39 みんなのコロナちゃん
コロナちゃんの後ろ、1メートル先の位置に立たされていたマジェスティックは、コロナちゃんとロックダウンくんの会話に聞き耳を立てていた。
「コロナちゃん、おめでとう」
コロナちゃんはちらりとふり返り、マジェスティックに微笑んだ。
マジェスティックから3メートル離れた場所にサービスはいた。
「え? コロナちゃんがどうかしたんですか」
「コロナちゃんに恋人ができたんだよ」
「ええ!? それはすばらしい。相手はどなたですか」
「よくわからないがついさっきここに来た少年だ。アマビエ様とも知り合いだそうだ。バイクに乗ってやってきたらしい。箱に入れられていたとも言っていたな。あとけん玉を持って走ったって」
「そうですか。とにかくめでたいですね。コロナちゃん、おめでとう」
コロナちゃんに恋人ができたという噂はこうして人から人へと伝播し、やがてレッドブリッジ上のすべての人々の知るところとなった。
「コロナちゃんに恋人ができたらしいよ」
「相手の男はアマビエ様とも知り合いだって」
「コロナちゃん、おめでとう」
「コロナちゃんの恋人がバイクで乗り込んできたらしいぞ」
「アマビエ様の元恋人だって」
「恋人はけん玉名人だ」
「コロナちゃん、おめでとう」
「箱を持って走ったって聞いたよ」
「コロナちゃんの恋人がバイクにひかれたんだ」
「アマビエ様の恋人はコロナちゃんだったのか」
「けん玉に乗ってやってきたんだって」
「コロナちゃん、おめでとう」
「箱にバイクが入っている」
「恋人はけん玉」
「アマビエ様がバイクで元恋人をひいたらしい」
「コロナちゃんに恋人ができたって」
「コロナちゃん、おめでとう」
「がんばれ、コロナちゃん!」
「コロナちゃん、おめでとう」
「負けるな、コロナちゃん!」
「コロナちゃん、おめでとう」
「さあ行け、コロナちゃん!」
「コロナちゃん!」
「コロナちゃん!」
「コロナちゃん!」
「コロナちゃん!」
「コロナちゃん!」
レッドブリッジは三たびコロナちゃんの名の大合唱に包まれた。
ピーポくんたちは「テロリスト」たちの騒ぎを抑えるために、ひとりひとりに猿ぐつわをして回った。
この措置に会長が激しく抵抗した。
混乱を収めるためにたとえ手足を拘束されることがあっても、発言の権利を奪われることだけは絶対に許されないと主張した。
アマビエ様とサファイアがその意見に同調した。
コビット三兄弟が突然三人同時にぶっ倒れた。
サービスは救急車を呼んでほしいと懇願した。
マジェスティックは密かに親指の関節を外し、手錠を抜いた。
マジェスティックはサーズの拘束を解いた。
ピーポくんたちは警棒でマジェスティックとサーズを激しく殴打した。
マーズは叫び狂うような声をあげた。
サーズの腕からこぼれおちたレムデシビルの目が瞬いた。
レムデシビルはピーポくんたちに信号を送り、彼らを教育した。
ピーポくんたちは「テロリスト」たちの拘束を解き、何事もなかったかのようにどこかへ行ってしまった。
そして朝が来た。
人々は各々の持ち場に帰っていった。
ある者は家に帰り、ある者はそのまま職場へと向かう。
アマビエ様はパチンコへ行く。
昨日火災のあったパチンコPCRは早くも復旧していた。
サーズとマーズはコビット三兄弟に新しい依頼をする。
今日も一日仕事があるからと、レムデシビルのお守りを託す。
サファイアとマジェスティックは母親に呼び出され、叱責されるだろう。
サービスは今日も受付に立ち、でたらめにファックスを送るだろう。
会長は古い生活様式を守る会をいったん解体し、新たな組織を立ち上げる。
その組織を「命を守る会」と名づけるだろう。
ロックダウンくんは新しい仕事を探しに行くだろう。
昨日と同じような今日がはじまった。
だが昨日とは確実に何かが違っていた。
コロナちゃんのことをこの街のみんなが知っていた。
誰もがコロナちゃんと出会うたびに、コロナちゃんの名前を呼ぶだろう。




