第1話(30)
大剣を持っている剣士が先に動いた。
氷の刃はその剣士目掛けて一斉に襲いかかる。
すっとしゃがんでやりすごし、立ち上がった時には氷の刃は全てバラバラだった。
えっ、ちょ、今何が起きたの?
その隙に長剣の剣士が本体に跳びかかり、剣を突き刺した。
ふわふわの魔物は宙でその姿を歪ませた。かと思うと、消えていた。
倒したのかな?
「ふうん?」
ディールの声が聞こえたがそっちを向いている余裕はない。俺はこの息を飲むような戦闘から目を離せなかった。
大剣の剣士のすぐ側に、その魔物は表れた。さっきの、魔物、だよな……?
姿は酷似しているが、全身から触手が生えていておぞましい姿になっていた。その触手はするすると動き、大剣の剣士に絡みつこうとする。
が、大剣の一振りで触手は無惨にも地面にパラパラと斬られ落ちた。
長剣の剣士は魔物が移動したことにすぐ気づき、振り返る。
魔物の後ろから長剣を振り上げてスパッと斬った。と、同時に大剣も魔物を貫いている。
魔物は酷く耳障りな咆哮をあげて落下した。
ビシャッ、と体液を撒き散らして動かなくなった。
「こ、恐かったぁー」
「ウォルンは戦ってないだろう、何を言っているんだ」
「いやあれは恐いって」
「そうか? そんなことより、行ってこい」
え? 何が? ってぅおおおおおおい!
血みどろのぐっちゃぐちゃのところに飛ばされました。
ディール、ひどい。……ぐすん。
一気に回復魔法をかける。惨状は見ないように見ないように……。
間違っても魔物にかからないように注意だけする。もう絶命してるとは思うけど。
万が一、微かにでも息があれば、完全回復しちゃうからなぁ。そんなミスやらかしたらどんな目で見られるか。くわばらくわばら。
「………………ハッ?!」
何が起きたかわからない、といったような5人を背に、俺はにっくきディールの元へ走り戻る。
「ディィィィィール!!」
「なんだ?」
「なんだじゃないよ、なんだじゃ! びっくりするだろ一言ぐらい声かけろよびっくりするだろ」
もう! ディールといると心臓何コあっても足んないよ……。
「そうは言ってもな、回復を急がなければならない状態だっただろう。それに声はかけたぞ?」
ディールくん、口元がにやにやしていますよ?
「に、しても。氷の彫刻はあのままで良かったんじゃないか? なかなか鑑賞にたえうる出来映えだったぞ?」
魔術師さんのことを言っているのかな? ディールくんは鬼畜ってやつなのかな?
「そんなめんどくさいことしないよ。回復魔法と状態異常解除を別々だなんて」
「ふ……。並みの回復術師なら逆なんだがな」
「そんなもんなの?」
「そんなものなんだよ」
ディールと口論、と言ってもいいものか、完全に俺がディールに遊ばれているだけかな、をしていたら。
なにやら、奥のほうでも口論になっていた。
なんだなんだ?
「よく聞こえないな……」
俺がそうこぼすと、ディールが魔法をかけてくれました。こういうところは親切なんだよな。
『なんなんだ! あんなに強い魔物が出るなんて聞いてないぞ?!』
『命懸けと言ったはずだが?』
あーああ……。そこで揉めてもしかたないと思うんだけどなぁ。
『とにかく俺たちは降りる!』
『構わない』
『おい、聞いたか! お前たちも命が惜しくばさっさと降りるこった!』
「なんだか情けないですね」
うおっと?! メルクレン? もしやあなたも命知らずですか?
「ウォルンがいるんだから死にはしないのに」
そうとは限りませんよ?!
「メルクレン、それは誤解だ。一撃で命絶たれたら俺にはどうしようもない」
「急所だけ護ればいいんだろう? 簡単じゃないか」
誰か! この鍛冶師に簡単という言葉の意味を教えてやってくださあああああああああああああい!!




