第47話 パパ、いつママにキスするの?
皇帝は、それから半月もの間、寝台で療養することになった。
その半月、私は昼は監国として政務を執り、夜はずっと彼の枕元にいた。
小満は私たち二人の真ん中で眠る。
まるで小さな湯たんぽみたいに、ぽかぽかと温かかった。
太医の診立てでは、
「矢傷があと一寸でもずれていたら、神でも助けられませんでした」
――ということだった。
その報告を聞いた私は、部屋へ戻るなり、睿王に毒酒を賜るよう命じた。
処刑の日、小満は連れて行かなかった。
けれど、あの子はきっと察していたのだろう。
その夜は、いつもより茶碗半分多くご飯を食べていた。
皇帝がようやく身体を起こせるようになった日。
彼が最初にしたことは、私の頬へ手を伸ばすことだった。
「痩せたな。」
「うん。」
「しかも、ちょっとブサイクになった。」
「……黙れ。」
彼は楽しそうに笑った。
その瞬間、傷口に響いたらしく、顔をしかめて息を呑む。
その様子を横で見ていた小満は、積み木で遊びながら顔も上げずに言った。
「パパ、いつママにキスするの?」
「小満っ!」
「ママ、顔真っ赤だよ?」
皇帝は目を輝かせながら私を見つめる。
「……今夜にする?」
「傷が治ってから。」
「もうほとんど治ってる。」
「全然治ってない。」
彼は残念そうにため息をつき、枕へ身体を預けた。
そして、不意に口を開く。
「……奥さん。」
「システムから通知が来た。」
私は思わず顔を上げた。
「え?」
「任務完了だって。」
「帝位を守ること。
君たちを守ること。
一年間の期限――」
「全部、前倒しで達成した。」
私は息を呑んだ。
「……報酬は?」
彼は少し笑う。
「十億円。」
「そして――帰宅権。」
部屋が静まり返る。
私はしばらく何も言えなかった。
「……今すぐ帰れるの?」
「いつでも。」
その会話を聞いていた小満が、きょとんと首をかしげる。
「帰るって、どこへ?」
私はその頭を優しく撫でた。
「おうち。」
「ウルトラマンがいる世界だよ。」
その瞬間、小満の目がぱっと輝いた。
けれど、すぐに少しだけ曇る。
「じゃあ……
太后さまは?
淑妃さまは?
賢妃さまは?」
私は答えられなかった。
その代わり、皇帝が私の手をそっと握る。
「焦らなくていい。」
「もう少し、この世界にいてもいいんじゃないか。」
「どうして?」
私は尋ねる。
彼は私を見つめ、小さく笑った。
「だって――」
「まだ君を口説き終わってない。」
「前の人生でできなかったことを、
今度こそ全部やり直したいんだ。」
私は彼を見つめた。
小満を見つめた。
そして、この理不尽で、騒がしくて、
それでもどこか温かい後宮を見回した。
「じゃあ……」
私は微笑む。
「もう少しだけ、ここにいよう。」
窓の外には、柔らかな陽射し。
その光が龍床いっぱいに降り注いでいる。
三人は肩を寄せ合い、ぎゅっと一つになっていた。
――こんなめちゃくちゃな世界も。
案外、悪くないのかもしれない。
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