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9 なるほど、わからん。なるほど?

 飛竜とは王竜ズメイを守る盾、そして自ら道標となる存在である。中略。


 飛竜とは異なる食性や形態をしており、王竜ズメイと同じ血をもちながら別種ともいえる生き物である。中略。


 ズメイは二対の翼と体内のガスで飛行する。対して飛竜は一対の翼のみで空を飛び、体内の可燃性のガスは飛行ではなく攻撃に使われる。中略。


 ズメイは脚をもたないが飛竜には脚があり、地上に降りた際には翼と脚を四足獣ように動かし、尻尾で平衡を保ちながら走ることができる。中略。


 しばしば我々はその強い体に甘えてしまいがちだが彼らも万能ではない。甲殻には汚れがたまりやく、彼らがきれい好きといっても限界がある。こまめに手入れをしてやる必要がある。放っておけば不衛生から病気になる可能性も高くなる。竜略。


 飛竜もまた生物であることを忘れてはならない。ズメイがほぼ水分しか摂取せず、また昼夜問わず連続した飛行できるのに対し、王竜の眷属であっても飛竜らも人と同じように充分な寝食を必要とする。中略。でなければ王の盾、そして剣として役目を果たせない。人は彼らが十全であれるよう配慮してやることが――。


 びりりと紙が破けた。


「あっ! あー……」


 本をめくる手が不意にぶれてしまった。まったくの不意打ち。ページが下から上に、それもけっこうな破け方をしてしまった。


「貴重な本だって言ったじゃないか」


 リューイが呆れた口調で言う。わたしのせいじゃないのに。あっても二割……いや三割くらいってことにしてほしい。


「わかってるよ……。もう! 君のせいだよ!」


 七割の原因である張本人、いや犯人に向けて文句を言ってみる。犯人は少し首を傾げたけども、まったく気にしていないどころか理解もしていないって様子だ。それもそうだ、だって飛竜なんだもの。


 飛竜の子どもはベッドに腰をかける私の隣に陣取っていた。そんでもって私の太腿に顎を乗せてご機嫌に咽喉を震わせている。振動が脚を震わせていたいて少し心地よいけども、折れた左足に乗せられなくて助かったとも思う。


 この子、仮称おチビの飛竜は急に頭突きしてくることがある。頭突きというとすこし強い表現かもしれない。どちらかといえば、額をぐいっと押し付けるような感じに近い。理由はわからない。ただなんとなく察すれるものがあるとすれば、私がずっと本とにらめっこしていることが気に食わなっかのだろう。


「はぁ……」


 本の破れた個所に触れる。これって直せるのかな。ドアだったり、配管だったりは直したことあるけど本についてはわからない。糊でも塗って張ればいいのかな。するとおチビがまたぐいっと私の肘を押した。ごめんて。


「やっぱり構ってほしいのかな」


 本から手を放して頭を撫でてやる。おチビは青い目を細めて満足そう。撫でる手を止て離すとぱっと大きな目を開けて見せた。縦長の瞳孔で屈託のない視線が私に向けられる。これはなんて思ってるかわかる。「もっと撫でて」だ。愛らしい眸で私を見つめられてしまっては撫でざるを得ない。卑怯なやつだ。


「その本には飛竜の育て方は書いてないってことは他の騎士たちも確認済み。もういいだろ。また破ける前に返してくれないか」

「私はちゃんと読んでないし、見落としてるかもしれないでしょ。それになにが参考になるかもわからないんだから」


 我ながら苦しい言い訳だけど、読みたい気持ちは確かだ。

 これは貴重な本らしい。飛竜に関することが書かれている。といっても大人の飛竜についての扱い方や訓練法などが中心で、飛竜の子育てについての記述はどこをみても見当たらない。目次にもない。リューイの言っていることは本当みたいだ。下巻でもあるのかな?


 撫でる手を止める。そっと本に手を伸ばす。丸みのある体がすっくと立ち上がる。「そんなの放っておいて僕にかまってよ」と幼い飛竜は言っている……たぶんだけど。ずっとこんな調子だ。

 幼竜はぷっくりとした短い尾を左右に小刻みに振りながら、読ませないぞ。とばかり小さくはね、それからかわいらしい小さな額をこちらに向ける。ああ、これは頭突きする気だな。


「……わかった。読むのは止める。また破きたくないし……」


 本をリューイに手渡したところ。あからさまに大げさなため息を返された。ごめんて……。

 空いたその手で幼竜を撫でてやる。幼竜は満足げな表情でまた顎を私の太腿にのせた。咽喉をゴロゴロと鳴らし始めている。これはどんな気持ちかわかるよ。心地いいってことだ。


「ねぇ、これっていつまで続くの?」

「何が?」


 リューイはぶっきらぼうに返事をした。


「この子の親代わりのこと。飼育係」

「知らない」


 そういうとリューイは牢屋から出て本を返すために別の見張りの騎士のところへ歩いて行った。

 リューイは一応、会話はしてくれる。けど、まだ怒っている。言葉の節々に刺々しいものを感じるのだ。もちろん犯罪をした私が悪いことはわかってるから責められない。正直なところ、かなり気まずい。そういう意味で言えばそばに幼い飛竜が一匹ついていてくれるのはかなり心強い。気まずい空気もいないよりは絶対に良いし、多少は空気が柔らかい……気がする。


