第15話 笑う少年
約束通り圭一たちは解放された。
目隠ししたままヘリコプターに乗せられ、大阪駅周辺で降ろされたのだ。
「すいません、私のせいで……私が行こうと言ったから」
「灰原さんが謝ることないよ」
「いや、でも、阿久教授を助けられなかったし、パスワードまでも……」
「でも我々は助かったしこれで良かったと思う」
パスワードを偽ることもできたがJの冷徹な眼を見てそれはやめたのだ。偽物だと分かると殺されていただろう。その場で偽物だと分からず解放されたとしても血眼になって追ってくるだろう。そういう眼だったのだ。だから教えるしかなかった。パスワードが分かった途端、殺されるというリスクはあったが、なんとなくそれはないように感じた。冷徹だけど約束は守るタイプに見えたのだ。
これで良かったのだ。そう思うしかない。
「菅原さんの言う通りこれで良かったんですよ。おかげで私は殺されずに済んだ」
そう言う鳥羽の瞳は潤んでいるように見えた。玩具だったとは言え、銃口を口に突っ込まれたのだ。無理もない。
これ以上Jとは関わらない方が良いだろう。
ただの一般人である我々にはこれ以上は何もできない。
気持ちとは真逆で天気は快晴。圭一は眩しく輝く太陽を見上げた。
爆発。また起きた。もう慣れた。一体次は何が現れるのだろうか?
圭一は前方の歪んだ空間をじっと睨んだ。
Jから解放されたと思ったら今度は訪問者。よく出来た話だ。
ヌルッと大きな腕みたいなものが現れた。また巨人系か。何で巨人ばかり現れるんだ?
それにしても今度のはデカすぎる。
歩き出した。まるでビルが歩いているみたいだ。周囲の建物を豪快に破壊しながら前進。問題なのはこちらに向かって歩いているということだ。歩くスピードはそんなに早くはないがそろそろ逃げた方が良い。
圭一たちは自然とその場から遠ざけようと歩を進めた。
今のところこの一体だけなようだ。
たまに振り返りながら訪問者との距離を把握する。
「あれ、誰かいる。子供だよ」
灰原が指を指しながら言った。
確かに訪問者の進行方向に少年がいる。少年は訪問者の方を向いている。恐怖で体が硬直しているのか微動だにしない。このままでは訪問者に踏み潰される。
助けなくては。圭一がそう思った瞬間、突然、訪問者が走り出した。地響きが伝わってくる。
一瞬の出来事だった。あっという間だった。誰も声さえ出なかった。少年は訪問者に踏み潰された。目の前で小さい子供の命が奪われた。仕方がない。今はそう思うしかない。
でもなぜ急に訪問者は走り出したのだろうか? 今は少年を踏み潰したまま静止している。
ん? 何か変だ。訪問者の様子がおかしい。圭一は言葉を発した。
「何か巨人の様子が変だ。痙攣しているように見える」
「私もそう言うふうに見えます」
不思議そうに灰原も答えた。松田も鳥羽も不思議そうに訪問者を見つめる。
「うわっ!」四人が同時に声を出した。
訪問者の口みたいなところから何か液体みたいなドロドロしたものが吹き出した。紫色の液体。人間で言う血液みたいなものだろうか。
「一体何が起きたんだ?」
松田が興奮気味に叫んだ。
「いや、全然わかりません。こんなの始めて見ましたよ」
圭一も松田の興奮に応えたるように声を発した。
「それに何なんだこの匂いは」
松田の言う通りひどい匂いがする。魚が腐ったような強烈な異臭。吐き気がする。
異変はそれだけではない。
訪問者の体に徐々にヒビが入っているように見える。そのヒビからも紫色の液体が染み出してきた。時間と共にその量は増え、噴水のように液体が吹き出す。
ついに全身が粉々に吹き飛んだ。
しかしその跡に何かがいる。
あの少年だ。生きていたのだ。
いや、ありえない。あんな巨体に踏みつぶされて生きているはずがない。この少年があの訪問者を粉砕したのか?
背中を向けたまま少年は佇んでいる。
ゆっくりと少年はこちらに振り向いた。
不気味な笑みを浮かべている。
「――も、もしかして」
「何です、菅原さん?」
「あの少年も異世界から来たんじゃ……」
その言葉を聞いて皆が圭一に視線を送った。
少なくても人間ではない。人間ができるようなことではない。そう考えると訪問者と考える方が自然だ。
彼は訪問者だ。間違えない。




