第5話 現代人を探していただけなのに、なぜか王国改革が始まった件
李大人の屋敷。
宴も三巡目に入り、私は杯を片手に、わざと酔ったふりをしながら李大人の肩に腕を回した。
「李大人。」
「あなたは博識で有名だと聞いている。」
「ならば、少しだけ私の質問に答えてもらおうか。」
李大人は慌てて杯を置き、姿勢を正した。
「殿下のお尋ねなら、何なりと。」
私は目を細め、ゆっくりと口を開く。
「もし、この世で最も人を惹きつける人物になるには……何が必要だと思う?」
その瞬間。
李大人の表情が固まった。
しばらく考え込んだ後――
突然、顔色を変える。
そして次の瞬間。
「殿下!」
「臣にそのような野心は決してございません!」
「ドンッ!」
李大人はその場に跪いた。
私は思わず目を瞬く。
「……いや、私はただ質問しただけなのだが。」
しかし李大人の額には冷や汗が浮かんでいた。
「天下で最も尊きお方といえば……」
「当然、陛下と殿下にございます!」
「陛下は英明なる君主、殿下は若き才ある皇子。」
「この親子の絆こそ、天下が称えるべきものでございます!」
私はしばらく黙った。
そして静かに茶を一口飲む。
……不合格。
違う。
この人ではない。
どうやら、私と同じ世界から来た人間を探すのは、思っていた以上に難しいらしい。
翌日。
私は次の候補に目をつけた。
張大人。
彼は天文や地理に詳しく、珍しい知識を集めることが好きな人物だ。
もしかすると、現代人特有の考え方が残っているかもしれない。
そう思った私は、彼に尋ねた。
「張大人。」
「一つ聞きたい。」
「国を豊かにするために、最も重要なものは何だと思う?」
張大人は真剣な顔で考え込む。
「土地……でしょうか?」
私は首を横に振った。
「人口?」
また首を横に振る。
「食料?」
再び首を横に振る。
張大人の顔色がどんどん悪くなっていく。
まるで答えを間違えれば命を失うかのような必死さだった。
そして。
しばらく悩んだ末。
彼は突然、納得したように頷いた。
「……なるほど。」
「殿下がお尋ねになった“最も重要なもの”とは……」
「陛下のことでございますね。」
私。
「……?」
張大人は真剣だった。
「偉大なる陛下が国を治めてくださる限り、天下は必ず繁栄いたします。」
私は彼の真っ直ぐな瞳を見つめた。
そして悟った。
……駄目だ。
この世界の官僚たち。
皇帝を褒める能力だけ異常に発達している。
不合格。
そんな中。
礼部尚書の屋敷を訪れた時。
私は初めて、少しだけ違和感を覚えた。
その日。
私は何気なく呟いただけだった。
「もし、一人の人間が突然、まったく知らない世界へ迷い込んだら……」
「最初に何をするべきだと思う?」
礼部尚書は、手にしていた茶杯を止めた。
彼はすぐには答えなかった。
媚びるための言葉を探すのではなく、本当に考えている。
やがて。
「知らない世界……」
彼は小さく呟いた。
「まず、自分が置かれている状況を確認するべきでしょう。」
私の指が止まった。
その考え方。
あまりにも現代人に近い。
私はさらに探りを入れようとした。
しかし彼は続けた。
「そして、その世界で生き残る方法を探す。」
私は心の中でため息をついた。
……惜しい。
本当に惜しい。
けれど。
少なくとも、この人は他の官僚たちのように、何でも陛下への忠誠に結びつけるわけではない。
そこで、私は質問を変えた。
「では、もし巨大な組織を管理するとしたら?」
「どうすれば効率を上げられると思う?」
礼部尚書は眉を寄せた。
「人員を増やす……でしょうか?」
「違う。」
私は首を振る。
「まず目標を明確にする。」
「誰が何を担当するのか決める。」
「そして定期的に確認する。」
礼部尚書は目を見開いた。
その夜。
彼はその三つの言葉を紙に書き、何度も考え続けたという。
太子殿下が意味もなく言葉を口にするはずがない。
きっと、この中には深い治世の道理が隠されている。
そう考えたらしい。
半月後。
朝廷に一つの新しい制度案が提出された。
《官吏評価責任制度》。
官僚たちは一年ごとに目標を設定する。
担当する仕事を明確にする。
成果と問題点を記録する。
重大な失敗には責任を問う。
まるで現代企業の人事評価制度のような仕組みだった。
その奏上書を読んだ皇帝は、すぐに頷いた。
「許可する。」
その一言で、新制度は正式に導入された。
朝廷中が騒然となった。
そして。
その原因を作った私はというと――
手にした奏章を見ながら、ただ呆然としていた。
「……」
私はただ。
同じ世界から来た人間を探していただけなのに。
なぜか古代の官僚制度を改革してしまった。
この時代の人間。
もしかして、吸収力が高すぎないか?
読んでいただきありがとうございます!
ただ夫を探しているだけなのに、なぜか朝廷改革まで始まってしまった太子。
果たして、この世界にいる「もう一人の現代人」は誰なのでしょうか?
「この人が怪しい!」と思った人物がいたら、ぜひコメントで教えてください。
皆さんの予想を読むのも楽しみにしています!
次回もよろしくお願いします。




