第26話 猛将・アイアンペールと最後の勝負!
敗色濃厚になっていたグランド国軍。
しかし猛将・アイアンペールの号令で息を吹き返した。
態勢を建て直すべく、続々とロンダート砦の橋桁に集結してくる。
総数は約500人。
その中央で指揮をとるのがアイアンペ―ルだ。
「さすがアイアンペールだな」
アンソニーは敵将に感服しつつ、こう続ける。
「我々はこのまま勢いに任せて攻めると苦戦するかもしれない」
スザンヌは数日前のことを思い出していた。
アイアンペールといえば、スザンヌが偵察に向かった際、
「牛飼い小娘に何ができる!?」
と罵ってきた男である。
そのときは目の前で刀を抜かれ、逃げるしかなかった。
スザンヌが言う。
「アンソニーが言うとおり、正面からぶつかれば長期戦になるでしょう」
「ああ、てごわい相手だ」
「ですから、私が正面から攻撃する姿勢を見せて陽動します」
「ということは、俺が別の動きをするんだな」
スザンヌがうなずく。
作戦は開始された。
軍旗を掲げたスザンヌが部隊を引き連れてロンダート砦に接近する。
「魔女が来たぞ!」
グランド国軍は警戒を強める。
スザンヌは白い軍旗を掲げ、兵士たちはいまにも突撃してきそうな構えだ。
アイアンペールは、
「牛飼い小娘め、返り討ちにしてくれよう」
と臨戦態勢である
しかしスザンヌの部隊は距離を保ったまま、なかなか動かない。
するとロンダード砦の内部にいた守備兵からアイアンペールに連絡が入った。
「橋に火が付けられています。橋を支える連結部分が焼かれています!」
「なんだと!」
ロンダート砦はバーレル川にかかる橋とともに建てられている。
もしこの橋が破壊されたら支えるものはなくなってしまう。
火責めを行ったのはアンソニーの部隊だった。
二手に分かれて両サイドの下側から潜り込み、油をかけたうえで火を放っていった。
グランド国兵はスザンヌの動向に気をとられ、この動きに気付かなかった。
橋が焼かれていることに気づいたころには、もう炎が大きくなっていた。
もはや戦いどころではない。
グランド国の兵士は総出で消火に走る。
しかし、もう遅い。
みるみる炎は広がっていく。
やがてロンダード砦にも火が燃え移った。
橋を支える連結部分は、ほとんど焼け落ちている。
やがて巨大なロンダード砦が、川にゆっくりと落下し始めた。
その上にいる大勢のグランド国兵士の悲鳴が響き渡る。
まるで爆発音のような大きな水音が響き渡る。
川に落ちたロンダード砦は、あっという間に沈んでいく。
数えきれないほどの兵士たちが水面で必死にもがいている。
多くの兵士は甲冑を身に着けていた。
浮かぼうとする努力はむなしく、水の中に沈んでいく。
その中の一人にアイアンペール司令官もいた。
力の限り泳ごうとするが、身に着けている甲冑が頑丈すぎた。
右腕を掲げながら深い水の中に沈んでいくアイアンペール。
最後は水の上に右手だけが見えた。
まるで何かをつかもうかとするように。
その最期を見て大粒の涙を流すスザンヌ。
彼女は思う。
〈彼は私を「牛飼い小娘」と罵倒した。しかしそれは、私のような少女に降伏を要求されたからだ〉
誇り高い軍人にとっては許しがたい屈辱だっただろう。
ロンダード砦に偵察にいった時も、最初は優しいおじさまだった。
見知らぬ少女に穏やかな笑顔で話しかけてくれた。
私のことをスザンヌと知るまでは……。
本来ならこんな残酷な殺し合いはしたくなかった。
今も川では数百人のグランド国兵が水の中でもがいている。
深く流れの早い川の中で。
助けを求める声。
死にたくないと訴える声。
しかし何もなすすべはない。
スザンヌは神に許しを求める――。
そして犠牲になった兵士たちが、天国に導かれるようにひたすら祈りを捧げた。
明日の夜もお会いしましょう❤




