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パートワン 3/4

      その8


娘の遥は、テレビで映し出している男のことが、やはり癇に障るらしかった。さらに、そんなに気になる人物であるにも関わらず、その人物の名前その他情報を紹介しようとしなかった。その人物は閑子にとって面識があるようで、しかし、はっきりとは思い出しなかった。


それにしても、テレビは、娘の遥が気になっている男のことを執拗に追っていった。


それから娘が、ついにこの朝のニュースワイドショーでテレビカメラがその行動をしつように追っていたあの男のことを話してくれた。


「刑事さんなんだって、名前は蕪木栄一。現場に出てくる刑事にしては年がいっている印象だとおもわない?」


カメラは、この男のなにかを告発しようとしていたのか。そして、カメラはこの男を、この男の行動を執拗に追い続けた。


私には、その時の娘の話が興味深いものに思えた。亀井閑子は、閃いた。そう、閑子はは、娘の話を聞き逃すことはなかった。亀井閑子は、娘の話を集中して聞いていた。


「お母さん、このテレビカメラが追いかけているひと、刑事さん、あるいは探偵さん? あるいは記者さん? この人の正体はどんなものだと思う?」


「私には、単なる野次馬だってことも考えられるわね」


亀井静香の遙の想定外の答えに、遥は吹き出してしまった。


     *      *



「この人、私が話した印象だと、このテレビの様子とは違って、繊細で、ナイーブな印象がした」


「あのヒゲヅラがかい? あの顔からそんな要素は読み取れないけど」


「……」


遥は笑いを堪えているようだった。


「へぇ、ところで遥はどこかでこの人に遭遇したということかい」


「近所よ、この一週間で何回かこの人を見かけたのよ。この近くをうろついていたの。だから、この近くに何か御用ですかって、そう聞いてみたの。そしたら、いゃ、ちょっととか言葉を濁していた」


「遥は、すごい度胸だね。どんな人かもわからないのに」


「怖い人ではないわ。それは、感じた。でも、すごく腹立たしいひと。弱そうなのに、なかなか引き下がらない。私に声をかけられても引き下がろうとはしないの。だから、『この地域にお住まいの人たちは立派な人たちばかりで、あなたが、何かの刑事や、探偵や、記者にしても、あなたに何かの傷や不始末をさぐられたり、恥ずかしいことをするようなひとはいません』、そう言ったの」


「そうしたら?」


「もちろん、最後にはすごすごと引き下がったわ。警告を無視するようなことがあれば、不審者として警察に通報するつもりだった」


「確かに、遥が気になるというのはわかる」


亀井閑子は、答えた。


遙の話は結論に到達した。


「遥、その人が、テレビに出てたりするわけだし、なんか本当に気になるわ」


     *      *


(世の中の人間、全てが良い人とは限らない)


(これまでの人生で、私は、多くの人に助けられた)


(そして、素晴らしい人脈を得ることができた。これは、私の人生にとって素晴らしいことであると思う)


(お陰で、私は実り豊かな人生を送ることができている)


(しかし、このように恵まれた多くの人間関係、人脈を持っている私でも、人間というもの全てが善人だというわけではないということを知っている)


(生き物全般に言えることであるのかもしれないのだが、人間というのは、完全に善人にはなれないものである)

(というのも、人間というのは「狩り」という本能が一番根本にあって、この「狩り」という本能を根本にして、その根本の上に人それぞれ、各々さまざまな「個性」という肉付けされたような存在なのだからである)


(もともとの本質が、「狩り」の本能で出来ているので、いかに、善人になろうとも、その根本にまで、善人になりきろうとするのは、非常な困難が伴う)


(人間というのは、「狩り」の本能の思うがままに生きる存在というわけでもない)


(どこで、「狩り」が行われ、命が奪われ、誰かが傷つく)


(しかし、「狩り」に注意を向けることもなく、「狩り」について、報道されることはまれである)


(人間というものは、天邪鬼あまのじゃくな存在であり、この「狩り」の本能に突き動かされる自分のことをとても忌々(いまいま)しく感じる生き物である)


(人間というのは、「狩り」という本能を持ちながら、他方で、「狩り」の反対のものであることを望む生き物である)


* *


亀井閑子は、我に帰った。


何かのきっかけで、頭の中をこんな具合にいろんな考えがぐるぐる回る。これは、亀井閑子にはよくあることであった。


(これは、好ましいことではないのだが、自分が時として夢想家であることを認めなければならない。しかも、はっきりとした夢遊病者)


