第20話:父上は……私を口説いている?
翌日。東宮。
私は徹夜で朝廷内の人物相関図を整理していた。
そこへ突然、勅命が届いた。
「陛下がお呼びです」
背筋が凍った。
……まただ。
最近、皇帝が私を呼ぶ頻度が日に日に増えている。
いや、増えすぎている。
もはや異常なレベルだ。
普通の皇帝なら――
臣下を召し出す。
奏書を確認する。
政務を処理する。
だが、うちの皇帝は違う。
太子を呼ぶ。
太子を呼ぶ。
そしてまた太子を呼ぶ。
私は本気で疑い始めていた。
もしかして、最近あまりにも人を調べすぎて、知らなくていい秘密にまで辿り着いてしまったのではないか。
そんなことを考えながら、私は御書房へ向かった。
その道中、ずっと考えていた。
もし今日、死ぬなら――
どうすれば一番格好よく死ねるだろう、と。
御書房。
中へ入ると、皇帝は筆を走らせていた。
私が入ってきたことに気づいても、顔を上げない。
「来たか」
「臣、父上にご挨拶申し上げます」
「うむ」
……。
空気が静まり返る。
私は少しずつ緊張してきた。
普通なら、上司が部下を呼び出した時はこう言うものだ。
「任せたい仕事がある」
あるいは、
「最近よくやっている」
だが、この皇帝は違う。
ただ私を立たせる。
ずっと。
立たせたまま。
私が居心地の悪さに耐えられなくなった頃――
ようやく皇帝が口を開いた。
「最近も、人を探しているのか?」
心臓が跳ねた。
「……探している? 何をでしょうか」
必死に平静を装う。
皇帝はゆっくり顔を上げた。
その瞳には、どこか意味深な笑みが浮かんでいる。
「自分で考えてみろ」
背中に冷たい汗が流れた。
何のことだ?
もちろん、探しているのは夫だ。
でも……。
なぜ皇帝が知っている?
まさか。
私が偽物だと、もう気づいている?
頭の中が高速で回転する。
しかし――
次の瞬間。
皇帝はふっと笑った。
「そう緊張するな」
「朕はただ気になっただけだ」
「一体どんな相手なら、お前がそこまで長い間探し続けるのか、と」
……え?
皇帝は知っている?
そこまで?
私は驚きすぎて、しばらく言葉が出なかった。
その間に、皇帝は筆を置き、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「なぜ黙っている?」
「……」
まさか言えるわけがない。
『夫を探しています』
なんて。
仕方なく、私は適当に誤魔化した。
「父上」
「私は……その者と、とても深い絆があります」
皇帝の目がわずかに動く。
「どれほど深い?」
私は少し考えてから、真剣に答えた。
「もし見つけられなければ……私はきっと、とても悲しむでしょう」
その瞬間。
御書房が静まり返った。
皇帝は私を見つめたまま、長い間何も言わなかった。
その視線は深くて。
私には、何を考えているのか全く分からない。
やがて――
皇帝は低く笑った。
「なるほど」
「随分と一途な人間なのだな」
東宮へ戻った私は、すぐに息子を呼び、緊急家族会議を開いた。
「事態は深刻です」
息子はお菓子を頬張りながら首を傾げた。
「パパ、見つかったの?」
「……まだ」
「じゃあ、なんで深刻なの?」
私は深く息を吸った。
そして、重々しい表情で告げる。
「皇帝が……最近おかしい」
息子は瞬きをした。
「どこがおかしいの?」
私は長い沈黙の後。
ようやく、震える声で言った。
「父上は……」
「私を口説いている気がします」
――。
空気が凍った。
息子の口から、食べていたお菓子がぽろりと落ちた。
「……」
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