第12話 陛下が後宮にお渡りにならない理由、まさか太子が関係している?
ついに、彼らも気づいてしまった。
これはもう、単なる「陛下の太子びいき」なんて話ではない。
陛下が太子を見るあの目。
……おかしい。
どう考えても、おかしい。
あれは次期皇帝を見る目ではない。
ましてや、息子を見る目でもない。
まるで――
そこから先は、誰も口にできなかった。
これ以上考えたら、不敬どころの話ではない。
下手をすれば、全員まとめて首が飛ぶ。
その日、御書房を後にした重臣たちは、誰一人として余計なことを口にしなかった。
そしてその夜。
京の都にいる重臣たちが、こっそりと礼部尚書の屋敷に集まっていた。
部屋の中では、揺れる蝋燭の明かりを囲むように、十数人の男たちが顔を突き合わせている。
その表情は、朝廷で政務を議論している時よりも、はるかに深刻だった。
最初に口を開いたのは、礼部尚書だった。
「諸君」
一同が息を呑む。
礼部尚書は、重々しく告げた。
「……事態は、かなりまずい」
全員が一斉に頷いた。
「確かにまずい」
「非常にまずい」
「日に日に悪化している」
兵部尚書がとうとう耐えきれず、机を叩いた。
「だから、いい加減はっきり言え!」
「一体、何がそんなにまずいんだ!」
部屋が一瞬、静まり返った。
礼部尚書はゆっくりと顔を上げる。
そして、声を落とした。
「……諸君、気づいているか?」
「陛下が、もう長いこと後宮にお渡りになっていない」
その言葉が落ちた瞬間。
部屋中が、しんと静まり返った。
誰もが顔を見合わせる。
もちろん、全員知っていた。
だが、誰も口に出せなかったのだ。
皇帝陛下が即位してからというもの、政務に励んでいるのは今に始まったことではない。
後宮に妃嬪も少なくない。
どれだけ忙しい時でも、以前はそれなりに妃嬪を召すことがあった。
ところが。
ここ数カ月。
一度もない。
本当に、一度も。
戸部尚書が、ごくりと唾を飲み込んだ。
「まさか……」
声が妙に上ずっている。
「陛下は最近、お忙しすぎるのでは?」
礼部尚書は即座に首を横に振った。
「ありえん」
「むしろ最近の陛下は、以前より暇そうだ」
「……」
全員が黙り込んだ。
それはそれで、余計におかしい。
兵部尚書が、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
「では、まさか……」
全員の視線が一斉に彼へ集まる。
兵部尚書は、言いにくそうに口を開いた。
「陛下……お身体の具合が悪いのでは?」
「…………」
再び、部屋が静まり返った。
次の瞬間。
礼部尚書が机をバンッと叩いた。
「馬鹿なことを言うな!」
「陛下はまだ壮年だぞ! そんなはずが――」
そこまで言って、礼部尚書の声が止まった。
全員が、同時に黙った。
なぜなら。
ある事実を思い出してしまったからだ。
最近、陛下が唯一、親しく接している相手。
それは――太子。
しかも。
太子は男だ。
そして。
陛下の実の息子でもある。
その考えが頭をよぎった瞬間。
重臣たちの顔色が、一斉に変わった。
……いや。
違う。
考えるな。
絶対に考えてはいけない。
これは、下手なことを考えた瞬間に命がなくなるやつだ。
戸部尚書が、恐る恐る口を開いた。
「なあ……」
「もしかすると……」
「最近の後宮が……その……」
「陛下の御心を惹きつけるには、少々物足りないのではないか?」
全員が黙り込んだ。
しばしの沈黙。
やがて、礼部尚書がゆっくりと頷く。
「……それは、あり得る」
すると。
工部尚書がおずおずと手を挙げた。
「実は……」
全員の視線が彼に集まる。
工部尚書は、なぜか少し気まずそうに咳払いした。
「私には……姪が一人おりまして」
「…………」
「今年で十六になります」
「…………」
「顔立ちも、それなりに整っておりますし……」
「…………」
「琴も碁も書も画も、多少は心得ております」
兵部尚書のこめかみに青筋が浮かんだ。
「お前……」
「なんでお前だけ、ちゃんと次の手を用意してるんだよ!?」
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