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転生したら太子だったんだが、なぜか後宮が私と息子の禁忌の恋に沸き立っている  作者: zhaozhao


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第64話 口移しで薬を飲ませる気?

彼は目を丸く見開いた。


その瞳には、すぐ目の前にいる私の顔が映っている。


口移しした薬は半分だけ飲み込まれ、


残りは口の端からこぼれて、顎を伝い首筋へ流れていった。


慌てて拭おうとした瞬間、


彼に手首を掴まれる。


「……何してる?」


声はひどく掠れているのに、


その目だけは妙に輝いていた。


「薬。」


「こんな飲ませ方?」


「起きないんだから仕方ないでしょ。」


耳まで熱くなりながら、私は強がる。


「飲みたくないなら飲まなくていい。」


彼はしばらく私を見つめ――


ふっと笑った。


その笑顔で傷が痛んだらしく、顔をしかめる。


それでも笑うのをやめない。


「……もう一口。」


「自分で飲んで。」


「力が入らない。」


「さっき私の手首を掴んだ力は?」


「……あれは火事場の馬鹿力。」


彼は平然と言った。


「今は本当に無理。」


私は睨みつける。


彼は無垢な顔で見返してくる。


……前世、仮病を使って娘の送り迎えを私へ押しつけてきた時と、まったく同じ顔だった。


私は深く息を吐き、


もう一度薬を口へ含む。


今度は私が口移しする前に、


彼のほうから身体を起こした。


唇が重なる。


彼は薬を受け取り、


舌先が私の唇をかすめた。


苦い薬の味。


そして、彼の口に残るわずかな血の匂い。


私は全身が固まる。


彼はほんの少し離れ、


喉を上下させて薬を飲み込んだ。


それから舌で唇を舐め、


ぽつりと呟く。


「……やっぱり苦い。」


「苦くて当然。」


私は声が上ずる。


「良薬は口に苦し、でしょ。」


「じゃあ……もう一口。」


「あなた――」


その瞬間。


バァン!


