第24話 三ヶ月後、私はようやく皇帝がずっと私を見ていた理由を知った
私の問いが落ちた瞬間。
殿内に一瞬の静寂が広がった。
蝋燭の火は静かに揺れている。
時折、灯芯が小さく弾ける音だけが、やけに鮮明に響いた。
皇帝は目を伏せたまま、片腕でしっかりと腕の中の人物を抱いている。
その胸にいるのは――
豪華な貴妃の衣をまとい、六宮を魅了するほど美しい顔を持つ蘇貴妃。
けれど、その中身は。
まだ五歳になったばかりの、私たちの息子だった。
小満は眠気に勝てず、重そうにまぶたを閉じている。
小さな頭が何度も揺れ。
やがて無意識に皇帝の首元へ頬を寄せた。
規則正しい寝息が聞こえる。
完全に眠ってしまったようだ。
皇帝は手を上げると。
慣れた動作で、小満の背中を優しく叩いた。
その仕草はあまりにも自然で。
まるで何度も何度も、こうしてきたかのようだった。
「俺の任務は、お前たちとは違う。」
その言葉に。
私の眉がぴくりと動いた。
私と小満の任務は、ずっと単純だった。
――家族三人で合流する。
――異世界で一年間生き延びる。
それを達成すれば、報酬をもらって元の世界へ帰れる。
条件は決して厳しくない。
ただひたすら、生き残ればいい。
だから私は当然思っていた。
皇帝の任務も、せいぜい細かなルールが少し違う程度だと。
まさか。
私たちが転生した瞬間から。
最初から、全員のルールは平等ではなかったなんて。
「……どこが違うの?」
私は一歩前へ出て、低い声で問い返した。
皇帝は静かに私を見る。
「お前たちが失敗しても。」
「せいぜい、この世界に取り残されるだけだ。」
「元の世界には戻れなくなる。」
一瞬、間を置いて。
彼は淡々と言った。
「でも俺が失敗したら――死ぬ。」
心臓が大きく跳ねた。
呼吸が止まりそうになる。
私は彼を見つめたまま、指先に力を込めた。
「……どういう意味?」
皇帝は視線を落とす。
その先には、穏やかな寝顔の小満。
声はとても小さかった。
「俺がこの世界に来た日。」
「システムが俺に与えた主線任務は一つだけだった。」
「お前たち母子を守ること。」
「そして、無事に一年間生き延びさせること。」
私は息を止める。
皇帝の声は続いた。
「任務期間中。」
「お前たちのどちらか一人でも致命傷を負う。」
「正体が露見する。」
「あるいは、この異世界で死ぬ。」
「その瞬間、俺の任務は強制清算される。」
「そして――俺は消される。」
喉が、完全に乾いた。
この瞬間。
これまで感じていたすべての違和感が。
一つ残らず繋がった。
私はずっと思っていた。
彼はただ、私たちを面白がっているのだと。
私が太子として慌てふためく姿を眺め。
朝廷を引っ掻き回す姿を楽しみ。
前世ではできなかった恋愛を、今世でやり直そうとしているのだと。
でも違った。
すべての裏には。
彼の生死をかけた覚悟があった。
だから。
彼は決して私たちの正体を暴かなかった。
無理やり問い詰めなかった。
私が必死に人探しをして、見当違いな方向へ走り回っていても。
ただ静かに。
そばで見守っていた。
彼は賭けられなかったのだ。
自分の命を。
そして。
私と小満の命を。
私はふと思い出す。
これまで何度もあった危機。
後宮の妃たちが、何度も皇帝の寵愛を阻止したこと。
表面上は、妃たちが私たちの関係を面白がっていただけに見えた。
でも。
皇帝の許可がなければ。
どれほど大胆な妃たちでも、帝王の命令を何度も止めることなどできるはずがない。
朝廷で私が勝手に大臣たちを試し。
制度を好き勝手変え。
満朝の文武百官が疑念を抱いた時も。
彼は何度もすべての反対意見を押さえ。
私の正体が露見しないよう、穴を埋めてくれていた。
深夜、私が蘇貴妃を東宮に泊めた時。
世間に噂が広がった。
もし別の皇帝なら。
とっくに厳罰を下していたはずだ。
なのに彼は。
すべての風波を押さえ込み。
私たちが逃げられる道を残してくれた。
私はずっと思っていた。
私と後宮の人々が。
必死に、慎重に生き残っているのだと。
違った。
最初から最後まで。
私たちを守っていたのは――
彼だった。
「だから……」
私は少し掠れた声で言った。
「那些賞賜も。」
「私への偏愛も。」
「何度も私を呼び出したことも……」
皇帝は静かに答えた。
「半分は、お前に近づきたかったから。」
「もう半分は。」
「お前たちを見張って、守るため。」
彼は小満の寝顔を見る。
「見えないところにいると。」
「安心できなかった。」
胸が苦しくなった。
しばらくして。
私はようやく言葉を絞り出した。
「……だったら。」
「どうして、もっと早く合流しなかったの?」
「私たちが早く一緒になれば。」
「任務も早く終わる。」
「あなたの危険も減るはずだった。」
「なのに……」
私は彼を見る。
「なぜ?」
皇帝はしばらく黙った。
そして。
私が予想もしなかった言葉を口にした。
「もう一度、お前たちを失うなんて賭けられない」
その言葉に込められた想いを、彼女はようやく知りました。
不器用だけど、一途。
冷たい帝王に見えて、誰よりも優しい。
皆さんは、この皇帝をどう思いましたか?
「最高の夫」だと思った方は、ぜひ教えてください。




