22 擬態するレムデシビル
午前9時。
サーズとマーズの自宅。
「おいおいおい。おい、やべーよ。おい、サーズ、見ろよこれ」
「はいはい」
「かわいすぎねー、これ」
ペスト氏から購入したヒト超越型ロボット・レムデシビルに、マーズは届いたばかりのベビー服を着せた。
「かわい……すぎ……?」
「そう!かわいすぎ!レムちゃん、超キュート!これもかぶってみて」
「これも……かぶる……」
マーズはレムデシビルにニットキャップをかぶせた。
レムデシビルは、かつて全品回収になったロボットと同じ見た目だから、そのままの姿で外を出歩けば騒ぎになりかねない。
そんなわけで、昨夜フリマアプリのプレミアム特急便で変装用のベビー用品を注文したのだった。
「じゃあ、次こっち着てみようか」
マーズは、段ボール箱いっぱいのベビー服の中から赤いボーダー柄のカバーオールを取り出してレムデシビルに着せ替えた。
「なにもそんなにたくさん買わなくてもよかったのに」
「いいのいいの。レムちゃんはおしゃれさんなんだから。ほら、こっちもいい!レムちゃん、赤も似合う」
「あかー」
「そうだよー。ママとお揃いだよー」
「ママー! おそろいー」
「きゃー!!聞いた?ママって呼んでくれた」
「意味わかって言ってるのかしら」
「レムちゃん、ほら、こっちの感じ悪いのがパパだよ」
「パパじゃないし」
「パパー!だっこー」
「ほら、抱っこしてやりな」
サーズはしぶしぶレムデシビルを抱きかかえる。
レムデシビルは大きな二つの目をぴかぴかさせてサーズに笑いかけた。
いや、レムデシビルには笑顔の表情をつくる機能はないのだが、サーズには笑っているように見えた。
サーズがマーズと一緒に暮らすようになったからもう5年だ。
こどもを産んだり育てたりするような人生は想像したことがなかった。
「ねえ、マーズ。やっぱりパパって呼ばせるのやめない?」
「なんで?サーズがママがよかった?」
「そうじゃなくて。どっちが母親役で、どっちが父親役とかそういうの嫌なんだけど」
「ふーん。私はママって呼ばれるのうれしいけどな」
「あなたの方はそのままでもいいわ。私のことは名前で呼ばせる」
サーズはレムデシビルの顔をじっと見つめる。
「ねえ、レム。私の名前はサーズよ。私のことはサーズって呼んで」
「サーズ」
と、そのとき、ビデオ通話の着信が鳴った。
コビット三兄弟からだ。
サーズはレムデシビルを抱きかかえたまま通話に出る。
「おはようございます。こちらコビット探偵事務所です。サーズさんとマーズさんですか」
「コビット探偵事務所です。サーズさんマーズさん、おはようございます」
「サーズさんですか。マーズさんですか。こちらコビット探偵事務所です」
「サーズよ。マーズもいるわ」
「朝早くからすみません」
「すみません。朝早くから」
「なんて早い朝だ。すみません」
「おう。おまえら、ちゃんとアマビエの調査はやってるのか」
マーズもビデオ通話に加わる。
「それはもう!昨日も寝ずに調べました!」
「調べております!全然寝てないんです!」
「まったく!本当に少しも!寝ていません!」
「それで?用事は何」
「アマビエ様に関してひとつ重要な動きがありまして、是非ともいち早くお伝えしたいと」
「いち早くお伝えすべき重要な動きです。是非とも!」
「是非ともいち早くこの重要な動きをお伝えしたい!」
「わかったから早く言って」
「なんとですね!われわれ以外にも、アマビエ様を探している者がいて……」
「アマビエ様を!なんと!われわれ意外にも!探して……」
「われわれ以外に!アマビエ様!なんと!……」
「ちょっとあなたたち、落ち着いて。それと三人でいっぺんにしゃべらないで」
「がはは。何言ってるか全然わかんねー」
コビット19号は17号と18号の口に布マスクをつっこみ黙らせる。
「失礼しました。それではわたくしから代表してご報告いたします。昨夜の深夜、正確には本日の午前1時頃から、アマビエ様のライブ配信がございまして、残念ながらわれわれ見逃したのですが……」
「ああ!?見逃した!?」
「すいません!突発的だったので。でもちゃんと録画をさっき見たんです、2倍速で。それでですね、その配信には古い生活様式を守る会の会長も出演していたんです」
「そのことはすでに私たちも知っているわ」
「はい。それでここからが本題なんですが、その配信をきっかけに、結社ダイヤモンド・モンドプリンセスが動き始めたようなんです。奴ら、アマビエ様を探してるんです」
「ダイヤモンド・プリンセスが?」
「はい。しかもですね、ある情報筋からつかんだところによると、サファイアとマジェスティックが動いてるそうで」
「ナンバー2とナンバー3の二人ね」
「はい。この二人が対応してるってことは、ダイヤモンド・プリンセスも相当この件に本腰を入れているんじゃないかと」
「厄介ね。とにかく彼らより先にアマビエを見つけるのよ。私たちも探すわ」
「絶対先を越されるなよ!」
「はい!もちろんです!」
「それじゃ」
「あ!サーズさん!」
「サーズさん!」
黙っていた17号と18号が口を開く。
「さっきから気になってたんですけど、その子、サーズさんのこどもですか?かわいいですね」
「かわいいお子さんですね!さっきから気になってました!」
「さっきから気になるかわいいお子さんです!」
「いや、こどもっていうか……」
「そうだよー!私とサーズのこどもだよ!今度紹介するねー」




