38 コロナちゃんとロックダウンくん
「えっさ、ほいさ」
「ほいさ、えっさ」
「えっさ、えっさ、ほいさ」
「レッドブリッジが見えて来たぞ」
「やっとか」
「誰だよ、レッドブリッジが近道だなんて言ったやつは」
「17号だ」
「道を間違えたのは18号だ」
「最初の分かれ道を右へ曲がれって言ったのは19号だぞ」
「俺がそう言ったのに左へ行ったじゃないか」
「19号はいつも間違うからな。反対を選ぶのが正解なんだ」
「やっぱり俺が正しかったじゃないか」
「ありゃ? なんだなんだ?」
コビット三兄弟がレッドブリッジに到着した。
道に迷って何度も同じ道をぐるぐる回って、ようやくたどり着いたのだった。
だが、レッドブリッジの入り口では2名のピーポくんが通行をさえぎっていた。
「ピピピピーポ! レッドブリッジは現在封鎖されている」
「ピピピピーポ! 通行は不可能だ。引き返しなさい」
「そんな、苦労してここまで来たのに!」
「俺たちの苦労を返せ!」
「だからレッドブリッジなんてやめておけって言ったんだ!」
「ピピピピー! ピピピピーポ! 警察に対する暴言を感知!」
「違います。違いますって!」
「俺たちはただお互いをののしりあっていただけです!」
「封鎖って何があったんですか」
「ピピピピーポ! テロ組織の大規模集会がここで行われていた」
「ピピピピーポ! 5人の警察官がテロ行為の犠牲になった」
「へえー。そりゃ怖いですね」
「ピピピピーポ! おまえたちもテロリストの仲間か」
「そんな。めっそうもございません」
「ピピピピーポ! その箱の中身はなんだ」
「ピピピピーポ! あやしい。あやしいぞ」
ピーポくんはコビット三兄弟がかついでいる楽器ケースを指さす。
「これは、別にあやしいものじゃないですよ」
「別にこれはあやしくないただの人間です」
「あやしくない人間がこの中に入ってます」
「ピピピピーポ! 見せてみろ」
コビット三兄弟は楽器ケースを地面に置き、開けた。
中には長時間揺らされてぐったりしたロックダウンくんがいた。
「ピピピピー! ピピピピーポ! 犯罪行為発見! 誘拐行為発見!」
「ええ!? 誘拐なんかじゃありませんよ」
「ピピピピーポ! 現行犯逮捕する」
手錠をはめられたコビット3兄弟は、レッドブリッジの中央付近まで連行され、「テロリスト」たちと一緒に拘束された。
ロックダウンくんはあとで事情聴取を行うと言われただけで自由の身だったが、コビット三兄弟が心配で一緒について行った。
レッドブリッジの上では、両手両足を拘束された膨大な数の「テロリスト」が、周囲からきっちり2メートルの距離を保って直立させられていた。
その間を縫うようにやはりたくさんの数のピーポくんたちがうろついていた。
中央付近では、2メートルの距離では面積が足りなくなったのであろう、「テロリスト」同士の距離は1メートルまで縮まっていた。
「ピピピピーポ! ここがあいている。ここに立て」
「ピピピピーポ! おまえたちは三人一組だから距離はいらないだろう」
コビット三兄弟は三人の肩で三角形をつくるような布陣で背中あわせに立たされた。
「テロリスト」の中には、ロックダウンくんの知っている顔がいくつもあった。
何千回と動画で見た憧れの人、アマビエ様。
昨夜のアマビエ様の動画のゲスト出演者、古い生活様式を守る会の会長。
ピーポくんたちに襲われたところを助けてくれた二人の女性、サーズとマーズ。
そして……コロナちゃん!
「コロナちゃん!」
「ロックダウンくん!」
ロックダウンくんはコロナちゃんのそばにかけよる。
「コロナちゃん……。どうしてここに……」
「ロックダウンくんこそ……」
ロックダウンくんの目から涙があふれる。
コロナちゃん……、会いたかった……。
「今日はいろんなことがあったよ。変な仮面をつけた人から仕事を頼まれた。それで重い荷物を運んで、警察にも追いかけられた。バイクにも乗ったんだよ。それから箱の中に閉じ込められて、何時間も揺らされた」
「ふふふ。おもしろいね。私もいろんなことがあったよ」
「アマビエ様にも会ったんだよ。アマビエ様、知ってる? 昨日、カラオケで歌ったでしょ、アマビエ音頭。アマビエ様が走ってきて、燃えるけん玉を渡された。それでぼくもけん玉を持って走ったんだ。ああ、何言ってるのか、よくわからないよね……」
「アマビエ様、知ってるよ。ここにも、いるよ。私とおんなじで、捕まっちゃってるけど」
「うん。今日はいろんなことがあったけど、ずっとコロナちゃんのことを考えてたんだ。コロナちゃんにまた会いたいってずっと思ってた」
「そうなの? 私はロックダウンくんのことあんまり考えなかったな。あ、でもね、さっきこの橋の上から川を見ているとき、一回だけ思い出した。ロックダウンくん元気かなって」
「そっか……。よかった……」
ひとりのピーポくんがロックダウンくんとコロナちゃんが話しているのに気づく。
「ピピピピー! ピピピピーポ! 違法行為発見! 公共の場で50㎝以内の距離で会話することは禁止されている」
ロックダウンくんはコロナちゃんの手を握る。
「違うんです。ぼくたち恋人なんです。恋人や家族なら、50㎝以内でもいいんですよね、たしか」
「ピピピピーポ! そうか。恋人なら問題ない」
ピーポくんはつまらなそうにその場を立ち去る。
「ねえ、私たち恋人なの?」
「え……? それは、その……」
ロックダウンくんは慌ててコロナちゃんの手を離す。
「いつから?」
「いや、だから、それは、誤魔化すための嘘というか……、もし本当に恋人だったら、いいなとは思うけど……」
「ふーん」
「ごめん、ちゃんと言うよ……。コロナちゃん、好きです! ぼくと付き合ってください!」
ロックダウンくんは20㎝の距離でコロナちゃんを見つめた。
コロナちゃんは、今朝のロックダウンくんの寝言に腹を立てたことを思い出した。
いまは、面と向かって言われて、そんなに悪くないと思えた。
悪くない。
あるいは、どちらかといえば良い。
「うん。いいよ」




