第1話(22)
話の途中で、寝ぼけたノノルがやっとブラウの不在に気づいたのか、俺のところまでふらふらとやって来たかと思うと、かしかしと軽くひっかくので膝の上に抱き上げた。安心したかのように寝息を立て始めたノノルを撫でながら、話の続きを促した。
「それで?」
「ふ……、ファフゥンのこどもか。かわいいな。……それで、『商人か?』と訊かれてな。女である私が言うのもなんだが、女1人で露店で交渉する商人など聞いたこともない」
まあ、そうかもしれないな。商人には詳しくないが、訂正、商人にも詳しくないが、露店で交渉する商人というのは想像できない。いなくもないんだろうけど、どうなんだろう?
「商人ではないと告げたら、『その鉱石は何に使うんだ?』と訊かれたんだ。使う予定もなかったから、私は困った。露店商の手前、特に使い道は決めていないとも言えなくてな」
そ、そうだな。値切りまくられた商品が使い道ないなどと聞かされたら、露店商もたまったものではないだろう。
「答えに窮していたら、食事に誘われた。いきなりだぞ? 新手のナンパかと思ったな」
そりゃそうだ。
「しかし私もちょうど食事前でな、腹が減っていた。よく知っている食堂ならいいかと、私の指定する食堂で良いなら、と即答した」
師匠も師匠なら弟子も弟子だな。似た者同士なんじゃないか?
「食堂までは、師匠が特に何も言わないから無言でいるのも変かと思って、食堂のメニューかなんかを話してた気がするな。それで、食堂で注文を済ませた頃に師匠が言ったんだ。『譲ってくれないか』と。私は一瞬何のことかと思ったよ。まさか鉱石にご執心とは思わなくてね」
その流れなら気づかないよなー。
「『何をですか?』って思わず訊いてしまったよ」
なんだろう、その場を見てみたい気になってきた。
「どうやら私は勘違いされやすいらしいな。師匠は焦ったように、『はぐらかすのも上手いのか』とか言い出して。何のことだかわからない私は混乱してな、『はぐらかすって何ですか、私はお腹が空いているんです、食べないなら出てって下さい!』と、その……、大声を出してしまって。まわりから注目を浴びて恥ずかしかったぞ、師匠が大笑いしてくれたから助かったが」
なんかもう俺笑いそう。メルクレンには悪いけど。
「いや、我慢せず笑ってくれていいぞ? 私も今では笑い話だ。そのことがあって、私と師匠は話がしやすくなった。師匠はしばらく膝を叩きながら大笑いしていて、私もつられて笑ってしまったんだ。なんというか……、師匠の笑いかたはこっちまでつられる。とても楽しい笑いかたをする人なんだ」
「へー、それは会ってみたいな」
「機会があればな。どこを旅しているかわからない人だからな。で、師匠はデッコイを譲ってくれと言うんだ。譲ってくれたらここは奢るし、お礼もする、と。いくらなら譲ってくれるかと訊かれたから、ダメだろうと思いつつも、女でも弟子にしてくれる鍛冶師の知り合いはいないかと尋ねてみた」
メルクレンって運がいいんだな。その相手こそが鍛冶師だったんだから。
「師匠はそこでまた大笑いだぞ? こっちは真剣だってのに。女が鍛冶師なんて、とまた言われるのかとも思ったな。でも違った。鍛冶師ってのは武器が作れればいいのか、と訊いてくるんだ。一瞬で真剣な目つきになって」
メルクレンはいったん深呼吸をした。
「あのときは急に温度が下がったのかと思ったよ。覚悟を試されている、と思った。鍛冶師ってのは厳しい道なんだろうと。作れればいい、なんて簡単に言わないで下さい、鍛冶師にはそんな軽い気持ちでなりたいんじゃないんです、って力説してしまったんだ」




