第16話 深夜、彼女はなぜ朕に会いに来た?
それから半刻後。
皇帝の目の前には、ようやく貴妃宮が見えていた。
皇帝が中へ入ろうとした、その時。
背後から、突然しわがれた声が響いた。
「皇帝よ」
皇帝の足が止まる。
振り返ると、そこには太后が立っていた。
皇帝はわずかに眉をひそめる。
「母上」
太后はにこにこと笑いながら近づいてくる。
「ちょっと、母上と話でもしないかい?」
皇帝は即答した。
「朕には用がある」
「何の用だい?」
「貴妃に会いに行く」
太后が一瞬、固まった。
そして、ふっとため息をつく。
「……そうかい」
「なら、仕方ないね」
皇帝「……?」
あまりにもあっさり引き下がった。
まさか、こんなに簡単に済むとは。
そう思った次の瞬間。
太后の手が伸びてきて、皇帝の袖をがっちりとつかんだ。
「ただし……」
「まずは、母上と半刻ほど話をしようじゃないか」
皇帝「……」
――寿康宮。
一本目の香が燃え尽きた。
太后が穏やかな口調で語り始める。
「後宮の管理というのはね、なかなか奥が深いものなんだよ」
皇帝は黙って耐えた。
二本目の香が燃え尽きる。
「夫婦の間で一番大切なのは、やっぱり意思疎通だね」
皇帝は、さらに耐えた。
三本目の香が燃え尽きる。
すると太后は突然、昔話を始めた。
「そういえば、お前は七歳までおねしょをしていたねぇ」
皇帝「……」
その瞬間。
後ろに控えていた福海が、必死に俯いた。
肩が小刻みに震えている。
笑ってはいけない。
絶対に笑ってはいけない。
だが、笑いをこらえるのも限界だった。
さらに一本。
香が燃え尽きた頃。
今度は太后の話題が健康管理へと移った。
「男というものはねぇ」
「夜更かしをしてはいけないよ」
皇帝「……」
「身体に悪いからね」
皇帝「……」
「それに、髪も抜けやすくなる」
皇帝「……」
「特に気をつけなければならないのは――」
太后は意味ありげに皇帝を見つめた。
「精を養って、力を蓄えることだね」
皇帝のこめかみに、とうとう青筋が浮いた。
「……母上」
「いったい、何が言いたいのです?」
寿康宮が、しんと静まり返る。
太后はもう笑っていなかった。
ただ、じっと皇帝を見つめている。
その時。
外から、宦官の声が響いた。
「陛下!」
「蘇貴妃様がお見えになりました!」
瞬間。
寿康宮の空気が凍りついた。
その場にいた全員の視線が、一斉に皇帝へ向く。
皇帝もゆっくりと顔を上げた。
その瞳の奥に、一瞬だけ意味ありげな光が宿る。
――こんな時間に。
なぜ、彼女がここへ?
皇帝はしばらく黙っていた。
そして。
低い声で、ただ一言。
「……通せ」
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
こんな夜更けに、蘇貴妃はいったい何をしに来たのでしょう?
陛下に伝えたいことがあるのか、それとも……?
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次の展開もお楽しみに!




