第二十九話 初めての暗殺失敗
今回の登場人物
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・三ツ谷 華 (みつたにはな)
蓮太と同じく乙名学科を専攻、卒業し、沙汰人として、周囲からは女史と称える人格者。監査人といわれる権力に打ち克つ役職として、活動を開始した。前髪パッツンのボブスタイル、青いタータンチェックのベレー帽を被り、服装も気品漂うお嬢様スタイルに変貌。
・羽黒 宗助 (はぐろそうすけ)
乙名専攻学科卒業後、官人を束ねる官人所役となって活躍。黒の燕尾服に白のウィングシャツに黒のリボンにシューズを履いて如何にも紳士的な服装。
・冴島 五郎 (さえじまごろう)
乙名専攻学科卒業。日輪在住。時が経ち、宗助と同じ官人所役・日輪支部にて活躍。正義感が強く人道的だが応用の利かないところもある。今はスーツにネクタイ、シューズという姿で、祖柄樫山の闇組織・禍津社を追っていた。
・浦路 光之介 (うらじこうのすけ)
日輪の宝石商。宝石箱の唯一の生き残り。冴えない商人だが、ここ数年で大きく利益を出す。華らに命を救われ、協力することを誓う。違法なる南蛮人・ロベルト・ロマノとの秘密の取引場所を知る人物。
ーーー
・忌部 耕助 (いんべこうすけ)
ある場所で仙術を幾つか修得したという神出鬼没の謎の中年。頭は禿げ上がっているが、宣教師の様な服を纏い、紳士的な振る舞いを見せる。若い男性を愛でる趣味を持つ。
・雪平 若子 (ゆきひらわかこ)
忌部の教え子。中性的の魅力が溢れる美男子。紳士的であるが、殺しを生業とし、袖下にワイヤーを仕込む。化粧とお香を愛する自己愛と同性愛を重ね持つ。暇があれば常備するスカーフを手で靡かせる。
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【前回までのあらすじ】
違法宝石の流通を探る華は、次々と暗殺されていく重要参考人を保護することを考える。
華と宗助は、手に入れた顧客名簿に載る人物を追うも、❝宝石箱❞の顧客たちは、次々と暗殺されていくのだった…
華と宗助は、桐谷医院で死体と密書を見つけると、浦路と水本(貴婦人)が宿屋・波にいる事が発覚。
急ぎ、保護へ向かい、受付前で張り込んでいた。
不覚にも睡眠薬を混ぜたお茶で眠らされる宗助は、犯人が暗殺者・雪平若子と断定する。
急ぎ部屋へと向かう華と浦路は、惨殺された水本とその愛人を前に、憎悪と悲しみの気持ちを抱く。
浦路から、【宝石箱】の正体を聞くと、その一人【薔薇】は、祖母屋だった。
そして浦路が違法宝石を取引していたのは南蛮人で、その者の名はロベルト・ロマノ。
翌日、赤島の死体が上がり、華と宗助は、冴島と合流すると、福本も現れる。
赤島は心中したと処理する福本に、異を唱える華。
福本は冴島に、この事件の背後には九狼党の脅威を示唆される。冴島は、華に真実を話す代わりに条件として、今回は赤島の件から手を引いて貰う事を提示。
華ら一行は、秘八上へと向かうと、美咲の代理と瑠璃川と面会となる。
これまでの経緯と、薔薇も正体が祖母屋であることが、生存者の浦路からの情報と説明する華。
これに対し、瑠璃川は後日、連絡をすると残し、この場を解散する。
瑠璃川は、美咲に華との報告を済ますと、しばらく外回りをすると伝え外出する。
祖母屋と、その腹心・棋山は❝頭❞より結果報告にと一早く旅館・瀬織津へ赴いていた。初夢への対抗心を燃やす祖母屋。
しかし、二人へのその評価は散々たるもの。浦路は生きており、華は祖母屋の正体に気付いたことに、生かす価値を問うが、❝初夢❞が最後のチャンスを与えるよう、フォロー。
二人は、悔しながらも、それに応じ、華らの殺害へと向かう。
その運びをする❝初夢❞に才を感じる❝頭❞。❝初夢❞、彼女は実は❝瑠璃川 三葉❞だった。
そして、その正体も知らず、ただただ【宝石箱】根絶を目指す、華たちだった・・・
