第25話 家族三人が再会したその時、皇帝の死の任務が始まった
「システムが、許さなかった。」
その一言で。
私は完全に言葉を失った。
「最初の任務条件に、明確に禁止事項として書かれていた。」
「俺から先に正体を明かすことはできない。」
「お前たち自身が真実に気づき、自分の意思で俺のもとへ来るまで……俺は待つしかなかった。」
「……じゃあ、今は?」
私は彼の目をまっすぐ見つめた。
一瞬たりとも見逃さないように。
「制限は解除されたの?」
彼はゆっくり手を伸ばした。
指先が、優しく私の手首をなぞる。
その触れ方は温かく。
けれど、どこか壊れ物を扱うように慎重だった。
「解除された。」
「今夜、小満がお前たち自身の意思で俺を“父親”と呼んだ。」
「それは、お前たち自身による覚醒と判断された。」
「システムによる強制制限は、完全に消えた。」
私はようやく、すべての出来事の意味を理解した。
システムは私たち三人を縛っていた。
入れ替わった身份。
矛盾したルール。
交わらない運命。
それによって、私たちは三ヶ月もの間、引き離されていた。
私は小満と一緒に、何も知らないまま必死に生き延びようとしていた。
そして彼は。
暗闇の中で。
命を懸けて私たちを守っていた。
なのに。
自分から名乗ることすら許されなかった。
殿内に、長い静寂が落ちた。
私は彼の腕の中で眠る小満を見る。
そして目の前にいる、懐かしくもあり、同時に見知らぬ顔をした男を見る。
この世界に来てから感じた不安。
孤独。
恐怖。
そして、誰にも言えなかった苦しさ。
そのすべてが。
ようやく吐き出せる場所を見つけた気がした。
私は小さな声で尋ねた。
「じゃあ……今の私たちは。」
「家族合流任務を達成したってこと?」
「そうだ。」
彼は静かに頷いた。
その瞬間。
久しく聞いていなかったシステム音が、頭の中に響いた。
【ピコン】
【一家三人の完全合流を確認しました。】
【任務一:達成。】
【残存生存期間:九ヶ月。】
【最終報酬:未解放。】
短く。
淡々とした通知だった。
余計な説明は一切ない。
三ヶ月間ずっと張り詰めていた心が。
ようやく少しだけ緩んだ。
――けれど。
安心したのも束の間。
目の前の男が、低い声で言った。
「だが。」
その一言で。
私の胸が再び強く締め付けられる。
「……まだ何かあるの?」
彼の瞳から。
先ほどまであった優しさが消えた。
残ったのは。
帝王としての重圧と、隠しきれない覚悟だけだった。
「俺の任務に、隠し分岐が追加された。」
「隠し分岐?」
私は息を飲む。
彼は私の目を見つめ。
一字一句、はっきり告げた。
「皇帝の座を守ること。」
「朝廷を安定させること。」
「そして――」
「大周の国を、一年間守り抜くこと。」
頭の中が、一瞬真っ白になった。
私と小満の任務は。
ただ生き延びることだった。
一年間、無事に過ごせば帰れる。
でも彼は違う。
私たち母子の命を守りながら。
同時に皇帝として玉座に座り続け。
揺れる朝廷を抑え。
国そのものを守らなければならない。
彼は私の表情を見て、すべて察したのだろう。
口元にほんの少し笑みを浮かべた。
けれど。
そこに余裕など一切なかった。
「だから、これからはもっと忙しくなる。」
「そして……」
「もっと危険になる。」
私はすぐに思い出した。
朝廷で、それぞれの思惑を抱える臣下たち。
水面下で動く後宮。
皇太子を。
そして皇帝を。
じっと見つめる無数の視線。
これまでは。
ただ私たち二人だけの秘密だった。
けれど今夜。
小満が叫んだ――
「爸爸」
その一言によって。
私たち一家三人の秘密は。
すでに小さな亀裂を見せ始めていた。
宮中の者たちに口止めをしても。
完全な秘密など存在しない。
噂は必ず広がる。
そして――
本当の波乱は。
ようやく始まったばかりだった。
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