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転生したら太子だったんだが、なぜか後宮が私と息子の禁忌の恋に沸き立っている  作者: zhaozhao


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第62話 ……寝るな

矢が玄甲を貫き、肉を裂く音が――


喧騒の中でも、やけにはっきりと耳に届いた。


陛下は低く息を漏らし、その場に片膝をつく。


それでも腕の中では、小満を決して離そうとしなかった。


「パパ!」


小満は彼の背中に触れ、その手についた血を見て震え出す。


「血……いっぱい……!」


私はその場に膝をつき、傷口を必死に押さえた。


けれど、血は指の隙間から次々と溢れ出し、信じられないほど熱かった。


「お願い……!」


震える声で叫ぶ。


「もう少しだけ耐えて……!」


「影七が援軍を呼びに行ったの! あなたの兵がすぐ来るから……!」


彼はゆっくりと手を上げ、私の頬へ伸ばそうとした。


けれど途中で力が尽き、


その腕は静かに落ちる。


血が顎を伝い、


黒い鎧の上へぽたり、ぽたりと落ちていった。


「……泣くな。」


かすれた声。


それでも、少しだけ笑って。


「……ブサイクになる。」


「泣いてない!」


「じゃあ……


その顔の濡れてるのは……何だ……」


私は乱暴に頬を拭った。


手のひらは、涙でびしょ濡れだった。


怒号はますます近づいてくる。


宰相の兵たちは円陣を組み、


切っ先を私たちへ向けていた。


まるで檻に閉じ込めた獣を見るような目で。


やがて人垣が左右に割れ、


宰相本人がゆっくりと姿を現す。


蟒袍に玉帯。


手には抜き身の刀。


「陛下。」


彼は愉快そうに笑った。


「あなたにも、このような日が来ましたな。」


陛下は私を背中へ庇いながら立ち上がろうとする。


だが傷が深すぎた。


身体がふらつき、


再び膝をつく。


私は必死に肩を支えた。


倒れさせるものか。


絶対に。


「……宰相。」


陛下は静かに言った。


「お前の勝ちだ。」


「滅相もございません。」


宰相は笑みを浮かべたまま歩み寄る。


刀の切っ先で私の顎を持ち上げた。


「臣はただ、


陛下に譲位の詔を書いていただきたいだけ。」


そして視線が、小満へ向く。


「それから太子殿下と蘇貴妃ですが――」


彼は愉快そうに目を細めた。


「おや、貴妃殿もご一緒でしたか。」


「ちょうどいい。」


「陛下は、この方を何よりも可愛がっておられた。」


「ならば今日は、


陛下の目の前で、


一番大切なものが死ぬところをご覧いただきましょう。」


刀が振り上げられる。


私は目を閉じた。


……だが。


刃は落ちてこなかった。


「おじさん。」


小満の声だった。


血だまりの中へ立ち、


傾国の美貌を持つその顔を真っ直ぐ宰相へ向ける。


その瞳だけが、不自然なほど輝いていた。


「後ろに誰かいるよ?」


宰相が思わず振り返る。


その瞬間――


ヒュンッ!!


四方八方から風を裂く音。


無数の矢が雨のように降り注いだ。


宰相の背へ三本の矢が突き刺さる。


よろめきながら振り向いた彼の目に映ったのは――


城壁の上を埋め尽くす黒衣の弩兵。


先頭には神機営の軍装をまとった将が立ち、


高々と龍旗を掲げていた。


「陛下をお守りしろ――ッ!!」


轟音とともに宮門が破られ、


鉄甲の軍勢が雪崩れ込む。


戦局は一瞬でひっくり返った。


その時だった。


頭の奥で、


冷たく無機質な電子音が鳴り響く。


【警告】


【隠し任務『帝位を守れ』が致命的危機に陥りました】


【現在進行状況:未達成】


【直ちに朝廷を安定させてください】


【失敗した場合、任務を清算します】


【宿主を即時抹消します】


私は息を呑む。


……まだ。


終わっていない。


腕の中の彼は、


もうその声も聞こえていなかった。


頭は私の肩へ預けられ、


呼吸は、


触れてもわからないほど弱い。


「寝ないで……!」


私は彼の頬を叩く。


「聞こえてる!?」


「まだ任務が終わってないの!」


「だから――」


「死ぬなよ!!」


「約束したでしょう!?!」


返事はない。


横では小満がしゃくり上げながら泣いている。


「ママぁ!」


「パパ……


ウルトラマンになっちゃうの……?」


「違う!!」


私は叫んだ。


声が裂ける。


「この人はまだ、


糖人形を買ってあげるって約束してるの!」


「約束を破るような人じゃない!」


「だから――」


「こんなところで終わるな!!」


神機営の兵たちが駆け込み、


宰相の残党を次々と地面へ押さえつける。


賢妃の父の旧臣らしい、


全身血まみれの老将が私の前へ膝をついた。


「殿下!」


「陛下のご容体が危険です!」


「すぐに宮中へお戻ししなければ!」


私は涙も血も拭わず叫んだ。


「運べ!!」


「太医院の連中を全員叩き起こせ!」


「一人でもぐずぐずした奴がいたら――」


「その場で首を刎ねる!!」


「はっ!!」


兵たちの返事が夜空へ響き渡った。

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