減塩ラーメン
ただただ歩き続ける俺のほうに赤いスポーツカーが近づき、俺の横で停車す。
なんだ?
車の窓がウィィンと下に降りてゆく。
「おっ、狩集、どうした。そんなところで」
中から顔を出したのは担任の大野樹だった。
大野は俺の姿を上から下までじろじろ見る。
「おんまえなぁ、こんな中傘ささないから、ほら、ずぶ濡れじゃねぇかよ」
そして車の中から傘を渡してくる。
「ほれ、傘だ。俺は車だし、大丈夫だからそれ使えや。じゃあな」
傘を渡されたけど、俺はさそうという気すら起きなかった。
そんな俺の姿を見て帰るのをやめる大野。
「せっかく傘あげたのにささないのかよ」
黙り続ける俺。
「どうした?ほぉーーん。さては家出か?そうだろ。」
うっとしいなぁ。もうほっといてくれよ。
心の中で念じる。
「家出少年をほっといたら、教師としてはいかんよなぁ」
「そうだ俺んちに泊まるか?ちょうど、彼女と別れてから部屋が広くなってなぁ」
いやいや。いいよそんなことしなくて。
「うんそうだな。こいや。俺んちに。お前が何と言おうと。そのままにはしておないからな」
大野は自分が濡れることをいとわずに俺を車の中へと乗せる。
「どうせ、進路のことで母親ともめたんだろ?」
車を運転しながら何も言わない俺のほうを見て。
「やっぱりな」
とつぶやく大野。
車は赤信号で止まった。
「お前の気持ちはどうなったんだ?めどは立ったのか?」
スキルパネルを静かに見せる。
「うおっ。ステータス上がってんじゃねぇか。よかったな」
大野は濡れた頭をガシガシとなでる。
「まぁー、こまけぇ話は俺の家についてからだな」
◎ ◎ ◎ ◎
大野の家はオンボロアパートだった。
家はオンボロアパートの二階で、階段を登るたびにぎぃーと不気味な音をあげる。
「まぁ、上がれや」
大野はドアを開けて中に入るように誘導する。
「おまえなんか食うか。つっても、俺は料理なんか作れねぇからカップラーメンぐらいしかつくれねぇけどな」
「ほんと、彼女がいなくなって初めて、俺一人じゃできないことも多いんだなって痛感させられるよ」
いらないということを伝えるために俺は首を左右にふる。
それでも、俺の意に反しておなかがグゥーっと鳴る。
「腹は正直だな。食ってけや」
健康を気にしているのか減塩ラーメンと書かれたカップラーメンにお湯を入れてから大野は食べ始める。
「ほれおまえの分もできたぞ」
大野が食べているのと同じ減塩ラーメンを手渡してくる。
湯気が立つラーメン。手に持ってみると冷えた手が温まる。
俺は今までのことを話した。
「するってーと、母さんは父さんのようになってほしくないから、お前に探索者になってほしくないってことでいいのか?」
こくりと頷く。
「だったらよ、お前がもっともぉーっと強くなるだろ。で、お前の父さんが最後に潜ったっていうダンジョンにお前が潜って、父さんみたいにならねーぞーってすりゃいいんじゃね」
「強くなってよ、母さんを見返してやろうぜ。でな、見返した後はちゃんと手を取り合って、お互いが納得する結論を出せばいいだろ」
ずるずるとラーメンをすする大野。
「でさ、お前、冬休み開けても学校に来なくていいよ」
なんでというような顔をする俺。
「勉強なんかよりも大事なもんがあるだろうが」
「えっ?」
「それはな、家族と、夢だよ」
「教師の俺が言っちゃぁいけんけどな、夢があるんだったら、その夢に必要のない勉強なんかしなくたっていいと思うんだよ」
「あとはな、母さんとそんな喧嘩別れのままズルズルいったら後悔するぞ。おれも同じようなことがあって後悔してんだからさ」
大野はちょっと悲しそうな顔を見せてから話を続ける。
「いや、俺もちょっと前に父さんが死んでな。喧嘩別れのままだった。それまで憎らしかったのが全部吹っ飛んで、どうしようもないやるせなさだけが残ってるんだ」
「だからこそ、お前にはそうなってほしくないなって思ってるんだ。この先、何が起こるかなんて誰にもわかりゃしないんだから」
「でもっ」
「でもじゃない。学校のことなら心配するな。俺がなんとかしといてやる。家だって、行くところがないなら俺のところにでも止まってりゃいいだろ?」
「だからな。全部俺に任せろ。そのために俺がいるんだから。俺を頼れ、そして俺を使え」
胸をドンとたたく大野。
カッコつけたけど、勢いよくたたきすぎてゴホゴホ言っている。
先生…
カップラーメンのラベルには減塩と書かれていたけど、俺にはあまりにもしょっぱすぎた。
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