勢いよく扉が開いた。


「ママー! 猫ちゃんがママのお菓子を盗み食いして――」


小満が橘猫を抱えて飛び込んできた。


そして、その場でぴたりと止まる。


私を見る。


陛下を見る。


私の手の薬碗を見る。


最後に、


真っ赤になった私の顔を見る。


……


……


三秒。


部屋の空気が凍った。


小満は一歩後ずさりし、


猫の目を両手で隠した。


「……何も見てません。」


「小満!」


「続けてください!」


「私、お外で見張ってます!」


そう叫ぶと、


一目散に駆け出した。


腕の中の橘猫だけが顔を出して、


「にゃあ」


と鳴く。


「…………」


「…………」


彼は枕へ頭を戻し、


ため息をついた。


「……娘も大きくなったな。」


「騙せなくなった。」


「あなたが変なこと教えるからでしょ。」


「教えてない。」


「前世だって、小満の前でしょっちゅう私にキスしてたじゃない。」


「だから今じゃ、これが普通だと思ってるのよ。」


「……普通だろ?」


彼は当然のように言う。


そして私の袖を引っ張った。


「……もう一口。」


「薬は終わり。」


「本当に力がない。」


そう言って二、三度咳き込み、


顔色をさらに青白くする。


……ずるい。


私は結局折れてしまった。


彼は私の手から薬碗を持つこともなく、


最後の一滴まで飲み干す。


飲み終わっても手は離さない。


私の指先を口元へ引き寄せ、


薬の残りを舌でそっと舐め取った。


ぞくり、とした。


指先から背中まで、


電気が走るようだった。


「……汚いでしょ。」


私は慌てて手を引っ込める。


「汚くない。」


彼は目を閉じたまま微笑む。


「……甘い。」


「薬が?」


「舌、おかしくなった?」


「君が飲ませてくれたから。」


「だから甘い。」


私はしばらく彼を見つめた。


顔色は真っ白。


唇は乾き、


髪は寝癖だらけ。


それなのに――


腹が立つくらい綺麗だった。


この身体はもともと端正な顔立ちだ。


鋭い眉、


整った目元。


病に伏して少し赤く染まった目尻が、


かえって儚さを際立たせている。


前世もそうだった。


風邪を引けば、


必ずこの顔で甘えてきた。


「水飲ませて。」


「ご飯食べさせて。」


「抱っこ。」


全部同じだった。


「……何見てる?」


彼が目を開ける。


「いつ死ぬかなって。」


「……ひどい。」


「ひどくない。」


私は布団を掛け直した。


「あなたが死んだら、私と小満はどうなるの。」


「システムの任務は?」


彼は少し黙り、


静かに尋ねた。


「システムは、他に何て?」


私は声を潜める。


「『帝位を盤石にせよ』」


「まだ未達成。」


「だから、あなたはまだ死ねない。」


「江山を安定させない限り……」


「失敗なら、抹消。」


彼の瞳が少しだけ沈んだ。


指先が布団を二度叩く。


前世、


何かを考え込む時の癖だった。


「丞相は死んだ。」


「でも残党はいる。」


「朝廷の三分の一は、あいつが育てた連中だ。」


「全部片付けないと、帝位は安定しない。」


「分かってる。」


「だから。」


彼は私を見た。


「太子の手で粛清する。」


私は息を呑む。


「どういう意味?」


「俺はこの通り動けない。」


「君が太子として監国しろ。」


「丞相派を洗い出して、


斬るべき者は斬り、


左遷する者は左遷する。」


「逐一、俺の許可はいらない。」


「何言ってるの。」


私は首を振る。


「私はついこの前まで弾劾されてたのよ。」


「今動けば、余計に恨みを買う。」


「それでいい。」


彼はゆっくり笑う。


その笑みには、


ぞっとするほど冷たい色が宿っていた。


「君を恨む者が増えれば増えるほど。」


「誰も君へ手を出せなくなる。」


「君に手を出すことは、


俺に手を出すことと同じだから。」


「俺の底札が読めない限り、


誰も賭けには出られない。」


私は黙って彼を見つめた。


彼も私を見る。


「今回は。」


「君を表へ立たせる。」


「俺は君の後ろにいる。」


私は何も言えなかった。


彼は私の乱れた髪を耳へ掛ける。


指先が耳朶をかすめ、


身体が小さく震えた。


「……ねえ。」


彼が小さく呼ぶ。


「もう一口、薬くれない?」


「もうない。」


「じゃあ。」


彼は身体を起こし、


私の口元へ軽く口づけた。


ほんの一瞬。


羽が触れたようなキス。


だけど、


熱くて。


薬の苦みと混ざり、


頭が真っ白になる。


「……こっちのほうが。」


布団へ戻った彼は、


悪戯っ子みたいに笑う。


「薬より甘い。」


私は口元を押さえたまま、


しばらく動けなかった。


その頃。


廊下では小満と福海がひそひそ話をしていた。


「福海じぃ。」


「パパ、甘えてるの?」


福海は咳払いを一つ。


「……陛下はご療養中ですので、


英気を養っておられるのでしょう。」


「違うよ。」


小満は真顔で首を振る。


「パパ、ママにキスしてもらうために嘘ついてる。」


「全部聞こえたもん。」


「…………」


福海は天を仰いだ。


「姫様……」


「奴才は何も聞いておりません。」


私は頭を抱えた。


彼は布団の中で肩を震わせて笑っている。


笑うたび傷が痛むのに、


止めようとしない。


私は空になった薬碗を掴み、


枕元へ投げつけた。


「まだ笑う!?」


「明日の傷の処置、痛くても知らないから!」


「分かった。」


彼は私の袖を掴んだまま離さない。


「笑わない。」


少し間を置いて、


ぽつりと。


「……少しだけ。」


「一緒に寝てくれない?」


「嫌。」


「じゃあ。」


「手だけ。」


「…………」


「少しだけ。」


その声だけは、


驚くほど弱かった。


「……痛いんだ。」


私は彼を見る。


半分閉じた瞳。


袖を摘まむ指先。


その力は弱く、


まるで私が消えてしまうのを恐れているみたいだった。


前世。


手術の麻酔が切れたあと、


彼も同じ顔をしていた。


「痛い」とは言わず、


ただ、


「手、握って。」


「それだけで平気だから。」


そう言っていた。


私は上着を脱ぎ、


そのまま彼の隣へ横になる。


龍床は広い。


三人でも眠れるほど広い。


それでも私は端に寝転び、


背中を向ける。


間には拳一つ分の距離。


彼は少しだけこちらへ寄ってきた。


「……もう少し。」


「近づいたら傷に当たる。」


「当たらない。」


「抱きしめたい。」


「腕に傷あるでしょ。」


「じゃあ。」


「君が抱きしめて。」


「…………」


私はため息をつき、


布団ごと彼を抱き寄せた。


「っ……」


彼が小さく息を呑む。


私は慌てて腕を離そうとした。


彼が首を振る。


「……大丈夫。」


「傷には当たってない。」


「動かないで。」


「動かない。」


彼は私の肩口へ顔を埋める。


吐息が首筋をくすぐる。


温かく、


ゆっくりとした呼吸。


窓の外で更鼓が鳴った。


宮中を歩く人々の足音。


雪を掃く箒の音。


私は眠った彼を見下ろす。


眉間にはまだ薄く皺が寄っている。


それでも私の衣を掴む手だけは、


離そうとしなかった。


私はそっと背中を撫でる。


前世、


小満を寝かしつける時と同じように。


「おやすみ。」


小さく囁く。


「私はここにいるから。」


彼の眉がゆっくりとほどけ、


唇の端に、


かすかな笑みが浮かんだ。

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