↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
27/64

第27話 誰のために戦うか? 何のために戦うのか?

 グランド国の戦死者は約1000人にのぼった。


 翌朝に開かれたセーヌ国軍の戦略会議。

 エール軍の軍人たちの意気は上がっていた。

 彼らのほとんどが、グランド国軍の軍勢を叩くことを主張した。


 しかしスザンヌは今はそんな気持ちにはなれなかった。

 昨日、無数の兵士の気の毒な最後を目の前にしたばかりなのだ。


「どう思う? スザンヌ」


 総司令官のデシャンに問われたスザンヌ。

 この日が神の定める休息日であることを理由に、こう答える。


「今日は神様がお休みとおっしゃる日ですから、戦いのお話もお休みにしませんか?」


 誰もが耳を疑うような返事。

 将校たちは拍子抜けしたような顔だ。


 一方、多数の犠牲者を出したグランド国軍。

 バーレル川の最後の拠点だったロンダート砦を失った。

 これによってバーレル川の南岸はセーヌ国が制圧。

 パビリオンはもう、南側からは自由に補給が可能な状態だ。

「包囲戦」は完全な失敗に終わった。


 グランド国軍の司令官スールシャールはこの戦いの幕引きを始めた。

 パビリオン周辺からの完全撤退を決定。

 バーレル川にかかった橋を完全に破壊し始めた。

 セーヌ国軍に川の通行を自由にさせまいとする意図だ。


 もともと彼は優れた知力と戦術眼で名高い司令官だった。

 長髪で立派な髭をたくわえているが、その瞳の色は品性の高さを感じさせる。

 身にまとう赤いマントもよく彼に似合っている。

 セーヌ国軍との戦いは、スザンヌが出現するまでは、彼の連戦連勝だった。

 戦術の質の高さで先手先手を取り続け、セーヌ国軍を圧倒したからだ。


 ところがスザンヌが参戦してから戦況は一気に逆転した。

 今回の戦いでは、セーヌ国に圧倒されて大量の兵士を失った。

 川に落ちて溺死したアイアンペールも彼が可愛がっていた部下だった。


 最後にスールシャールは生き残った兵士たちを再結集させた。


〈セーヌ国軍は必ず追い打ちをかけてくる〉


 そう予測したスールシャールは迎え撃つ準備を整えたのだ。

 頼もしい男の顔もその中にあった。

〈グランド国のアキレス〉の異名をとるアマゴットだ。

 気の強そうな鋭い眼光、顔や腕に残る傷跡、歴戦を経験してきた猛者である。 


 バーレル川の北岸にあるラコーンの草原。

 グランド国軍の残存部隊はそこに集結した。

 

 一方のセーヌ国司令官のデシャン。

 追撃か、様子見か。

 迷っていたところに、グランド国軍集結の知らせが入った。

 デシャンはセーヌ国の司令官たちに緊急指令を出した。


〈大至急、バーレル川の北岸に集結せよ〉


 ほどなく、ラコーンの草原で、グランド国軍とエール国軍の軍勢が対峙した。


 平場の野外戦。

 条件は五分五分。


 セーヌ国にとっての問題なのは、野外戦を非常に苦手にしていることだ。

 スザンヌが参加する前は連戦連敗が続いていた。


 ここで戦えば、双方に、かなりの犠牲が出るだろう。

 長い激戦になるだろうし、すぐには決着もつきそうにない。


 緊張感の中、両軍とも動きはない。

 そして、ずっとそのままそのまま時が流れていく。


 白馬に乗ったスザンヌは、ゆっくりと部隊をグランド国軍の方に進ませる。

 そして相手国兵士の顔が見えるあたりまで近づくと、こう呼びかけた。


「私はセーヌ国軍のスザンヌです」


 そしてこう続ける。


「あなたたちに降伏することを勧めます」


 するとグランド国から赤いマントの男が進み出た。

 かたわらには血気盛んそうな部下を連れている。


「それはできない、エール国の乙女よ」


「あなたは誰ですか?」


 スザンヌが聞くと、赤いマントの男が答える。


「私はグランド国軍の司令官・スールシャールだ」


 そして傍らの男も言う。


「俺は軍人のアマゴットだ」


 スールシャールが、彼の肩に手を掛けながらいう。


「アマゴットはわが国が誇る勇敢な騎士だよ」


「よろしく、スールシャールさん、アマゴットさん」


 スザンヌが言う。

 スールシャールは、あらためてスザンヌに言う。


「さて、キミがまず話し合いに臨んでくれたのは、今回は戦いを望んでいないからだろう」


 スザンヌが言う。


「そのとおりです。戦えば我々は勝てるでしょう。しかし両軍に多大な犠牲が出ます」


 スールシャールも言う。


「私も同意見だ。戦えば私たちが勝つだろう。しかし被害は甚大になる」


 スザンヌが言う。


「そんな戦い、誰のためなのでしょう? 戦いのための戦い?」


 ス―ルシャールも言う。


「そんな戦いは望まない。今回は黙って北へ進ませてくれないか? すぐにまた決着をつける時がくるはずだから」


 対してスザンヌがこう答える。


「いいでしょう。本日は神様が定めた休息日です。天も平穏を望んでいるはずですから」


 スールシャールが笑みを浮かべる。


「ありがとう、スザンヌ」


 そして、こう続ける。


「君は、神の乙女とも、魔女、とも言われているが、実際に見たら、美しい少女だった」


 スザンヌは、


「スールシャールさんこそ、凛々しいお姿ですよ」


 と微笑む。


「また会おう、スザンヌ」


 スールシャールは踵を返して歩き去る。

 先の戦いでグランド国に莫大な戦死者が出た。

 なんとしても部下を守り、もう無駄な戦死者は出したくないと考えるスールシャール。

 スザンヌは彼の背中にそんな決意を感じた。

今日、ブックマーク増えてました。うれしい❤

明日も20時くらいにお会いしましょう♡♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。