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みんなのコロナちゃん  作者: 新型
27/40

27 給付金10万円

 午後2時。

 結社ダイヤモンド・プリンセスのマジェスティックはサービスデザイン推進センターに来ていた。

 

「それで、この紙に申請理由を書けばいいんですね?」

「はい。審査の結果申請理由が妥当であると認められた場合のみ受理されます」

「これ、裏と表ありますけど」

「はい。両面書いてください」

「そんなに書くことないですけど」

「では、受け付けられませんね」

「これ、手書きじゃなきゃいけないんですか」

「はい。メール等での提出は受け付けておりません。筆跡鑑定による本人確認もかねておりますので。また、書き損じた場合は最初からお書き直しいただく必要があります」

「ひと昔前の履歴書みたいだな」

「なんですか?」

「あ、いえ、先月まではこんな書類なかったはずですが」

「今月からルールが変更になりました。必要な方にスピード感を持って給付金をお届けするための措置です」


 マジェスティックは今月の給付金10万円を受け取るためにここにきていた。

 全国民に一律10万円を給付する特別定額給付金の制度は2020年にはじまったものだ。

 当初は1回限りの給付が計画されていたが、感染症の再三の流行により継続的な給付への国民からの要求が高まると、支持率の急速な低迷を懸念したときの政権が感染症終息まで毎月給付することを決定したのだった。


「スピード感ね……。審査にはどのくらいかかるんですか」

「審査機関に届けるまでに約2ヶ月。審査に約3週間。審査結果を郵送でお届けするのに2週間ほどです」

「審査機関に届けるだけで2ヶ月もかかるんですか?」

「はい。1枚1枚ファックスで送る必要がありますから」

「ファックス……」

「二重給付防止のために、ここにはファックスは1台しかありません。ですから順番待ちになります」


 受付の男は傍らにうず高く積まれた紙の山を指さす。


「これ、全部、私ひとりで送るんですよ」

「それはたいへんですね……」


 給付作業はかつては各地方自治体の役所が担っていたが、あまりにも通常業務を圧迫するため、現在はサービスデザイン推進センターが一括で請け負っている。

 サービスデザイン推進センターは、給付率を下げるために、給付に要する手続きをあえて煩雑にし、しばしばルールを変えた。

 受け取りまでの時間的コストがあまりにも高いため、ここ数年は給付金を受け取れている人数は国民の1%にも満たない。


「でも、そもそも審査するっておかしいですよね? 国民全員に無差別に一律で給付する制度のはずですよね?」

「審査といっても、受理されなかったからといって受け取りの権利が失効するわけではないんです。単に書類上の不備があったというだけですから、もう一度出し直していただければ再審査が受けられます」

「再審査も何ヶ月もかかるんでしょう?」

「何ヶ月になるのか何年になるのかは誰にもわかりません。ですから1回で通るようにしっかり申請理由を書くことをおすすめします」

「ちっ……」


 マジェスティックはしぶしぶ申請用紙を受け取り、記載台に向かう。

 

 マジェスティックにとって給付金10万円などはした金だった。

 結社ダイヤモンド・プリンセスの幹部として多額の上納金が入るし、プリンセスグループの多数の会社に役員として名を連ねていたから、役員報酬だけでも自由に使える金はいくらでもあった。

 10万円の給付金を毎月律儀に受け取りに来ているのは、ビジネスのためだ。


 マジェスティックは「給付金10万円獲得必勝法」というサイトを運営していた。

 複雑怪奇をきわめる給付金獲得のためのノウハウを伝授する有料会員サイトだ。

 「月々たった5,000円の投資で10万円が絶対もらえる!」を謳い文句に会員を集めた。

 大学の友人にサイト制作や広報を手伝ってもらって、開設から半年でようやく会員数50人を突破したところだ。

 

 サイトの信憑性を高めるためには、実際に給付金を得たことを証明するものが必要だった。

 先月まではあの手この手を使ってなんとか給付金を得た。

 しかし今回のルール改訂は厄介だ。

 なにより時間がかかりすぎる。

 もし今回、いつまでも給付金を得られなかったら、せっかく増やした会員もあっという間に解約してしまうだろう。


 プリンセスグループの会長をつとめる母親の庇護の下、金に不自由したことのないマジェスティックだったが、絶対に当たる!と確信して、初めて一から自分でつくりあげたこのビジネスをなんとしても成功させたかった。

 背に腹はかえられねえ。


 申請理由をひねりだし書き殴ったマジェスティックは、申請用紙を持って再び受付の男のところへ戻る。


「書けました」

「はい。たしかに受領しました」

「それで、お願いがあるんですが、いちばんにしてもらえませんか?」

「は?」

「そのファックスで送るのを、いちばん先にしてもらえませんか」

「なに言ってるんですか。できませんよそんなこと。われわれは公平性を何よりも重んじておりますから」

「100万円でどうでしょう!!」


 マジェスティックは胸ポケットから一粒のダイヤモンドを取り出し、男の前に差し出した。


「このダイヤ、市場価値は100万円ほどです」

「10万円の給付金のために、100万円出すのですか……」

「お納めください!」

「ちょっとあなた、困りますよ」

「200万円でいかがでしょうか! お願いします!!」


 マジェスティックはさらにもう一粒ダイヤを差し出し、深々とお辞儀した。

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