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みんなのコロナちゃん  作者: 新型
37/40

37 この街の終わり

 レッドブリッジは「デモ」参加者であふれていた。

 正確な人数は誰も把握できなかったが、主催者発表で20万人、警察発表で2万人と報じられるほどの数の人間が集っていた。


「この餃子おいしー! サファイアさん、これ追加で注文お願い」

「はいはーい。何人前とろっか?」

「とりあえず5,000人分くらい? あとワインも追加で」

「いや、それ多すぎないっすか。てゆーか、アマビエ様、餃子とワインって合わなくないですか?」

「はあ? あなたまさか餃子といえばビール一択とか言うんじゃないでしょうね。そんな固定観念に縛られるわけ? これだからダイヤモンド・プリンセスは」

「いや、ダイヤモンド・プリンセス関係ないし。餃子とワインの組み合わせがあり得ないって言ってるだけだし。ねえ、会長」

「どうですかね。私、実は下戸なんで、よくわからないです」

「ほら!」

「いや、別にあんたに同意してねえし」

「じゃあ餃子とワインとビールと日本酒、5000人分ずつ注文するねー」


 デモとは名ばかりで、レッドブリッジは数万人規模の大宴会場と化していた。

 いつの間にかしれっとアマビエ様も合流し、豪快に酒を飲んでいた。

 アマビエ様が宴会の様子を配信すると、当初のデモ参加者に加えてアマビエ信者や古い生活様式を守る会の会員、結社ダイヤモンド・プリンセスのメンバー、はては純粋にタダ酒にありつきたい輩まで、有象無象の面々が続々と集まってきたのだった。


「いったいなんなの、これ……?」

「こいつらなんで橋の上で酒飲んでんだよ!」


 サーズとマーズがレッドブリッジに到着したときには、すでに宴もたけなわとなっていた。


「どうもこんばんは。よかったらこちらどうぞ」


 橋のたもとで場内案内をしていたサービスはサーズとマーズにビールを差し出す。


「こちらはダイヤモンド・プリンセスのサファイアさんのおごりです」

「ああ!? 誰だてめえ」

「すいません! 申し遅れました。私はその、サービスといいます。一応このデモの呼びかけ人のひとりでして」

「ああ、あのペスト氏のマスクをかぶってたやつのうちの一人か」

「ペスト氏?」

「まあいいや、くれるっていうならもらっとくけどよ」


 サーズとマーズはビールを受け取る。

マーズは受け取るなり一気に飲み干す。


「はー。うめえ!」

「ありがとう。それじゃあサファイアさんにご挨拶させてもらおうかしら。どちらに?」

「橋の中央のあたりです。ご案内します」


 サービスは二人をサファイアたちがいるレッドブリッジの中央へ誘導する。


 その頃、コロナちゃんは橋の欄干に手をかけて川を見下ろしていた。

 大人たちに混ざって宴会に参加するのに疲れて、夜風を感じたい気分だった。

 今日もいろんなことがあった一日だったな。

 給付金をもらいに行ったところで、マジェスティックとサービスに出会った。

 それから動画を撮影することになって、これまで打ち明けたことのない自分の半生についてしゃべった。

 その動画をたくさんの人が見た。

 デモ会場に来たら、みんなが自分の名前を呼んだ。


 あれ?

 その前は何してたっけ?

 そうだ、ロックダウンくんと別れたんだった。

 別れ際に、何かひどいことを言った気がする。

 何を言ったのか、思い出せない。

 ロックダウンくん、元気にしてるかな?


 上空でバタバタと音が鳴るのが聞こえた。

 見上げると飲食を運び届ける大量のドローンに混じって一台のヘリコプターが飛んでいた。

 ヘリコプターのドアがひらき、こどもくらいの背丈の人々が何人も落下した。

 彼らはコロナちゃんの目の前に着地した。


「ピピピピー! ピピピピーポ! 違法行為発見! 違法行為発見!」

「ピピピピーポ! 危険性の高い大規模集会を発見!」

「ピピピピーポ! 公共の場での許可のない集会は禁止されている!」

「ピピピピーポ!」

「ピピピピーポ!」


 ピーポくんだ。

 ピーポくんのひとりがコロナちゃんの腕をつかむ。


「ピピピピー! ピピピピーポ! 未成年飲酒発見! 現行犯逮捕する」

「え? 私、お酒なんて飲んでないよ!」

「ピピピピー! ピピピピーポ! 対象の反抗的な態度を感知!」

「ピピピピーポ! 対象を拘束する」


 突然のピーポくん集団の登場に、場は騒然となる。


「ピーポくんがいるぞ!」

「コロナちゃんが襲われてる!」

「おい、その子はまだ子供だぞ!」

「コロナちゃんから手を離せ!」

「この権力のロボット犬が!」

「ピーポくん、許すまじ!」


 群衆の中のひとりがピーポくんに向かって突進していく。


「ちょっと! ピーポくんに暴力はやめなさい! たいへんなことになるわよ!」


 騒動に気づいたサーズが呼び止めようとするも、ときすでに遅し、突進していった男とピーポくんがもみあいになると、多数の人々があとにつづいた。

 押し寄せる群衆を前にピーポくんたちになすすべはなく、人々はコロナちゃんを救い出し、すべてのピーポくんを川に突き落とした。


「やった! ピーポくんに勝ったぞ!」

「警察なんかに負けるか!」

「俺たちは自由だ!」

「コロナちゃんも無事だ!」

「コロナちゃん!」

「コロナちゃん!」

「コロナちゃん!」

「コロナちゃん!」


 場は再びコロナちゃんの大合唱となった。


「あら、サーズにマーズ。あなたたちも来てたの?」


 アマビエ様がサーズとマーズに気づく。


「アマビエ、てめえ!」

「こっち来て、一緒に飲も」

「なにぬかしてやがる!こいつ」

「待って、マーズ。いまはそれどころじゃないわ」


 ドレスの内側から鈍器を取り出しかけたマーズをサーズは制する。


「アマビエ、わかってる? こんな大規模な集会、それだけでも大きな問題になりうるけれど、なによりもピーポくんへの暴力行為が起こったのよ。5分後には大量のピーポくんがここへ押し寄せるわ。ここにいる人たちは隈なく逮捕されるでしょうし、この街は警察の徹底的な管理下に置かれるわ。そうしたらもうこの街は終わりよ」

「終わりね……。あ、5分もかからないかったみたい」


 アマビエ様は上空を指さす。

 おびただしい数のヘリコプターがこちらに向かってきていた。

 もはやドローンは一台も飛んでいなかった。

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