亀井閑子は、自嘲的になった。


(何が起こっても、不思議ではないこの街のご近所さん関係って確かにあるのよ)


      その9


(ちょっと、面白い話をしてみたい)


(遥はちょいちょい面白い話をしてくれる、その話。断っておくが、最初の話は、遥から聞いた話、私の体験というわけではない)


(念のために言っておくが、娘の遥から聞いた話ではあるが、大事な話なので書いておく。娘の遥の務める会社でのこと。何日か前、下水の配管の修理、ようするに水漏れの話、この修理に遥の会社に来た若者の話が奇妙だったという)


(その若者、一見、いかにもありがちな、臨時雇いというか、アルバイトなのであるが、すぐに、会社の出入りの業者がいて、その仕事ぶりから器用であることがわかった)


(娘の遥の印象ではあるのだが、非常に有能であるように見えたという。もちろん、その若者の仕事ぶり、手際がよく、ソツがない。そして、何よりその若者の立ち振舞や言葉づかいが遥には好印象であったという)


(一介の作業員としては、その若者、何か不似合いな、場違いな印象を受けたという)


* *


(それから、また数日後のことである)


(突然、私と娘を乗せた車道の車に、歩道の若者が飛び込んでくる)


(わたし達を乗せた車は、この若者をはねたそうだ)


(私達の車は、それほどスピードを出してはいなかったのでがあるが、若者の体は2、3メートルも宙を飛び、地面に叩きつけられた)


(そこで、ちょっとした事故騒動が起こった)


(それにしても、運転手がこの若者と面識があるということだった)


(私は、この事故のことが、記憶に焼き付いて、この後なかなか頭から離れなかった。それほどのショックを私は受けた)


(私たちは、車を降りて、この若者の方に駆け寄ろうとした。しかし、若者は何事もなかったように、立ち上がると、駆け出し走り去ってしまった)


(この事故では、私はひどいショックを受けたのだが、私に負けないほど遥もショックを受けた)


「お母さん、一度話したでしょう。ひどく有能な水道屋さんのこと」


「覚えているよ。でも、あんたが言う有能な水道屋さんとは、あの人のこと?」


「それがね。特別な感じがしているの……」


遥は、自分の考えを最後まで言い終えることはなかった。


      その10


テレビでは犯人のプロフィールが、テレビによって知らされる。

事故の次が、火事のエピソードとつづく。


      *      *


(街が、最近の頻繁に起きる火事によって、ひどい靄に包まれたようになるときがある)


(遙は、もやに包まれてしまったような視界には、まだ慣れていない)


(遙の周りでは、この靄で不満や不平を言うような人はいないらしい)


(そのようなゴミ問題に意識の高い夫人たちが、刺激を求めているのをみて、さらに煽るようなことをするのは、如何なものか? 一部の人たち、彼らに良識というものが存在するのか。何か、いつもけしからんと言っている、小競り合いの元になっているような謎の店。犯罪のにおいがする、それは考えすぎか? これは、私の思い)


      *      *


(強情、もつれにもつれた人間関係とうちの近所の角川さんに典型的な例を見ることが出来る)


(確かに、角川さんの家では全く考えられないこと。高くて、厚い壁で囲われていて、中をのぞいたことはないけど、この地域でも由緒正しい、有数のお金持ちだから、そこの家で、そこの家族が、ペットボトルのジュースやコンビニの弁当ばかり、食べているとしたら、お父さんが、嫌な予感がしたとしても不思議ではない)


亀井閑子も、そう思った。同感だったのだ。


(でも、あの家の中で、なにか例えば事件、あるいは事故が起こっていたとして、私たちに何ができるのだろうか? このようなことって、たいていは単なる思い過ごしに過ぎなかったりするものである)


