第30話 「太子、朕の隣に来い」——皇帝の一言で朝廷が震えた
翌朝。
空がまだ完全に明るくなる前に、福海が自ら東宮へ太子の朝服を届けに来た。
黒を基調とした生地に、暗い金糸で雲紋があしらわれている。
襟元には四本爪の蟒龍の刺繍。
私は銅鏡の前に立ち、宮人たちに冠を整えられ、帯を締められ、衣の皺を直されながら、鏡の中の十八歳の少年の顔を見つめていた。
鋭い眉。
澄んだ瞳。
ようやく大人び始めた顎の輪郭。
それでも、まだ少年らしい細さが残っている。
前世ではシャツとズボンばかり着ていた私にとって、今世で太子の衣装を身につけるようになって三ヶ月経った今でも、この重厚な服は肩に重くのしかかるような気がした。
福海が横で恭しく告げる。
「陛下よりお言葉がございます。本日、殿下が殿内へ入られた後は、直接龍案の隣へお進みくださいませ。」
「席はすでに整えてございます。」
私は眉を上げた。
「朝臣たちは知っているのか?」
福海の表情が、一瞬だけ複雑になった。
「昨日の朝議が終わった後には、すでに宮中全体へ伝わっております。」
「反応は?」
福海は少し考え、言葉を選んだ。
「礼部尚書様は昨夜、ご自宅で茶杯を一つ割られたそうです。」
「兵部尚書様は一晩中眠られなかったとか。」
「戸部尚書様は……今朝、病を理由に欠席届を出されました。」
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私は身支度を終え、東宮を出ようとした。
その時。
足元で、何かが私の衣の裾を踏んだ。
下を見る。
そこには、素足のまま門のところにしゃがみ込んだ蘇貴妃がいた。
大きめの外衣を羽織り、長い髪は乱れたまま。
手には菓子を握りしめ、口いっぱいに頬張っている。
そして。
その絶世の顔で、私を見上げた。
「ママ、どこ行くの?」
私はため息をついた。
「朝廷へ行く。」
彼女は二回ほど咀嚼して飲み込む。
「私も行きたい。」
「行けないよ。」
私はしゃがみ込み、彼女が踏んでいた衣の裾をそっと引き抜く。
「いい子にして東宮で待っていて。」
「僕たちが帰ってくるまで。」
「いつ帰ってくるの?」
「朝議が終わったらすぐ戻る。」
「長くても一刻くらい。」
彼女は不満そうに唇を尖らせた。
その顔が、蘇貴妃の美しい顔でされると破壊力がありすぎる。
後ろにいた数人の侍女たちは顔を赤くし、慌てて視線を伏せた。
でも。
私だけは知っている。
これは我が息子、小満が不機嫌な時に必ずする表情だ。
「昨日も寿康宮に行ったら、すぐ帰るって言ったのに。」
「すごく遅かった。」
私は苦笑して、彼女の頬を軽くつまんだ。
「今日は絶対に時間通り帰る。」
彼女はしぶしぶ頷いた。
そして門の内側へ戻る。
橘猫を抱きしめながら、丸くなってしゃがみ込む姿は、まるで家に置いていかれる幼い子供だった。
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私は歩き出した。
十数歩進んだところで、ふと振り返る。
まだいる。
門のところにしゃがんだまま。
私の背中を追うように見つめている。
その姿が。
なぜか胸の奥を妙に締め付けた。
私は足を速めた。
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金銮殿。
百官が整然と並ぶ朝議の場。
しかし。
今日の空気は、いつもの朝議とは明らかに違っていた。
私が殿内へ足を踏み入れた瞬間。
数十もの視線が一斉に集まる。
そして。
私と目が合った瞬間。
全員が同時に視線を伏せた。
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玉座には、すでに皇帝が座っていた。
今日の彼は黒い龍袍をまとい、十二本の白玉の冕旒が顔の半分を隠している。
だが。
私は分かっていた。
その珠簾の向こうから。
彼の視線が正確に私へ向けられていることを。
その瞳には、一瞬だけ。
誰にも気づかれないほど柔らかな光が浮かんでいた。
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私は龍案の前へ進む。
そこには一脚の紫檀の椅子が置かれていた。
龍椅より半寸ほど低い。
けれど。
同じ段の上にある席。
つまり。
皇帝の隣。
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私がその椅子へ腰を下ろした瞬間。
殿内の空気が凍りついた。
どこかから。
誰かが息を呑む小さな音が聞こえた。
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皇帝が口を開く。
「本日の朝議を始める。」
「戸部から報告せよ。」
戸部尚書は今日、病欠。
代わりに左侍郎が一歩前へ出た。
声にはわずかな緊張が混じっている。
「陛下へ申し上げます。今年の江南秋税の入庫は、例年より半月ほど遅れております。」
「主な原因は、秋に入ってからの長雨により、漕運が滞ったためでございます……」
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彼の報告は淡々としていた。
けれど。
龍案の隣に座った私は。
殿下にいる全員の表情をはっきり見ることができた。
前列に並ぶ重臣たちは、身体を強張らせている。
視線は床に固定され。
呼吸さえ意識して抑えているようだった。
さらに後ろにいる若い官員たちは。
時折、こっそり私を見ている。
その目には。
信じられないという驚きと、探るような好奇心が浮かんでいた。
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皇帝はしばらく報告を聞いた後。
突然、私へ顔を向けた。
声は大きくない。
だが。
殿内全員に届く絶妙な大きさだった。
「太子はどう考える?」
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再び。
すべての視線が私へ集まる。
私は静かに息を整えた。
そして口を開く。
「漕運が滞った原因は、河道の浚渫が十分ではなかったためです。」
「本来、秋の増水期前に終えるはずだった河川工事を、工部が半月遅らせた。」
「その責任まで戸部に負わせるのは、公平ではありません。」
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その瞬間。
工部侍郎の顔色が変わった。
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