのだ」
「執事もメイドもいますから連絡の問題はありません。それに食事をともにしては無駄にライナス様と顔を合わせることになります。ライナス様のご意向に反するかと存じます」
「意向に反するなんて、そ、そんなことはない!」
「ご迷惑をおかけしたくありませんので遠慮いたします」
「セルマ!」
「ライナス様のお時間を無駄にさせてしまっては申し訳ありません。私はすぐに退散しますのでご安心ください。では失礼いたします」
それからも、ライナス様の擦り寄りは続きました。
ええ、擦り寄りとしか表現しようがありません。
用もないのに、無理やり用を作って私を呼ぶこともしばしばありました。
宝飾品をプレゼントしたいからとか。
「侯爵家の嫡子の妻にふさわしい宝飾品が必要だろう?」
「お義母様が用意してくださいました宝飾品がありますので結構です」
良い茶葉が手に入ったから一緒に飲もうとか。
「珍しい茶葉が手に入ったのだ。一緒にどうだ?」
「ライナス様のお邪魔はいたしません。どうぞお一人でお楽しみください」
旅行に行かないかとか。
「良い温泉地があるらしい。行ってみないか?」
「社交の予定が詰まっておりますので、私は王都を離れるわけにまいりません」
そういった誘いは、もちろん全て断りました。
最後の半年間は本当に苦行でした。
積極的に話しかけてくるライナス様を、いちいちやり過ごさなければなりませんでしたので。
ライナス様は、ご自身の周囲に群がって来る女性たちが、積極的に話しかけて来ることをとても嫌っていらっしゃいましたのに。
ご自分は平気で、私に同じことをなさるのですよね……。
興味がない異性に、積極的に話しかけられることの鬱陶しさを、ライナス様はご存知のはずなのに。
ご自分がなさる分にはよろしいのかしら。
それともライナス様は、ご自分が私に興味を持たれていると思っていらっしゃるのかしら。
まさか?
私に暴言を吐いて侮辱しておいて、それで好かれているなんて思っていませんよね?
(嫌だわ……)
そして……。
苦行の残り半年を耐え、ようやくのことで三年が経過しました。
待ちに待った、離縁のときです。




