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10 私を見る目。

 私は外に出ることにした。折れた左脚はまだ痛むけど杖があれば問題なく動けるくらいには治ったみたい。

 久々の外! 風の冷たさが心地よい良い。殺風景な牢屋にいるよりもずっとずーーっと気分が良いね。あんなところ戻りたくもないし。リューイが見張っているという条件付きであればどこに言ってもいいという許しもある。大罪を働いた泥棒にしては良い待遇なのかも。でも見張りが少なすぎないとも考える。


「保留ってこと忘れんなよ」

「あーうん。忘れてないよ」

 そうだった。私のアホめ。


 クウクウと背中の幼竜が鳴いた。訂正します。良い待遇なわけない。もしこの子を立派な飛竜に育てられなかったら保留になっている自由落下刑が執り行われることになっているのだから。死ぬ気で育てないとならない。


 私は牢にいる間に新しい背負子を作った。材料や道具はリューイに頼んで家から持ってきてもらえたんだ。もともとある背負子に箱をくっつけただけだけど、中は冷えないように干し苔を敷き詰めてある。蓋の代わりに布で覆えるようにしてあるので一応隠せる。


 おチビは箱に大人しく収まって鼻先だけを外に出している。時々、肩越しにあたりを見回して、しきり鼻をスンスンと動かしては、ささっと中に戻るを繰り返している。出るたび生暖かい鼻息が耳によくあたる。この子にとってはどんなにおいであっても新鮮なものみたいだ。


 可愛いやつだ。けども私の命はこいつの育ち具合に握られているわけなので素直に可愛いと思っていいのかわからなくなる。


「納得いかない」

「すぐに刑が執行されないだけましだ」

「それは……納得しようと努力してる。嫌は嫌だし。でも罪は罪なわけだし。納得してっていうと」

「ルイドーのことか?」

「それもあるけど」


 ルイドーのことも騎士団には話してある。でも行方はつかめていない。いったいどこにかくれているのやら。


「でも一番はそれじゃなくて」

「じゃぁ何についてだよ」

「ほら、飛竜の扱い方はわかるのにさ。どうして育て方だけわからないのって」

「そりゃ王竜が飛竜を生まれなくなって長かったからだろ。子供が生まれなけりゃ知りようがないし」


 飛竜は王竜ズメイに次ぐ長生きな生き物だ。今いる飛竜はすべて三百歳を超えていてる。数は全部で、確か二十頭ほどだ。


「それもそうだけど……資料の一つくらい残っててもいいじゃない」

「大昔に燃えちまったり、災害で紛失したりしたからな。それも一回じゃないし」


 昔に背中で火事があった。という話は聞いたことがある。なのでここでの火の取り扱いはみんな気を遣う。


「記録がないってことはさ。私が残さないといけないってこと。だよね」

「そうなるんじゃないか」 


 記録を残し、後世に伝えていく。責任の重みがさらに増してきた。なんだか背中のおチビがさっきより重いような気がするんだよね。


「少し、休憩させて。疲れたよ」

「まだ十分もたってない」

「病み上がりだよ」

「自業自得だろ」


 ぐさりときますよ。その言葉。


「そうだけどさ、背中に背負ってるこの子だっているし」


 おチビが、クウと鳴く。


「持てたら持ちたいとこだけど。おまえから離そうとするとそいつ泣き喚くじゃないか」

「なら分かるでしょ。身重なの!」

「おまえの子じゃないだろ」

「この子にとっては私は母親!」

「そもそも身重の意味も違うし。泥棒だろ」

「とにかく休ませて!」

「あーもう、うるさい。さっさと休め」


 私は通路に備え付けられた長椅子に腰をかけた。この街の大通りである主要通路は今日も人で賑わっていて、活気であふれる場所だ。串焼き屋さんに、濾水屋さん。虫肉屋さん。だめだ、食べ物ばかりに目が行くよ。


