21 ディスタンス
午前8時。
コロナちゃんとロックダウンくんはインターネットカフェ・PCRを出たところだ。
「結局全然寝なかったの?」
「うん」
「どうして?」
「理由なんてない」
「寝なくて大丈夫?」
「1日や2日寝なくても人間は死なない」
「でも少し休まないと。昨日だって公園で野宿だったんでしょ?」
「ほっといてよ。あなたには関係ない」
「コロナちゃん……なんか怒ってる……?」
「別に怒ってない。はらわたが煮えくり返っているだけ」
「はあ……」
ロックダウンくんはそれ以上どんな言葉をかけていいかわからず、二人は黙々と歩き続けた。
交差点に差し掛かる。
信号は赤だ。
ロックダウンくんは立ち止まる。
「コロナちゃん、赤だよ」
コロナちゃんはかまわず歩いていった。
自動運転車がコロナちゃんに衝突する寸前のところで急ブレーキをかけた。
居眠りをしていた運転手は飛び起きて何事が起ったのかと周囲を見渡す。
コロナちゃんを追いかけて走っていくロックダウンを睨みつける。
「いや、ぼくじゃないですよ」
交通事故信号を受信した周囲半径200メートル内のすべての車両が一斉にストップした。
パトカーのサイレンが近づいてくる。
ストップした車両は警察による現場検証が終わるまで動いてはならないという規則があった。
あらゆる自家用車の自動運転化が完遂した現在、滅多なことでは大きな交通事故は起こらない。
その代わりちょっとした事故の兆しで一帯が大混乱に陥るのはよくあることだった。
「コロナちゃん、危なかったよ」
「どうせ自動車は人間を轢けないのよ」
「そうだけどルールは守らないと。みんな迷惑するし」
「知ったことか」
「コロナちゃん、そうだ、朝ご飯食べない? 近くにちょっとおもしろいカフェがあるんだ。24時間やってて、向かい合わせで座れるテーブルもある。ちょうどモーニングの時間だから、無料でトーストがついてくる。ほら、お腹いっぱいになると怒りがおさまるって言うでしょ?」
「帰る」
「え……?」
「私、帰る」
「帰るって……どこへ……?」
「どこだっていい。あなたのいない場所ならどこでも」
「そんな……」
「じゃあね。さよなら」
「ちょっと待ってよ」
「昨日はありがとう。そこそこ楽しかった。お元気で。もう二度と会うことはないだろうけど」
コロナちゃんはそう言うなり走り出した。
車道の真ん中を、停止した車両の合間を縫って全速力で駆け抜けていった。
ロックダウンくんは茫然と立ち尽くしていた。
追いかけなきゃと思ったけれど足が動かなかった。
コロナちゃんはどんどん離れていく。
もし追いかけて拒絶されたらと思うと怖くてその場から動けなかった。
あ、連絡先聞いてないや。
本当に二度と会えないの?
でももう間に合わない。
コロナちゃんはすでに遙か彼方だ。
それにコロナちゃんは足が速すぎる。
ロックダウンくんは小さくなっていくコロナちゃんの背中を見つめることしかできなかった。




