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漆黒の銃声  作者: ゆみ。
11/16

11話 私も

鉄の迷路の中、千聖の感覚は極限まで研ぎ澄まされていた。

左右から迫る足音。片方は重く、片方は慎重。千聖はコンテナの角に背を預け、手元にある古い消火器を視界に入れた。


「……あそこにいるぞ」


男の一人が銃口を向けた瞬間、千聖は消火器を力一杯放り投げた。

直後、銃声が響き、噴出した白い粉末が視界を遮る。


「くそっ!」


その混乱に乗じ、千聖は弾かれたように飛び出した。低空からの射撃。一人目の膝を正確に撃ち抜き、悶絶する男の顎へ鋭い蹴りを叩き込む。

もう一人が背後から狙いを定めるが、千聖は倒れゆく男の体を肉の壁にし、その肩越しに引き金を引いた。


パァンッ…


正確に眉間を撃ち抜かれた男が、崩れ落ちる。

最後の一人も、千聖が放った容赦のない追撃によって、物言わぬ肉塊へと変わった。


「……はぁ、はぁ……」


静寂が戻る。千聖は荒い呼吸を整え、返り血を避けるように一歩下がる。慣れた手つきで薬莢を拾い、証拠を消去するその姿は、感情を排した「精密機械」そのものだった。




その惨劇のすべてを、数十メートル先の大型クレーンの陰から、聖菜は見ていた。


姉にスマホを届けようと、タクシーを飛ばして辿り着いた埠頭。

そこで目にしたのは、優しく穏やかな自慢の姉ではなく、漆黒のドレスを翻し、冷徹に人の命を奪う「死神」の姿だった。


「……っ」


聖菜は口を両手で強く押さえ、悲鳴を押し殺した。

膝が震え、その場に崩れ落ちそうになる。けれど、彼女の瞳は、血溜まりの中に立つ姉から逸らすことができなかった。


(お姉ちゃんが……人を……)


だが、恐怖と共にこみ上げてきたのは、言いようのない切なさと、納得だった。

なぜ、あの家賃の安いアパートに、不釣り合いなほど精巧な「偽の書類」があったのか。

なぜ、時折姉から冷たい鉄の匂いがしたのか。


すべては、自分を守るため。

そして、あの松濤の生活を、父と母を奪った奴らへの復讐を果たすため。


千聖は周囲の警戒を怠らず、遺留品を確認すると、足早に闇の中へと消えていった。聖菜の存在には、最後まで気づくことはなかった。




姉の姿が完全に見えなくなってから、聖菜はようやく壁を伝って立ち上がった。

足元には、姉が撃ち抜いた男たちが転がっている。


聖菜は、握りしめていた千聖のスマートフォンをポケットにねじ込んだ。

今、これを届ければ、姉が積み上げてきた「嘘」を壊してしまうことになる。それは、姉が命を懸けて守ろうとしている「妹」の形を、自ら捨てることに他ならない。


(お姉ちゃん一人に、こんな地獄を歩ませない)


聖菜の瞳から、震えが消えていく。

かつてピアノの鍵盤を叩いていた指が、固く握りしめられる。


自分も、強くならなければならない。

姉が「掃除」をするなら、自分はその影を支え、共に戦うための力が欲しい。

復讐という名の終着駅に、姉を一人で行かせるわけにはいかない。


「……待ってて、お姉ちゃん」


聖菜は、姉が消えていった方向とは別の道を選び、静かに埠頭を後にした。

その足取りには、先ほどまでの迷いはなかった。


アパートへ帰り、千聖が戻ってくる前に布団に入る。

そして、何事もなかったかのように「おかえり」と微笑む。

それが、今日から始まる聖菜の、新しい「戦い」の始まりだった

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