 背中でごそごそと音がした。おチビは恐る恐る顔をのぞかせて周囲をうかがい始めた。多くの人が行き交う様子におっかなびっくりといった感じだ。道行く人はみな忙しく、誰も私の背中に飛竜の子どもがいるとは気が付かないようだ。


 この主要通路はちょうとズメイの背骨に沿って敷かれている。なのでこの街で唯一の長くて真っすぐな通路だ。中心なので自然と人が多くなる。通路の両脇は左右対称に建物が並んでいて、それがまるで背ビレのようでもある。ということでここは背ビレ通りと呼ばれたりもする。ちなみに建物が左右で同じなのは重量を均等にすれば王竜ズメイへの負担が減るからってことだ。


 この背ビレ通りをまっすぐ、ズメイの頭の方へと歩く。向かう先は大人の飛竜たちのいるところ。竜導騎士たちの管理する騎士区の駐竜所。

 私が卵を盗んだ生産区は尾のほうで牢もそのあたり。騎士区へ行くには居住区域を突っ切っていく必要があり、距離にしておよそ四キロメートルだ。長い。普段はなんてことない距離なのにきょうはすごくしんどい。


 休憩もそこそこに再び移動開始。そしてまた休憩。足が折れていることもあってリューイは顔には出さないものの気にかけてくれている様子だ。もちろん、背中から離れようとしない飛竜のこともあるからだけど。だって私が転んだだらおチビも怪我してしまうかもしれないしね。


 ただ空気は良くない。ほぼ沈黙。こんなことは今までならなかった。もちろん喧嘩することがなかったわけじゃないけど。

 ふとある疑問が浮かんだので、その空気を払うべく言ってみる。


「そういえばさ」

「なに?」

「この子は貴重な飛竜なわけでしょ?」

「ああ」

「私は犯罪者なわけでしょ」

「ああ」

「なのに見張りの騎士はリューイだけでじゃない。それでいいのかなって」

「オレだけじゃ足りないってか。不足ってか?」

「いや、そういうじゃなくて。……だってリューイが頑張ってるのは私だって知っているし」


 リューイは努力家であることを私は知っている。だからリューイが騎士になったときは一緒に喜んだ。私はそんな彼を裏切った。


「ほら、私の足っていまこんなでしょ。逃げらっこないっていうか。そもそも逃げるのだって難しいのに。でも犯罪者なのに一人だけで、しかも貴重な飛竜を預けてさ。別にリューイの実力がないとか、そういうわけじゃなくて……」


 精一杯に文句をいっているんじゃなくてただの質問ですよ。と伝えようとする。なんでこんな質問したんだか、聞かなきゃよかったよ、こんなこと。気まずくなるだけならさ。


 リューイは頭を掻いた。たぶん、私がリューイの実力を疑っているってわけじゃないと分かってくれているのだと思う。ただ相手が私で、その私が犯罪者ってこと。気持ちの整理がつかないんだ。きっとそうなんだと思う。

 リューイは咳払いして竜骨銃を担ぎなおすと真上を指さした。


「あそこ、見えるか」


 空のうんと高いところに小さな黒い点が見えた。


「監視の騎士とその飛竜だ。常にオレ以外の監視の目はちゃんとある」


 目を細め、じっと見つめる。たしかに時折羽ばたいているのがわかる。


「あそこの人、見えるの? あの距離で? 私を? というか教えてもいいの?」

「見えてるし、聞かれたから答えたんじゃないか」

「うん、まぁそうだけどさ」

「教えちゃだめとは言われてないし。知ったところで逃げられるわけもないからわざわざ口止めする必要もないんだろ」


 あー、確かに。それもそうだ。逃げようったってもう無理だろう。あの夜に警備竜は私のにおいをしっかりと覚えているだろうし。


「でも騎士ってすごいね。あんな高いところからこれだけ人や建物がある中で私だけを見分けるなんて」

「騎士だって見えてないよ」

「そうなの?」

「見てるのは飛竜の方だ」

「飛竜が? 私を?」

「そ、飛竜の目がおまえを追ってるってわけ」

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