第11話 東京壊滅 ―前編―
ただただテレビを眺めていた。
それしかできなかった。
誰も何も発しない。言葉を忘れたのだろうか。
テレビでは『東京壊滅』と言う文字と映像だけが流れている。ヘリコプターからの映像だろう。東京の街が綺麗に吹き飛んでいる。ここもテレビの向こう側も静かだ。まるで時が止まっているみたいに。
段々と全身の力が抜けてくる。これが絶望という感情なのだろうか。重力に負けるように膝が床に降りていく。他の三人も同じだ。
一体何が起きたのか。訪問者が現れたのだろうか。しかし訪問者は見当たらない。それに異世界が現れる時の爆発は内向きだ。すべてが吸い込まれる。しかし映像を見ている限り普通の爆発みたいに瓦礫などが散乱している。
……いや、待てよ。もしかして、ただのテロなのか。異常な事態を危惧した悲観論者たちが所構わずミライル攻撃しまくっているのだろうか。第三次世界大戦の勃発……。いやいや、それは考えすぎだ。こんな時に戦争だなんてありえない。異世界の云々が絡んでいると考えた方が自然だ。とは言うものの何が何だかさっぱりわからない。何も我々の世界には這い出てきていない。見えないだけなのか……。もしそうなら最悪だ。
もはや我々には何もできないかも知れない。さすがにもう無理だ。体力というより精神がもたない。ついこの間まではごく普通の生活だったのにあっと言う間に壊れてしまった。今まで何のために生きてきたのか。一生懸命仕事に励んだ。天職だ。時間を忘れ研究に没頭した。それが世界を破滅させる原因だなんて。世界を破滅させるために働き、毎日生きてきたのか。何が異世界だ。異世界だなんて馬鹿らしい。夢なのか。いや、夢に違いない。夢ならそろそろ覚めてくれ。疲れたよ。
沈黙がどれくらい続いていたのかわからない。「どうなっちゃうのかな……」灰原だった。涙声だ。「何とかなるよ」と声をかけてあげるのが優しさだろうが無責任にそれは言えなかった。初めは何とかなるとは思っていた。しかし、状況は時間と共に悪化している。何とかなるとは到底思えない。先輩として男としてこう言う時にどう声をかければいいのだろうか。灰原は俯いたままだ。灰原の足元は涙で濡れていた。圭一はその様子を見ることだけしかできなかった。少なくとも男としては失格だろう。
ニュース番組のMCが何か話している。どうやら続報らしい。
MCの声が震えている。
アメリカで発生した生命体が人間を喰っているらしいのだ。しかも分裂し増殖。アメリカ軍が攻撃しているらしいが分裂のスピードが早すぎて攻撃が追いつかないらしい。
あはは。だんだん笑えてきた。本当に終わった。喰われて死ぬか爆発で蒸発して死ぬかのどちらかだ。あっけないもんだ。どうせ死ぬなら爆発の方がいい。喰われるなんてまっぴらごめんだ。
あはは。精神が崩壊して来たかもしれない。
映画なら正義のヒーローが現れて解決してくれる。もしくは宇宙人が現れて、貴重な生命が存在する地球を救ってくれる物語でもいいだろう。分かってる。そんな都合のいいことは起きない。灰原の言う通り、本当にどうなるのだろう。
テレビはまた東京の荒廃した映像に切り替わった。
黒いヘリコプターが飛んでいるのが見える。一台だけだ。この映像もヘリコプターからの撮影らしいが、黒いヘリコプターも何処か別の放送局のヘリコプターだろうか。映像はそのヘリコプターを追いかけた。撮影しているヘリコプターも不思議に思っているのだろう。
黒いヘリコプターは地上に着陸。その様子をホバーリングしながら撮影している。虚無感のまま圭一はただテレビの映像を見つめた。
扉が開いた。
そこから出てきた人間を見て激震が走った。死にかけ、冷え切った精神に強烈な熱を感じた。崩壊した精神が一瞬で再構築した。
スーツの男たちだ。サングラスの男もいる。やつらだ。あいつらだ。
サングラスの男は空を見上げ、彼らを撮影しているヘリコプターに視線を向けた。それから部下に視線をゆっくり移動。するとヘリコプターから阿久が降ろされた。その様子をサングラスの男はタバコの煙を吐きながら鑑賞している。撮影されているのを全く気にしていないようだ。
サングラスの男はまた空を飛んでいるヘリコプターに視線を向けた。圭一は、テレビを介して男と目と合っている気がした。ゾワっと鳥肌が立つ。
サングラスの男はスマホを取り出し何処かに電話をかけている。
圭一のスマホに着信。その音にみんながビクっとした。
知らない番号だ。
もしかして、この番号の主って……。
いや、まさか。番号は知らないはずだ。
圭一は意を決して電話に出た。
『も、もしもし――』




