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みんなのコロナちゃん  作者: 新型
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20/40

20 ポリメラーゼ・チェーン・リアクション

 午前6時。

 インターネットカフェ・PCRにいるコロナちゃんはまだ起きていた。

 昨夜から一睡もせずにポリメラーゼでマンガを読み続けていた。


 PCRが開発したマンガ専用端末ポリメラーゼは、マンガを楽しむことに特化した高機能タブレットだ。

 あらゆるマンガをフルカラーに変換するAI着色機能や、よく見たいコマを自動で適切なサイズに表示するオートズーム機能、絵のタッチを好みのマンガ家のそれにまるごと変換するマンガ家チェンジ機能などを備える。

 速読支援モードに設定すると、ユーザーの視線の動きやスピードを感知し、眼球運動の負担を最小限にすべく画面に表示されるコマやページの自動切換えがなされた。

 このモードで読むと通常の1.5倍から2倍の速度でマンガを読み進めることができた。


 コロナちゃんは手始めに、自分が生まれた年に人気絶頂の中完結した大ヒットマンガを読んだ。

 残酷な描写が多いという理由で施設では読むのが禁止されていたマンガだ。

 コロナちゃんはもともとマンガを読むのが極めて速かったため、速読支援モードであっという間に全巻を読み終えてしまった。


 コロナちゃんのいた施設では、ネット・ゲーム・マンガは1日1時間までという厳しいルールがあった。

 さらに読んでよいマンガはこどもの健全な育成に寄与するもののみと厳密に選別されていた。

 施設に新しく入荷したマンガのうち半数が、施設長の検閲によって1週間以内に撤去された。

 かような環境の中で、コロナちゃんは短時間に大量のマンガを読むスキルを磨いたのだった。



 次に、コロナちゃんは前世紀の終わりごろから30年以上にわたって描かれたというマンガを高速で読んだ。

 終盤にさしかかるにつれて絵がどんどん雑になっていくのでときおり絵柄補完機能を使った。

 最終巻まで読んだところでこのマンガがまだ完結していないことに気づき、コロナちゃんは落胆した。

 だが、最終頁を読み終えると次の文言が表示された。


〈チェーン・リアクション;この続きを描いたマンガが3257件あります〉


 ポリメラーゼの最大の特徴はチェーン・リアクションというシステムを有する点にある。

 ポリメラーゼが呼び出すことのできるマンガ・データベースには、出版社から刊行されたほとんどすべてのマンガはもちろんのこと、有象無象の個人出版のマンガも大量にあった。

 チェーン・リアクションは、あるマンガのあるストーリーやキャラクターからそれと関連する別のマンガを呼び出すシステムだ。


 よく見ると最終頁だけでなく、すべての頁のフッターに「チェーン・リアクション」の表示があり、タップすると、その周辺のストーリーや登場人物に着想を得た無数の二次創作マンガを探すことができた。

 チェーン・リアクションはオリジナル作品と二次創作の間だけでなく、オリジナル同士や二次創作同士の間にも発生した。

 あるマンガの印象的なシーンと、それに影響された別のマンガのあるシーンが解析され、チェーン・リアクションで結ばれた。

 

 コロナちゃんは、延々とチェーン・リアクションをたどっておびただしい数のマンガをすさまじい速度で読み続けた。

 無限とも思えるマンガの大海におぼれていくような感覚が心地よかった。

 午前6時。

 もうすっかり朝だ。


「……ロナちゃん……」


 隣ですやすやと眠っていたロックダウンくんが何か言った。

 起きたのかなと思って、コロナちゃんはロックダウンくんをちらり見る。

 目は閉じられている。


「そうだよ……」


 どうやら寝言のようだ。

 再びポリメラーゼへ視線を戻す。


 だが次の瞬間、ロックダウンくんがおぞましい一言を発したのをコロナちゃんは聞き逃さなかった。


「コロナちゃん……好きだよ……」

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