 そもそも、どうして私が幼い飛竜の世話をすることになったのか。つい昨日のことだ。なんだか寝苦しいし、お腹のあたりが重いって違和感で目覚めた私。気がつけば一匹の幼竜と二人の竜導騎士団が傍にたっていた。狭い牢屋に三人も集まればさらに狭い。そのなかで狭くなさそうなのはおチビくらいなものだった。


 偉い感じの男の竜導騎士の人が一歩前に出る。短く切った髪。がたいがよくて日に焼けた肌と顔に刻まれた深いしわ。身に着けいている軽鎧が素人目にも他の騎士たちの物より上等なのだとわかる。どこかで見た気がする……。


「自己紹介が遅れた。私は竜導騎士団長ハーグというものだ」


 そうだ、騎士団長! 騎士の中で一番偉い人だ。合同葬儀にだって来ていたのに忘れるなんて。とっても芯のある感じの声をしている。そしてこんなことを口走った。


「この子の世話を任せたい」


 この子……とは? そうそう、”りんじしいくがかり”ってなんなのだろう。とこの時は頭が混乱していた。もちろん寝起きだったのもある。


「本当なら泥棒の君にかからわせたくはないが、これも飛竜を無事大人にするためだ」


 はぁ、と騎士団長はまたも大きなため息を一つ。私のお腹の上ではおチビが咽喉をゴロゴロ、鼻をふんふん。騎士団長ハーグはそんなことは気にせずに続けた。


「どうやらこの飛竜は君を親だと勘違いしているようだ。鳥が初めて見た生き物を親と思う刷り込みというものだな。まさか飛竜も同じとは。飼育舎へ運んだのだが、君がいないことがわかると落ち着きがなく、不安げに酷く鳴くものでな。何も食べようとしないし、水すらも飲まない。このままでは衰弱してしまう恐れがあった」


 三百年ぶりの新しい飛竜の子。それが餌を食べずも水も飲まず、ただ衰弱していくとなれば飛竜好き集団の竜導騎士団には耐えられないことだろう。……私ってそういう人たちからこの子を盗んだんだよね。

 竜導騎士団長ハーグの傍にリューイが椅子を差し出し、ハーグはそこに腰を駆けた。


「ラキ・トラポルト。修理屋の娘。夜間外出禁止令違反。許可なく卵に触れた竜卵接近接触禁止令違反。竜卵窃盗罪。高所を無暗に走り回り、その卵を不要に危険に晒したことによる竜卵安全管理違反。よって最高飛行高度からの自由落下刑に処すのが妥当である」


 最高飛行高度からの自由落下刑。息が、詰まった。血の気が引いていった。

 王竜ズメイは雲の下を飛ぶ。最高高度はそれよりも高い位置だ。そこからの自由落下とはつまり死刑を意味する。呑み込もうとした唾液が咽喉に詰まったように下がらない。声がでない。


「あぁ……であるが。これを保留とする」

「え、えぇ?」


 止まっていた呼吸が戻る。危うく自分で窒息の刑に処すところであった。

 騎士団長が幼い飛竜を指さした。


「その子が君を親と認識している以上、子が親を失うようなことは避けたい。君も親を失ったのだからその気持ちはわかるはずだ」


 とたんに胸に何かが刺さった気がした。忙しくして、隅に追いやっていた感情が心のうちから浮上するかのように。

 父さん。いつものように話をし、いつものように過ごしていたら、いつの間にかいなくなってしまっていた。私もこの子にはそんな思いはさせたくない。でも、泥棒だよ? そんなことを思う資格はあるのだろうか。


「取引しよう」


 騎士団長ハーグが姿勢を正した。つられて私も背筋を伸ばした。


「その子が立派な竜導騎士の飛竜として育ったなら。王竜ズメイの剣となり盾となるのなら。君の罪を許そう。どうかな?」


 私あこの子の親となれば罪が許される。なら受けるしか選択肢はない。この先も生きていけて、家に帰れるのなら。でも一つ確認したいことがある。


「ちなみになんですか……」

「なんだ」

「そのぉ、もしですよ? この子を立派な飛竜に育てられなかったら……えと、どうなるのかなーって……」

「保留を取り消すだけだ」


 そんなの取引って呼べる? やる一択じゃない。いやいや、元から選択肢なんて一つだけどさ! まぁそうだろうと思ったけどさ!


「わかりました……」

「よろしい。ではこの騎士を監視としてつける。なにか必要なものがあれば彼に言うように。リューイ。前へ」


 リューイがビシっとした姿勢で前に一歩出る。冷静な顔つきに見える。でも、不機嫌な表情が見え隠れしているような気がする。いや、それよりも、もっとちゃんと確認しないといけないことがある。


「あ、あの……」

「なんだ」

「あの……飛竜の育て方なんて、私わからないんですけど。教えてもらえるってことなんですよね」


 騎士団長ハーグはため息を漏らした。この部屋ため息でいっぱいにななってそう。


「それはわからん」


 わからん。ほう、なるほど、なるほど……うーん。どういうこと?


「幼竜の育て方に関する資料の殆どは失われているのだ。残念だがな」

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