◎和都歴452年 3月25日 15時 置田村・秘八上 旅館・泡沫
「これからどうする?」
「宝石箱のメンバーを洗い出し、根絶するわ。」
宗助の問いに熱く答える華。
「その目星も、祖母屋だけだと、先は長いけどな。」
「デートでもあるのかしら?」
冴島がぼやくように答えると、華は皮肉を込めた笑顔を返す。
○調理場
調理師の死体の後ろで、2人の男が料理を運ぶ準備をしている。
「女史・華へ、最期の晩餐に特別メニューを…ね?」
小さな薪に設置された鍋の蓋を開けると、中に小瓶から妙な液体を入れる。
「葡萄酒も、オンリーワンな逸品に換えておきますね。」
料理の準備を終える2人。
「この仙術・変化を使うときがようやく来たね、若子君。」
「はい、耕助さん。」
2人は死んでいる調理師の姿に変化する。
「これで僕らだと認知の疑惑を向けられない限り、バレることはない…」
◎和都歴452年 3月25日 18時 置田村・秘八上 旅館・泡沫
ーガラ…
「あ、食事の時間かあ。」
華が時計を見ると、仙術・変化で欺く忌部と雪平が料理を運んでくる。
鍋は小さな薪がくべられた上に設置されている、しっかりとした鍋だ。
「うまそうな匂いだな。」
冴島が鼻を鳴らして席に着く。
「どれも祖柄樫山で採れた逸品です。」
雪平がそう言うと、忌部が掌で料理を指す。
「たまのご褒美も悪くないか。」
そう言うと宗助は席に着く。
「お鍋がメインですか?まだまだ寒いし、いいですね。」
浦路もそう言って席に着く。
「ええ。猪を使った豪華なお鍋。その名も【華鍋】…」
「あら、私と同じ名前なのね?」
興味を引かれるように席に着く華。
「おや、これは奇遇。滅多に食べれない食材で、舌も溶けるような味ですよ。」
雪平がケダモノの様に微笑む。
「楽しみだな。まずは乾杯からか。」
冴島が杯を手にし、酒瓶を見る。
「…あれ?」
華が料理の薫りと共にどこかで嗅いだ香りも感じる。
「酒は食前と食後。食前は日本酒を嗜んでいただき、食後は希少な葡萄酒を御用意しています。」
雪平が日本酒を注いでまわる。
「ここまでの捜査と途中経過に、乾杯!」
「では。より良い香りをご堪能ください。」
忌部が鍋の薪に火をつける。
「スゴい良い香りだ。」
浦路も鼻を鳴らす。
「食後の葡萄酒も更に良い香りですよ。」
雪平は葡萄酒を手元に掲げる。
「そう?私はそうは思わない。」
「…と、申しますと?」
「貴方から香るその香り?雪平って殺し屋とそっくりだわ。もしかして御存知かしら?」
「…」
華の洞察力に仙術・変化が効果を切らす。
「ーやはり!」
「さすがだ、華。」
宗助が隣に立っていた忌部の腹部に拳打を入れる。
「ぐぅ…!」
うずくまる忌部に鍋を被せる。
「う…うわぁ…うわぁぁぁ~!」
走り回る忌部の顔はみるみる溶けていき、部屋を飛び出していく。
「このぉ!」
雪平は日本酒の酒瓶で華を叩こうとする。
「やめろ!」
浦路が皿で雪平の頭を叩く。
ーパリン!
「…くそ!」
雪平は酒瓶を振り回すと、その腕に手刀を入れて酒瓶を奪う冴島。
「貴様ら…!」
雪平は転がる葡萄酒に目線を合わせると、それに気付く華。
華が葡萄酒の瓶を取り、雪平に投げつける。
ーパリン!
雪平の身体に飛散する中身は一気に燃え上がる。
「あ、熱い…@atpg/wtmj/...!!」
暴れまわりながら窓ガラスを割って飛び出していく雪平。
「危なかったわ…」
「あの2人、まさか祖母屋に雇われたのか?」
華のため息と共に、疑問を口にする宗助。
「…くそ!役立たずが…!」
陰から一部始終を見ていた人影が逃げていく。
次回2025/5/8(金) 18:00~「第三十話 状況整理」を投稿予定です。
※5月(金)はGW読書・強化月間です。
期間中は毎週(金) 及び祝日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。