「隣の奥さん、とても感じの良い人だった。町内会の行事でいつも見かけていたから覚えているよ」


娘の遥が言ったのだ。


「旦那さんも、紳士然とした人だったし……」


「隣のうちの電話番号分かるか? 電話かけてみる」


分からないこと、そういう噂を聞いたことがあるけども、本当なのか疑わしいじゃない。

旦那の三朗は少しがっかりした様子。


亀井閑子も旦那の三朗も、娘の遥も、子供たちまでも、考えに耽って、ご飯が進まなくなってしまったのだ。

娘の遥が、舌打ちした。口惜しがっていた。


「あの人なら、角川さんのうちの様子を見ているはず、でも、……」


旦那の三朗が、遥の話に食いついたのだ。


「どういうことだ?」


「この間の水道屋さんよ。あの人とちょっとした世間話をしたのよ。水道屋は、隣の角川さんのことを気にしていた。うちと同じ頃、仕事で角川さんのうちにも行ったそう」


「だったら、明日にでも、水道屋さんに電話してみたらいい。角川さんのうちの事で何が聞けるかもしれない」


「その話は聞いたことがある」


旦那の三朗が言う。


「そういえば、今朝の事故、どうだったのかしら、あの水道屋の若者、ひどくうちの車にぶつかっていたけど、怪我はなかったのかしら。うちの車は元々オンボロだから問題ないけど」


彼女、閑子も、隣のうちの角川さんと、水道屋の若者のことが気になっている。少し影のある、なにか尻込みしているような、話しかけても消極的な反応しか示さない。


水道屋の仕事のルーティーン

そして、水道屋はついに観念して白状することになる。


      *      *


亀井閑子の仕事の足を引っ張る自身についての悪い噂。(仕事というのは、何かしら人の影が、見えてくる。人脈は、そういう意味)


「やがて、分かるだろう」


亀井閑子の違った視点からの仕事


店の客が死んだのだ。その客も死んだと言うことだ。取引をする予定だった客。


「たしかに運に見放されていると言うことは確かなようだ」


客の方から、取引の継続を依頼してきていたのだが


      *      *


「確かに、角川さんも、そんな噂が立っていたよね。それが本当になるとは思ってもみなかったけどね」


それが、角川さんが最後の賭けにでたのだという。


そういえば、角川さんは、大金を用意していたらしい。そして、金を取られて命を奪われたらしい。


「どんな世界の話だ?」


「やはり! だんだんとそんな話を頻繁に聞くようになった。殺しが起こったような」


亀井閑子は、遙かに聞いてみたのだ。


「遥! あなたが話してくれている。その水道の仕事をしている青年だったら、ひょっとして大事な話を聞いているかも知れないわね。このあたりのお宅にも出入りしているに違いないから」


(どうすれば良い? あの、若者に聞けばなにか解る、そう考え始めたよ)


自分の考えではなく、娘とか、旦那に彼らの妄想を言わせる。それを聞く形で、事件の概要を把握。


旦那の三朗は、彼の考えを始めた。このような奇異な現象というのは、昔からよくあったことなのだ。この手の出来事は、この地域では、よくある話なんだ。その理由は、旦那の三朗に言わせると土地柄だったということだった。


「近所とは名ばかり。縁もない人の集まりだから」


「つまりは、新興の高級住宅街であるということ。この地域は、交通の便が良くて、都心にもすぐに出られるし、それにしては、買い物するにも、おしゃれで評判の、真新しいスパーマーケットもある。そして、学園地区で、小学校、中学、高校、大学、この地域は、教育機関が充実しているということで昔から知られていたんだ。そこで、不動産業者が高級住宅街をつくろうと考えた。そして、この街は誰にも知られる優良な高級住宅街が出来上がった。しかし、暮らしてみるとよく分かることなんだが、この住宅街は恐ろしいほど、住民の入れ替わりが激しい。こういう新興の住宅街というのは、本格的な高級住宅街というのに、縁のなかった連中が集まるところだ。ここの住民は、成金というか、新規の金持ちで、金にモノを言わせたがる連中が多い、彼らは着飾って、表向きはお行儀が良いが、中身は、我慢の利かない連中ばかりというわけさ。この街は、自分たちがイメージしていたのとは違った住みづらい街なんだ。譲り合うという生き方をしてこなかった連中ばかりになったせいで。彼らは、街に失望して、街を出ていく。突然、彼らの事業が傾き、経済的な理由で街を出ていく人間ももちろん少なくはない」


テレビから目を離せない娘の遥であったのだが、テレビを観ながら、三朗の話は耳に入っていたようだった。


「私達も同じね! 庶民的な街で、暮らしていたのに、突然金ピカの街で暮らすことになった」


(たまには、気の利いたことも言うわ)


