第28話 賢妃の告発。皇帝一家の秘密が暴かれる前夜
寿康宮へ駆けつけた時、殿の扉は固く閉ざされていた。
二人の嬤嬤が入口を守っている。
私が近づくと、彼女たちは顔を見合わせ、そのうちの一人が恭しく頭を下げた。
「殿下、少々お待ちくださいませ。太后様はただ今、陛下とお話しになっております。」
だが。
私の足は止まらなかった。
「本宮はここで待つ。」
そう言いながら、私は扉の真正面に立った。
もし中の者が扉を開けたなら。
最初に目に入るのは、間違いなく私だ。
つまり、こう伝えているのだ。
私は挨拶に来たのではない。
――ここで人を待っているのだと。
嬤嬤たちは太子である私を止めることなどできず、仕方なく脇へ下がった。
視線を落とし、黙って立っている。
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扉越しに、かすかに声が聞こえる。
だが、はっきりとは聞き取れない。
私は耳を澄ませた。
拾えたのは、いくつかの断片だけだった。
「……貴妃……」
「……あまりにも……」
「……荒唐無稽……」
その後に続いた太后の声は。
怒っているというより。
何かを慎重に考えているようだった。
その時。
突然、隣から袖を引かれた。
私は振り返る。
そして。
危うくその場でよろめきそうになった。
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蘇貴妃だった。
水紅色の宮装。
髪は半分だけ緩く結われ、残りは肩に流れている。
そして。
裸足。
冷たい廊下の青石の上に、素足で立っていた。
腕の中には、あの太った橘猫。
どう見ても急いで走ってきたらしい。
簪は少し曲がり。
衣の裾には朝露がついている。
「お前……」
私は声を落とした。
「どうして来た?」
小満は、蘇貴妃の絶世の顔のまま。
桃花眼いっぱいに不安を浮かべていた。
「一人で東宮にいるの、怖かった。」
私は口を開きかけた。
外は寒い。
どうして靴も履かずに来たんだ。
そう言おうとした。
けれど。
その目を見た瞬間。
全部の言葉が消えた。
それは。
間違いなく。
怖いことがあった時の、私の息子の顔だった。
私はしゃがみ込み、小満の裸足をそっと持ち上げる。
そして自分の手のひらで温めた。
「冷たくない?」
小満は小さく頷いた。
つま先を縮めながら、私の胸元へ寄ってくる。
「冷たい。」
「ママがいなくなったあと……窓の外で鳥が鳴いたの。」
「怖かった。」
後ろにいた二人の嬤嬤が。
同時に視線を落とした。
そして。
肩がわずかに震えている。
おそらく彼女たちは今。
必死に理解しようとしているのだろう。
――蘇貴妃が裸足で太子を探しに来て。
――しかも太子の胸元へ甘えるように寄り添っている。
そんな光景を。
だが。
今の私には気にしている余裕などなかった。
私は小満の手を握り。
再び扉の前で待った。
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しばらくして。
一杯の茶が冷めるほどの時間が過ぎた頃。
殿の扉が開いた。
福海が顔を半分だけ覗かせる。
そして。
私の隣にいる蘇貴妃を見た瞬間。
瞳がわずかに揺れた。
だがすぐに声を落とす。
「殿下……陛下がお呼びです。」
「賢妃娘娘も中におられます。」
小満が私の手を強く握った。
そして不安そうに見上げてくる。
私は小声で言った。
「中に入ったら慌てるな。」
「私についていればいい。」
「太后が何を聞いても、まず私の顔を見るんだ。」
小満は力強く頷いた。
「うん。」
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扉が閉まる。
その瞬間。
殿内の光が一段暗くなったように感じた。
寿康宮の香炉から漂う香り。
濃い沈香の匂い。
その奥に、檀木の苦い香りが混ざっている。
太后は上座。
皇帝はその左下。
賢妃は右側に座っていた。
三人の前には、まだ湯気の立つ茶。
どうやら、すでにしばらく話をしていたようだ。
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私が中へ入った瞬間。
賢妃の視線が真っ直ぐ落ちた。
私と小満が繋いでいる手へ。
ほんの一瞬。
だが。
彼女はすぐに視線を逸らし、何事もなかったように茶を口にした。
その動きがあまりにも早い。
まるで。
何かを隠しているようだった。
私の心が沈む。
――賢妃が今日ここへ来た理由。
恐らく。
ただの「挨拶」ではない。
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果たして。
私が礼を終えると。
太后が口を開いた。
「太子も来たのね。」
「ちょうどよい。こちらから呼びに行かせるところだった。」
太后は茶盞を置き、皇帝を見る。
「皇帝。」
「先ほど賢妃が、哀家にある話をした。」
「最近、宮中で妙な噂が流れているそうだ。」
「太子と貴妃が……少し近すぎるのではないか、と。」
「さらには、朝廷でもその話をする者がいるとか。」
太后の目が皇帝へ向く。
「哀家は、あなたの考えを聞きたい。」
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背中が一瞬、強張った。
賢妃。
なぜ?
彼女は今まで――
私たちの最大の協力者だったはずだ。
後宮の「推し活筆頭」。
毎日のように私たちを庇い。
噂が広がれば裏で処理してくれていた。
それなのに。
今日。
なぜ突然、太后の前で告げ口をした?
一体。
賢妃は何を考えているのだろう。
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