↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら太子だったんだが、なぜか後宮が私と息子の禁忌の恋に沸き立っている  作者: zhaozhao


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/68

第63話 もっと怒って。君に怒られるの、好きだから

陛下が龍床に伏してから、七日が過ぎた。


七日目の夜。


彼は高熱を出した。


身体は炭のように熱く、意識も朦朧としている。


うわ言のように私の名前を呼び、


小満の名前を呼び、


かと思えば前世の記憶まで混ざり始めた。


「……企画書が、まだ直ってない……」


「……保育園のお迎え、今日は誰が行くんだ……」


私は彼の手を握ったまま、


その夜、一度も離さなかった。


太医の診立てでは、


矢傷そのものは深くない。


肺腑にも達していない。


だが――


矢じりに毒が塗られていた。


しかもその毒は、


以前、東宮のお茶へ仕込まれていた「牽機」と同じものだった。


……あの老いぼれ宰相。


最初から二重三重の保険を張っていたのか。


「解毒はできますか。」


私は太医へ尋ねる。


白髪の老太医は震えながら跪いた。


「た、太子殿下……。


銀鍼で毒を外へ追い出し、その後に薬湯で治療すれば助かる可能性はございます。」


「ですが……」


「ですが?」


「毒を追い出す際は、耐え難い激痛が伴います。


陛下は今なお昏睡状態。


このままでは……


心脈に負担がかかり、お命が危のうございます。」


私は彼をじっと見つめた。


数秒。


そして静かに言う。


「……私がやる。」


「え?」


「私が鍼を打つ。」


薬箱から銀鍼の包みを掴み取る。


「刺し方だけ教えて。


実際に手を動かすのは私。」


老太医は顔面蒼白になった。


「で、殿下のお身体にそのような危険な真似を……!」


「黙れ。」


私は遮った。


「この人が死ねば、お前たち九族まとめて道連れだ。」


「助けられなかったら、


その前に私がお前を斬る。」


「どっちがいい?」


「…………」


老太医は肩を震わせ、


深く頭を下げた。


「……臣がお教えいたします。」


毒を追い出す施術は、


想像以上に難しかった。


背中の十二か所の経穴へ、


一本一本、角度も深さも変えながら鍼を刺す。


さらに瘀血を押し流さなければならない。


私は寝台の脇へ膝をつき、


銀鍼を持つ手は震えていた。


まるで木の葉みたいに。


「殿下。


天池穴です。


深さ三分、斜めに。」


歯を食いしばり、


鍼を刺す。


「……っ!」


意識のない陛下が苦しそうに呻いた。


背中の筋肉が一気に強張る。


汗が脊を伝い、


古い傷跡をなぞるように流れていった。


……こんなにも。


この身体には、


こんなにも傷があったんだ。


「次。」


喉がからからだった。


「次を教えて。」


三時間後。


ようやく施術は終わった。


私の両手は血まみれ。


膝は痺れて感覚がない。


老太医が黒ずんだ毒血の入った桶を抱えて部屋を出ていく。


その足取りもふらふらだった。


私は寝台へ突っ伏した。


額を縁へ預けたまま、


犬みたいに疲れ切っていた。


その時。


「……水。」


かすれた声。


私は勢いよく顔を上げる。


陛下が目を開けていた。


半分だけ枕へ顔を埋め、


焦点の定まらない目で、


それでも確かに私を見ている。


「起きたの!?」


思わず声が裏返る。


「動かないで!」


「背中に鍼を打ったばかりなのよ!


死にたいの!?」


彼は口元だけ少し緩めた。


まるで幽霊みたいに弱々しい笑み。


「……そんなに……


怒るなよ……」


「怒る!」


「……じゃあ……


もっと怒って……」


彼は目を細めた。


「……君に怒られるの……


好きだから……」


その一言で、


涙が込み上げた。


私は俯き、


顔を彼の肩口へ押しつける。


薬の匂い。


血の匂い。


ひどく臭い。


それでも、


離れたくなかった。


彼の指先が少しだけ動く。


私の手の甲へ、


羽みたいに軽く触れる。


「……怖かった?」


「怖くない。」


「……じゃあ……


なんで泣いてる……」


「だから泣いてない!」


彼は小さく笑う。


傷が痛んだらしく、


「っ……」


と息を呑む。


私は慌てて肩を押さえた。


「動かない!」


「もう一回動いたら本気で叩くから!」


「……怖い太子様だ……」


「まだ言う――」


言い終わる前に、


彼がゆっくり手を上げた。


私の後ろ首へ触れ、


軽く引き寄せる。


「……っ!」


不意を突かれた私は、


そのまま彼の額へ唇をぶつけてしまった。


「……ご褒美。」


彼は眠そうに呟く。


「……もう……


泣くな……」


そう言い残し、


また眠りへ落ちていった。


私は固まる。


唇には、


まだ彼の熱い額の感触が残っていた。


その時、


廊下から足音が聞こえた。


私は慌てて身を起こし、


涙を拭う。


入ってきたのは福海だった。


薬碗を持ったまま、


目を丸くする。


「陛下……!


陛下がお目覚めに!」


興奮して危うく薬碗を落としかける。


「静かに。」


私は小声で制した。


「今、また眠ったところ。」


「は、はい!」


私は薬碗を受け取る。


「ここは私が。」


「みんな外へ。」


「かしこまりました。」


福海たちは静かに退出し、


気を利かせて扉まで閉めてくれた。


私は寝台の脇へ腰掛ける。


薬を一匙すくい、


ふうっと息を吹きかける。


黒褐色の薬。


匂いだけで苦いと分かる。


私は彼の頬をつついた。


「ほら。」


「起きて、お薬。」


……返事はない。


「寝たふり?」


それでも動かない。


私はしばらく彼を見つめ――


意を決した。


薬を一口、


自分の口へ含む。


……苦い。


渋い。


舌が痺れるほど苦い。


私はゆっくり身をかがめ、


彼の唇へ自分の唇を重ねた。


薬を流し込む。


その瞬間――


彼の瞳が、


ぱちりと大きく見開かれた。

無料で完全版を先行で読む:

https://www.amazon.co.jp/dp/B0HFVJ63T9

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。