第27話 皇帝陛下、これ以上私を特別扱いしないでください
「今日の朝議で、私は一つ決断をする。」
「何をするの?」
彼は私を見つめた。
瞳に宿っていた優しさが少し消え、その代わりに、揺るぎない覚悟が浮かぶ。
「明日から、お前を私の隣――龍案の横に座らせ、朝政を見聞きさせる。」
私の瞳がわずかに揺れた。
大周建国百三十七年。
これまで、一人の太子が龍案の隣に座ることを許されたことは一度もない。
あの机は。
君臣の境。
父子の境。
帝王と後継者の間に引かれた、最後の一線だった。
そこを越えれば。
朝廷中の者が理解する。
――この太子は、皇帝が何よりも守りたい存在なのだと。
「自分から標的になるつもり?」
私は言った。
彼は淡々と答える。
「標的になれば、矢を受け止められる。」
「私がお前を寵愛すればするほど、お前を狙う者たちは慎重になる。」
「皇帝が太子なしではいられないと思わせるほど、お前は安全になる。」
私はしばらく黙った。
胸の奥につかえているものがあった。
酸っぱいのか。
熱いのか。
自分でも分からない感情だった。
「じゃあ……あなたは?」
私は彼を見る。
「全部の矢を自分に向けているけど、自分のことは考えたことがあるの?」
彼は腕の中で眠る蘇貴妃――
いや。
五歳の息子、小満を見下ろした。
小満は眠ったまま、無意識に彼の指を握っている。
その瞬間。
彼の表情がわずかに柔らかくなった。
「私は最初から……」
「お前たちを守るために来たんだ。」
私は顔を背けた。
それ以上、彼を見ることができなかった。
しばらくして。
彼は小満をそっと枕へ戻した。
慎重に腕を抜き、静かに寝台から降りる。
黒い中衣は少し乱れたまま。
朝の光の中に立つ彼は、振り返って私を見た。
「今日の朝議は休め。」
「しばらく来るな。」
「なぜ?」
「私があの決定を発表した後、朝廷の者たちは必ず探りを入れてくる。」
「お前がいなければ、彼らの疑念も試しも、すべて私に向く。」
彼は近づいてきた。
そして。
私の額に、そっと口づけを落とす。
羽が触れたような、あまりにも軽いものだった。
「私が戻ったら、その後の計画を話す。」
そう言い残して。
彼は去っていった。
衣の裾が扉をかすめる。
その背中は、朝の光の中へ消えていった。
私は寝台の端に座ったまま、長い間動けなかった。
その時。
背後から小さな物音が聞こえる。
蘇貴妃が寝返りを打った。
そして。
ゆっくりと目を開ける。
水のように潤んだ、桃花眼。
六宮一の美貌を持つその顔は、息を呑むほど美しい。
けれど。
その瞳に浮かんでいるものは――
完全に私の息子、小満の寝起きのぼんやりした表情だった。
「ママ……」
彼女は目をこすりながら、甘えた声を出す。
「パパは?」
「朝議に行った。」
「そっか……」
小満は小さくあくびをした。
貴妃の朱色の唇が少し開き、白い歯が覗く。
その姿は。
あまりにも美しく。
そして。
あまりにも滑稽だった。
突然。
彼女は私の方へ寄ってくる。
絶世の美女の顔を、私の肩にぴたりと押しつけた。
「ママ……」
「夢見たの。」
「パパがウルトラマン買ってくれる夢。」
私。
「……」
「ここにはウルトラマンないよ。」
「分かってる。」
彼女は私の肩に顔を埋めたまま、少し不満そうに言う。
「だから夢なんだもん。」
私は手を伸ばして、彼女の頭を撫でた。
指先に触れるのは。
蘇貴妃の艶やかな黒髪。
柔らかな髪。
そして、大人の女性の細い肩。
けれど。
私には分かっている。
今、私の腕の中で甘えているのは。
五歳の息子なのだ。
この身体と中身の矛盾。
三ヶ月経った今でも。
私はまだ完全には慣れられていなかった。
その時。
外から慌ただしい足音が響いた。
続いて。
福海の焦った声。
「殿下!」
「殿下、お目覚めですか!?」
「大変です!」
私は胸が跳ねるのを感じた。
急いで扉へ向かい、少しだけ開ける。
「どうしたの?」
福海の顔は青ざめていた。
声まで震えている。
「賢妃娘娘が……今朝、寿康宮へ向かわれました。」
「太后様に何かをお話しになったようです。」
「具体的な内容は、奴才には聞こえませんでしたが……」
「太后様は話を聞いた直後、すぐに陛下をお呼びになりました。」
「今、陛下はまだ朝議の途中なのに……寿康宮へ向かわれました。」
背筋が冷えた。
賢妃。
彼女は私が思っていたより早く動いた。
東宮には来なかった。
皇帝にも直接問いたださなかった。
代わりに。
太后へ向かった。
一人の年長者を使って、もう一人の年長者へ問いかけさせる。
自分は傷つかず。
そして火を、一番消しにくい場所へ放った。
私は振り返る。
寝台の上。
小満はまだ枕に伏せたまま、目をこすっていた。
「ママ……どうしたの?」
「何でもない。」
私は外衣を羽織る。
「ここで大人しくしていなさい。」
「誰が来ても、絶対に扉を開けないで。」
「ママ、どこ行くの?」
背後から。
裸足で床へ降りる音が響いた。
私は振り返らず答えた。
「……お前の父親を探しに行く。」
東宮を出た瞬間。
朝風が吹き抜けた。
衣の裾が大きく揺れる。
寿康宮は後宮の奥深く。
三つの宮門。
二つの庭園を越えた先にある。
賢妃が太后に何を話したのか。
私はまだ知らない。
だが。
一つだけ分かっている。
昨夜。
小満が「爸爸」と呼んだ瞬間から。
私たち三人を繋ぐ、か細い糸は限界まで張り詰めている。
今日。
その糸が切れるのか。
それとも――
二度と誰にも引き離せない絆になるのか。
私は歩みを速めた。
長い廊下を抜ける。
朝日が朱色の宮壁を照らしている。
あまりにも眩しく。
その光は、まるで未来を突きつけるように目に刺さった。




