第13話 覚悟
「灰原さん、一体何故あんなことを……あいつらと手を組むなんて」
「もちろん手を組むつもりなんてありません。私皆さんに言ったので……」
「言ったって、何を?」
「この事態を救えるのは私たちだけだって。ダメ元でも私たちしかいないって」
確かに灰原がそう言ったのを圭一は聞いた気がした。
「だからってそこまでしなくても。彼らに関わると殺される」
「分かっています。でも、阿久教授を助けたいんです。この世界を救いたいんです。何もしないと事態はより悪化すると思います。現に悪化していますし……。彼らに殺されるよりあの怪物たちに喰われて死ぬ方が嫌です。それに誰かが解決しないといけないんです。それが我々なんですよ。でも無理には言いません。私一人でも行きます」
「さすがにそれは……」
圭一は男としての当たり前の返答をした。
「阿久教授を救うって何か策でもあるの?」
「い、いや、それは……」
灰原の内に秘めた正義感がどっと溢れて奴らに言ってしまったのだろう。無策でも仕方がない。圭一自身は逃げようとしたのだ。到底灰原を責めることはできない。
「意外に彼らは人を殺すほどの悪ではないかも知れないですよ」
「どうしてです、鳥羽さん?」
「ほら、なんだかんだであのJって男、阿久教授を殺さなかったし」
「それはただ阿久教授にはまだ生きてもらわなくてはいけなかったからだと思いますよ。用が無くなったら分かりませんよ」
「私も菅原さんと同意見ですね。彼らは金銭的なものより世界を支配したいと言う欲求の方が強そうだ。そういう奴らの方が怖いと思いますよ」
松田の返答に皆が黙り込んだ。言われて見ればそうだ。
「それでもいいです。私は行きます」
灰原の意思は堅いようだ。男ら三人は顔を見合わせた。
松田は「外の様子を見てくる」と言って出て行った。気分転換なのだろうか。圭一も外に出たい気分だったが先を越されてしまった。
しかし松田はすぐに戻ってきた。
「またデカイ怪物がいる」
圭一たちがいる事務所は地下。そのせいか訪問者の出現に気がつかなかったようだ。
「それに人もほとんどいない。みんなどこかに逃げたようだ」
「ここに来そうですか?」圭一が聞いた。
「いや、幸い事務所とは反対方向に進んでいる。逃げるなら今のうちですよ」
ちょうどその時圭一のスマホがなった。あいつだ。
「もしもし……」
「その声は圭一君ですね。そろそろ着きますよ。正確な場所を教えていただけますか?」
仕方がない。圭一は場所を教えた。
徐々にヘリコプターの音が聞こえてきた。地下の事務所からでも十分聞こえる音だ。
圭一たちは外に出ることにした。
数分後、事務所のビルの前の国道にヘリコプターが止まった。車など走っていない。
ヘリコプターからJが出てきた。
「待たせてしまい、申し訳ないですね。はじめまして、Jと申します。えーと、圭一君は……?」
「私です」
「おやおや、君が圭一君ですか。思ったより若いですね。そして隣の女性が茜音さんかな」
「そ、そうです」
「いやいや、べっぴんさんですね。声からでも十分分かりましたよ。で、残りのお二人は?」
「鳥羽です」
「松田です」
「なるほど、なるほど。自己紹介ありがとうございます。ここに居てはいつ怪物に襲われるかは分かりません。近くに我々の施設があります。そこに移動しましょう。ただ場所は秘密なので少しの間目隠しをさせていただきますよ。安心してください。何もしませんから」
彼らについていくとはまだ一言も言ってない。心の準備ができぬまま圭一たちはヘリコプターに乗った。これでもう逃げられない。目隠しの中、圭一はどうにでもなれと言う気持ちが込み上げてきた。
着いたようだ。緊張もあってか時間の感覚が分からない。ヘリコプターに乗ったのも初めて、しかも目隠しもされていたのでいまいち速度感が分からない。しかしそんなに長くは乗っていなかったので大阪からはそんなには離れていないだろう。
目隠しをしたまま下ろされ、建物の中に誘導された。そこで目隠しを外しても良いと言う許可が出た。
真っ白の空間にエレベーターだけがある。
Jがエレベーターに乗るように言う。
静かに降りていく。エレベーター内には階を表示するところがない。しかし結構深く降りていることからしても地下に間違いない。
エレベーターの扉が開く。真っ白な廊下が続いている。かなり広い。こんな施設があるなんて……。
しばらく廊下を歩くとJはあるドアの前で立ち止まった。
「この中に入っていただけますか」
部屋の中から男が二人出てきて圭一たちを招き入れた。Jの手下だろう。しかし阿久教授といたスーツの男ではない。一体何人くらいの組織なのだろうか。全く検討もつかない。
部屋の中も真っ白。白すぎて眼がチカチカする。
「ここまでお疲れ様です。ここが我々の施設です。とは言っても施設はここだけではありませんけどね」
「一体何者なんだ?」
「気になりますよね、圭一君。でも安心してください。徐々に分かってくると思います」
「徐々にって……」
「徐々には徐々にですよ。それより圭一君と茜音さんがFAPIGシステムの開発をしていたんですよね? 鳥羽さんと松田さんも同じ開発をしていたのでしょうか?」
鳥羽はサイエンスライター、松田は超常現象研究家であることを自分自身で明かした。
「なるほど、なるほど。開発者ではないんですね。それはいささか困りましたね」
「困るって何がだ?」
「圭一君、私はね、結構合理主義者なんですよ。必要なのは開発者のみ。それ以外は不要なんですよ。てっきり皆さん開発者だと思ってました」
「一体何が言いたいんだ?」
「不要なものは処分しないとね」
Jがそう言うと手下の男二人が鳥羽の両脇を掴んだ。「何をするんだ」と鳥羽は叫ぶ。
「確か我々に手を貸すんでしたね。つまり我々の仲間になると言うことですね。それなら早速手を貸していただきましょう」
Jが自分のスーツの内ポケットから拳銃を取り出した。Jはそのまま歩き、圭一の背後から抱きつくような形で拳銃を圭一に無理やり握らせた。
「一体何をするんだ」
「安心してください、圭一君。拳銃は初めてでしょう。私も一緒に握ってますから」
灰原と松田がJを抑えようとしたが別の手下たちもやってきて阻止された。
Jは片方の手でサングラスを少し下げ、背後から圭一を覗き込む。冷酷な鋭い目つき。それに白い不気味な眼。圭一の心拍数はみるみる上昇した。自分でも心臓の鼓動が聞こえてくる。
Jと一緒に握られている拳銃は鳥羽の額から徐々に口元に降りて行った。
「知っていますか、圭一君? 意外と頭蓋骨は堅いんですよ。だからね、確実に殺すなら口に銃口を突っ込んで引き金を引いた方がいいんですよ」
暴れる鳥羽を無視してJは話し続ける。
「いいですか、圭一君。後はこの引き金を引くだけです。どうです、できそうですか? 安心してください。無理そうなら一緒に引きましょう」
「おい、やめろ! 頭イカれてるぞ!」
圭一は叫ぶが、Jの冷酷な目つきがそれをかき消す。
「圭一君、覚悟はできましたか?」
圭一の心拍数は絶頂に達した。




