第1話(16)
「俺は回復魔法しか使えないので、武器はいらないんですよ。持っても敵に当たらないので」
言っててなんか情けないぞ?!
「そうなの? 残念。今ここにいる人に全員断わられちゃった。大きな戦闘があるっていうからわざわざ来たのに」
そうだろうなぁ。護衛の人も、ここ攻め込まれてないから今のとこ武器間に合ってそうだし。
「そのうち前線から大勢戻ってきますから、その時なら需要あると思いますよ」
「そう? じゃあ待ってることにする。あ、私、メルクレン。鍛冶師やってます。知り合いに武器扱う人がいたら紹介して。武器の研磨もできるから」
「あー……。俺のパーティ、魔獣使いと魔法使いしかいないから、必要ないかな、悪いけど。名乗ってなかったね、俺はウォルン。で、こっちのちっこいのがノノル」
『ののゆー』
ノノルはパタパタとしっぽを揺らしている。
「かわいいね、ノノル」
『んうー。かあいい、ののゆー』
撫でてもらってノノルはご機嫌だ。
「それじゃ、荒くれ戦士たちが戻るのを待つか」
メルクレンはどっかと腰を下ろした。な、なんかおとこらしいですね……。
「くっそ……! 油断した」
声のしたほうを向くと、淡く消えかけた魔法陣の上に、ディールと6人の負傷者、ブラウがいた。
ディールが血みどろだった。ころん、とディール愛用の杖が転がり、ディールは崩れ落ちる。
「……!」
俺は声も出なかった。
慌てて回復魔法をかける。
ギャーギャーと騒ぎ出す元負傷者たち。今までの俺なら、苦笑する余裕ぐらいあったはずだ。しかし、そいつらなんて構っていられない。
むくり、ディールが起き上がった。
「ウォルン、おまえバケモノだろう。いとも簡単に回復してくれるじゃないか。この僕が脅威を感じるほどの魔力量なんじゃないか?」
「びっ……! びっくりさせやがって!! 何があったんだ?」
「何てことない。僕は攻撃は得意でも守りは弱くてね。魔物が3体同時にかかってきたから倒したはいいが、まさか爆発するとは思わなかったんだよ」
『でぃーるはばかです、うぉるんさま。しゅごのまほうをそこのさわいでるやつらとわたしにだけかけるなんて』
「僕が未熟だっただけだ。とっさにかけた魔法の範囲を間違えただけのこと。単なるミスだよ、ミス」
『たちいちが……まきこまれ』
「もういいだろう、ブラウ。それ以上僕の未熟さを暴露しなくても」
なんだかわかったぞ。こいつらを守るために犠牲になったのか。バカだな。ディールがやられたら、転送できないだろうが。
「ってー!! 何をするんだ、ウォルン!」
とりあえず殴っておいた。
ギルド員さんが気づいたのだろう、元負傷者たちを連れて行ってくれた。回復術師さんたちと、食事やなんかの準備を始めている。おなかすいてるだろうからなぁ。いかんせん、回復魔法では空腹までは治せない。
そちらに気を取られていた。
「それに触るな!」
ディールの鋭い声が飛ぶ。
びくっ、と俺の背が震えた。
振り返ると、ディールの杖に伸ばしていたのだろう手を慌てて引っ込めたような動作のメルクレン。
ディールはメルクレンを強く睨むと、杖をその手に取り戻した。
「ディール……?」
こんなディールは初めて見た。いつも傲慢不遜で上から目線で偉そうで変人で問題児で……、あれ? 褒めてないな、これ。
とにかく、本気で怒ったところを見たことはなかった。
そのディールが本気で怒っている……?
「そんなに大事な杖なのか?」
俺、声震えてたかもしれない。
「そうだ」
ディールはそれ以外語らなかった。
「ごめんなさい、そんなに大事なものだとは知らなくて」
「そうだよ、ディール。そんなに怒らなくても」
「ブラウ、行くぞ」
『えっ? えっ?』
困惑するブラウを強引に連れて、ディールは背を向けた。
「悪かった」
一言、そう言ってブラウに乗る。
ブラウも軽口を叩けず、この時ばかりは素直にディールに従った。




