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8 ここ寒いです。あと苦しいです。

 地面に押し付けられる。手を後ろに回されて冷たくて硬いものに手首をわしづかみにされる。手錠だ。鳴き声が聞こえる。甲高くて、とても嫌がっている感じの声。両脇には二人の騎士いて、私をがっしりと掴んで容赦なく引きづる。足がかなり痛くて悲鳴を上げてもお構いなし。

 あまりの激痛に騎士の動きが止まった。しばらくして私は担架に乗せられた。というか縛られた。それからはふっと目の前が暗くなって、疲れたし痛いし……すごく、疲れた。



 ◇



 ぼうっとしていた。 何もない壁を見てそれから窓の外を見る。青い空。雲。何もない。天井を見る。隅に小さな蜘蛛の巣がある。

 牢屋。固いベッド。背の低い衝立と簡素なトイレ。殺風景で寂しくて、何にもない部屋は私みたいな泥棒にお似合いだ。反省して罪を償いなさい。と、こう無地の壁や床が言っているかのようにすら思える。


「寒い……」


 私は盗みを働いた。こんなことになるとは少しも思わずに、半ばとびつくようにしてルイドーから仕事を受けてしまった。


 頭はぐるぐると同じことを考える。反省しなさい。ごめんなさい。でも、許してくれますか?

 自動的な自問自答のくり返し。もちろん自分の犯した罪を自覚して反省しているつもりだけども、考えることは家に帰れるかどうかってことばかりだ。


 ……背中が少し痛い。足が折れてしまっているのでほとんど同じ姿勢でいるからだ。少しでも寝返りをしようものなら足がじっとしてろと言わんばかりの激痛で叫んでしまう。私はそのせいでベッドに押さえつけられていた。


 動けないからよけいに考えてしまう。リューイのこと考えてしまう。昔から竜導騎士になるんだってズメイの前を飛竜に乗って飛ぶんだって言ってた。私の近所には元騎士のお爺さんがいて、リューイはその人にたのみこんで稽古をつけてもらっていた。最初は断られたけど、何度も何度も話して家の家事を全部するならいいよって条件でね。


 朝早くに剣の稽古。余った廃材で造った模造の銃で訓練。走ったり、跳ねたり、重いもの上げたり下げたりして筋力を鍛え。そして満十八歳の誕生日。リューイはいの一番で騎士区に駆けこんで志願した。そして合格。


「騎士になった!」


 リューイが大喜びで私の家に飛び込んで来た日は今も鮮明に覚えてる。父さんは自分の息子のように大喜び。もちろん私も。お爺さんも喜んだ。干した大甲虫の肉スープを私が作ったっけ。私はリューイが誇らしかった。ときどき偉そうにしたりでムカつくこともあるけど、頑張って、頑張って、自分の思う夢の中に立ったんだ。私だって誇らしいと思う。


 牢屋に入って今日で三日。リューイは顔を見せていない。あたりまえだよね。まさか自分で幼馴染を捕まえるなんて少しも想像したことなんてなかったはずだもの。こられても私も困る。だってどんな顔して話せば良いかなんてわからないじゃない。


「ダメだ。寝よう」


 足は痛い。部屋には何もない。できることといえば寝ることだけ。そえいがいは自分のしでかした事ばかり考える。


「家に帰りたい」


 ぽつりと呟いて目を閉じた。私は布団の中に逃げることにした。





 王竜ズメイが飛んでいる。二対の巨大な翼で雲をかき混ぜ、長大な尾が山脈の上を掠める。空は青く、風は南から吹いている。私は空を飛んでいた。風が髪をかきあげて流れ、首に巻いた布が激しくはためく。


 王竜ズメイが吠える。心臓を揺さぶり、骨を震わせ、心を内から昂らせる。災害の前の遠吠えと違うその声にはやさしさと偉大さがあって、私を奮い立たせる。


 私は空を飛んでいた。翼があった。力強い羽ばたきの音。空気を裂く深い藍色の翼。私は飛竜にまたがっていた。体も深い藍色。前方に突き出る角は冠のようで優雅さがある。顎下には角ばって固いエラのような突起があった。全身は堅牢な甲殻と鱗に覆われいた。


 飛竜は小さく鳴いた。


『どっちに行く?』


 言葉は言わないけど私には聞いていることが自然とわかった。だからこう答えた。


「まっすぐ、このまま前進しよう」


 私は空を飛んでいく。気流を掴み、飛竜の背にまたがり、生暖かい……なま……なんか苦しい。突然に飛竜が大きくなり私を呑み込む。ちょっとまって、なんでよ。苦しいって―。


「く、苦しい……」

「起きろ!」

「なんか臭う……って、え? えぇ?」


 気が付くと牢屋の中には騎士がいる。一人は知らない人で、もう一人はリューイ。まったく気が付かなかった。ちょっと軽く寝るだけのつもりが深く寝ていたみたいだ。でも、それよりも……それよりもまず、これはいったい……なんなのだ? 私にお腹にいる謎の生き物は。


 くりっとした目とぷっくりとしたお腹と尻尾。全体に丸みのある体は深い藍色。私に腹にのっかって満足そうに咽喉を鳴らすかわいらしい生き物だ。

 リューイの隣の騎士はおじさまである。その人が静かに口を開いた。


「非常に不本意ではあるが……」


 不服そうなためを息一つ吐き出した。


「君にまかせることにした」


 うーん、なんの話だろう。


「ラキ・トラポルト。この飛竜が育つまでの間。君を臨時飼育係とする」

「りんじしいく……ってなんです?」

「そしてその管理、監視役にこの竜導騎士リューイをつける」

「は? えっと……どいうことです?」

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