三朗は、住宅の取引を仲介する会社で発行する雑誌の記者であったのだった。それを亀井閑子は、思い出したのだった。


      *      *


時々この物語の主人公は、つまり、亀井閑子かめいしずこは、なぜか、彼女の夢の中のはなしであるが、この世界の終わりとも思える、破壊し尽くされた世界にいた。彼女は自分が恐れていた最悪に過酷な運命と直面しているやうに、実はその世界が夢ではなく実在しているように思えたのだ。その夢のなかでは思えたのだ。


しかし、どういうことだろう。なぜか亀井閑子が置かれている廃墟のあちこちからは、若者たちの歌声が聞こえてくるのだ。


しかし、聞こえてくる若者の歌声は、聞く者たちの打ちひしがれた心を癒してくれるような種類のものではなかったというわけである。


若者たちの凶暴で、攻撃的な歌声は、癒やしを与えてくれるどころか、その反対に聴くものたちのたちの心の中に積もりに積もっていた鬱憤を爆発させよう(晴らそう)としているかのように聞こえたのだ。


夢の中、若者たちの暴力的な歌声は、瓦礫のなか、身を潜めていた亀井閑子にとっては、


若者たちは、廃墟のあちこちで、焚き火を囲い、暖を取っている。若者たちは、じぶんたちの欲望を包み隠さず声を合わせて、ひとつの歌を歌っていたのだ。


亀井閑子は、この若者たちに気づかれないように、途方に暮れて、物陰に身を潜めている。亀井閑子は、このような廃墟の世界に、このように物陰に身を隠し、何かに怯えているのか、それがわからなかったのだ。


こうして時間は過ぎていったのに、私たちはまだ何も手に入れていない。


亀井閑子は、今、なぜか自分の不注意で水没させてしまったパソコンを抱きかかえている。亀井閑子は、自分がどのような経緯から自分のパソコンを水没させてしまったのか。亀井閑子に聞いてもその答えは出ない。亀井閑子の頭は、今、何もはっきりとしない。


ただ、亀井閑子は、パソコンが本当に壊れてしまわないうちになんとかできるだけの処置を施したいのだが、ほの気持ちははっきりとあるのだが、廃墟で、身を隠した状態のなかで、どうすればよいのか、どういう手続きを踏むのか、良い考えが浮かばない。


日はすでに落ちて、夜がふけていった。


夢の中の亀井閑子は、無力で、単なるおバカにすぎない。夢の中の亀井閑子は、無力感が心に染みた。


亀井閑子の心のなかで、ひとつのことをハッキリさせたというわけであった。


夢の中の戒めが語ることは、つまり亀井閑子は、自分が積み上げてきたものは、すべて壊れ、集めててきたものすべてを失ってしまったということだった。もう、弱みは握られてしまっているのだ。


夢のことは人には言えない。亀井閑子は、いつもそう思ったのだ。亀井閑子は確信したというわけだった。


すると、かえって緊張がとけたのだった。



     *      *



「労働者の三郎さん」


亀井閑子は、夢の中で夫の三郎のことをこう呼んでいたというわけである。


夢の中の夫の三郎は、自分の過去のことは口に出さない。閑子ふじんにたいしても、自分子ことについては何も話さなかった。


(心が幼いから、そして労働をいとわないから自分のこと話そうとしないのだ)


夢の中では、閑子は夫のことを労働者と決めつけていた。だから、亀井家の細かい仕事は、幼かったのだが、三朗に任せるしかなかったのだ。閑子の会社の稼ぎ出す金で、基本的には家族は暮らしていたのだ。


(みんなが貧乏している村で、化け物に喰われるよりはましだろう)


夢の中の亀井閑子は、この不思議でもある家庭の役割分担を夫の三郎に認めさせていたのだった。


     *      *


亀井閑子かめいしずこについて、最近起こったこと、今、亀井閑子の周りで起こりつつあるについて、いくらか書いておこう。


亀井閑子にとって、この一週間ほど、何かと落ち着くことのない日々が続いていた。


会社のリーダーとして、何かが不安になってしまったのだ。このところ、立て続けに起こった不規則な予想もできない出来事がここ数日彼女の心に影を落としていた。


彼女の会社の運営は順調に進んでいる。亀井閑子の手腕も世間からは対応の評価を勝ち得ていた。


亀井閑子は、世間的に見れば、そこそこの人生を生きていた。


亀井閑子は、スマホをバッグから取り出すと、一緒にショッピングした仲間たちにひとりと連絡を取った。


      その11



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