第4話 絶体絶命の裏で、推し活と身元調査に勤しむ日々
御書房を出た瞬間。
ようやく、背中を伝っていた冷たい汗が少しずつ引いていった。
先ほどの皇帝の問いかけ。
あれは決して、ただの親としての心配などではなかった。
言葉で追及することもない。
決定的な証拠を突きつけることもしない。
ただ静かに観察し、少しずつ圧をかけてくる。
その距離感が、かえって恐ろしかった。
下手に怒鳴られるよりも。
何も言われないほうが、よほど精神を削られる。
俺は完全に気を引き締め直した。
もう、のんびり構えている場合ではない。
一刻も早くシステムの任務を終わらせなければならない。
そして――
この世界のどこかにいるはずの、俺の夫を見つける。
そうしなければ。
皇帝の疑念が確信に変わった時。
俺と、五歳の息子は。
この深宮の中で、いつか必ず足元をすくわれる。
息子が蘇貴妃になってからというもの。
俺たちがここまで無事に過ごせているのは、後宮の妃嬪たちのおかげだった。
皇帝は最初の頃こそ、新鮮さもあったのだろう。
何度か蘇貴妃を召そうとした。
しかし。
そのたびに。
なぜか絶妙なタイミングで事件が起きた。
一度目。
侍寝の命が下されたその夜。
淑妃が突然倒れた。
後宮中の人手が看病に駆り出され、その話は自然と流れた。
二度目。
前日の夜。
今度は賢妃が突然腹痛を訴え、大騒ぎになった。
三度目。
もはや偶然とは思えない。
冷宮で火事が発生。
夜通し消火に追われ、蘇貴妃を召す話など誰も口にしなくなった。
三度の危機。
三度とも。
完璧すぎるほど正確なタイミングだった。
外から見れば。
「天が味方した」
そう思うだろう。
だが。
俺には分かっている。
これは天の采配なんかじゃない。
後宮の女たちが。
俺と蘇貴妃――
つまり、俺たちの「禁断の恋」を守るために、全力で動いているだけだ。
正直。
彼女たちには何度も助けられた。
彼女たちの徹底した庇護があったからこそ。
俺は目立たず行動できた。
息子の異常を隠しながら。
この世界に来ているはずの夫を探すこともできた。
そして。
皇帝に一切の隙を見せずに済んだ。
だが。
いつまでも逃げ続けられるわけではない。
皇帝の疑念は、もはや誰の目にも明らかだった。
このまま受け身で隠れ続ければ。
いつか必ず破綻する。
そこで。
俺と小満は密かに役割を分担した。
小満は後宮に残る。
目的は一つ。
太后を味方につけること。
後宮で本当に皇帝を止められる存在。
そして。
俺たちを守れる存在。
それは、太后しかいない。
幸いなことに。
太后はこの後宮一の「推し活勢」だった。
当然のように、蘇貴妃への身内びいきフィルターがかかっている。
小満はまだ五歳。
甘えるのも上手い。
空気を読むのも上手い。
毎日欠かさず太后のもとへ通い、話し相手になり、機嫌を取る。
その結果。
今では後宮で蘇貴妃の悪口を言う者がいれば――
俺が何かする前に。
太后自らが黙らせるようになっていた。
一方。
俺は前朝を担当する。
目的は――
夫探しだ。
俺は、俺たち一家三人がこの世界へ転生した法則について考えた。
俺が皇太子になった。
息子が蘇貴妃になった。
ならば。
夫もおそらく、皇室と何らかの関係があるはずだ。
例えば。
皇族の親族。
朝廷の重臣。
あるいは――
最悪の場合。
どこかの名家の使用人や侍女になっている可能性もある。
俺は朝廷の人物相関図を作った。
それも、細部まで徹底的に。
そして。
さまざまな理由をつけて、大臣たちの屋敷を訪問した。
ある時は。
「親交を深めるため」
またある時は。
「庭園を拝見したい」
さらに。
「書画を鑑賞したい」
そんな理由を並べながら。
俺はずっと観察していた。
表情。
話し方。
仕草。
物事への向き合い方。
さらには。
本人も気づかないような小さな癖。
口癖。
何気ない動作。
現代人の生活習慣や考え方は。
どれだけ取り繕っても、必ずどこかに綻びが出る。
もし。
この中に俺の夫がいるのなら。
俺は必ず見つけ出してみせる。
……しかし。
探せば探すほど。
俺の胸に浮かぶ疑問は、どんどん大きくなっていった。
【あとがき】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
後宮の妃嬪たちによる謎の「推し活」、
そしてついに動き始めた皇帝陛下……。
主人公は無事に夫を見つけることができるのか。
それとも先に、皇帝陛下にすべてを見抜かれてしまうのか……。
ちなみに。
皆さんは、後宮の妃嬪たちが作った
「皇太子&蘇貴妃CP応援会」に入りたいですか?
それとも、
「いや、まず皇帝陛下に真実を教えてあげて!」派でしょうか(笑)
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