第八話
名物屋敷に戻ろうと立ち上がった龍馬と双葉を信長が呼び止めた。
相談があると言う。
通された奥座敷には信長、龍馬と双葉以外に藤吉郎、丹羽長秀、前田利家の六人。
おそらく信長が選んだ今の織田家の命運を担う者たちなのだろう。
義元上洛に備えての具体策を考えて意見を交換するために集められたのだ。
必要な物や準備を始めていく事柄を優先順序決めてかたずけていく必要がある。
まず龍馬が口火を切る。
いきなり兵糧はそれ程集めなくてよいと言う。皆が驚く中、龍馬は説明する。
短期決戦になるだろうし、籠城するなど意味がないというのだ。
米を買うよりその銭で槍や弓などの武器、軍馬を多く集めることが重要だと言う。
「伝手のある雑賀で鉄砲を買うのはどうか」と藤吉郎。
「確かに鉄砲は強力で今後は威力を発揮していくでしょう。
だが値段が高すぎる上に数を揃えるのに時間がかかる。
また、雨が降れば使えないので梅雨時の今回の戦では見送りましょう。」
「なるほど。今川軍を打ち破った後でゆっくり少しずつ集めれば良いか」と威勢のいいことを言う。
「限られた時間と軍資金は有効に活用しないといけません。
次に情報の収集こそ最重要だと思います。
戦場は間違いなく尾張領内になるので地の利は此方にあります。
我らが勝つには奇襲で義元の首を取る以外ありません。
そのためには義元の本隊がどこにいて、どこに向かうか分からなければ話になりません。
ゆえに優秀な偵察部隊の編成が最優先です」と龍馬。
「義元の本隊以外と戦うようでは勝ち目はないしな」と利家。
「その通りです。あと織田家に好意的な集落の民に協力を頼み義元の本隊が来た時に酒や肴を献上して足止めするように頼んでおくとよいでしょう。
「それぞれの村に配下を置いておき、今川勢に見せかけた偽伝令で早馬を使って位置を知らせるのはどうでしょう?」と利家。
「それは名案、だがそれには今川家の伝令隊の旗印が必要だがや。
作るにしても見本がいるし岡崎城から盗むしかないぎゃ」と藤吉郎。
「となれば忍びの者を雇うのが上策。どこに依頼すればいいのだろうか」長秀の言。
「甲賀衆は六角家、伊賀衆は松平家、根来衆は本願寺家と懇意なため控えた方がよいと思います」と龍馬が続けた。
「少し遠いのですが越後の国、軒ざるの里に優れた忍びがいると聞き及んでおります。加藤段蔵、通称飛び加藤と申す者」と利家。
「それがしが行きましょう」双葉が申し出る。
「ほかの方々にはやらねばならぬことが山積み、それがしなら4日で戻れます。
朝の指南は戻ってから始める手配に」
「お頼み申します」即断の長秀。
双葉は立ち上がり、会合を抜けて出立した。
この行動の早さが双葉の持ち味である。
残った五人で作戦会議を続ける。
「最終防衛線の丸目砦はおそらく落とされ全滅するでしょうが、今川勢をできるだけ足止めして時間を稼ぐ必要があります。
その際に間道を通って義元の本隊に近づき奇襲をかける。
これ以外に勝機はないかと」と龍馬。
「間道の確保と整備をしておくことも必要ですな」と利家。
相談して決まったことに優先順序をつけて担当者をきめ、実行に移す。
今日は4月13日、桶狭間の戦いが5月19日。あと一ヶ月と少ししか猶予はない。
一方、双葉は名物屋敷に戻ると三吉に越後まで出かけると伝えて厩舎に急ぐ。
夏風が鞍を持った双葉を見ると、おっ!出番なのか?と言いたげな顔。
走りたくて仕方がないと張り切っているのが分かる。
「頼むよ、相棒」と声をかけてまたがるとブヒヒーン(任せとけ!)といなないた。
清州の町を出るとどんどん速度を上げていく。
今日中に越後までは行けないが出来るだけ距離を稼ぎたい。
途中の敦賀の町で夏風に飼葉と水、懐から蜜柑を一つ与えて双葉もいそいで腹ごしらえを済ませた。
その後も驚異的な距離を稼ぎ、なんとか日暮れまでに富山の町に着くことが出来た。
今日はここで宿を取ることにする。
せっかく北陸に来たのだから蟹が食べたかったのだが、あいにく蟹のシーズンは終わっている。
すでに蟹の口になっていたので夕食が味気なく感じた。
いつか絶対に蟹を食べにもう一度来ようと心に誓う双葉だった。
翌朝、朝飯を急いで平らげると直江津の町に向かった。
元気いっぱいの夏風は軽い休息を数回取っただけで直江津の町まで走り続ける。
なんと昼前には直江津の町に着くことが出来た。
町で手土産に酒を二壺買って、軒ざるの里に向かう。
町で聞くところによると里まで馬で行けるらしい。
そろそろ里が近い辺りで誰何の声がかかった。
「怪しい者ではありません。織田家より仕事の依頼にきました」というと首領の屋敷まで案内された。
「して、今日は何用か」
「織田家より仕事を依頼したく参りました」
「依頼内容を申されよ」
「加藤段蔵殿に今川家の岡崎城から伝令隊の旗印を盗んで貰いたい」
「ほう、段蔵に依頼か。生憎、あやつは私用で出かけておる。
なんでも甲賀七人衆の頭、不死身の天邪鬼との因縁に決着をつけに行くとか」
「不在なれば仕方がない。残念ながら縁が無かったかと」
立ち去ろうとする双葉。
「待たれよ。お急ぎのご様子だが、提案を聞いてもらえる時間もありませぬか」
(このまま返すと手土産らしき酒が手に入らぬじゃないか)
「伺わせていただきます」
「段蔵以外にも、その任務が果たせる適任がいるとすればいかが?」
「適任者が他にもいるなら是非お頼みしたいが」
「まだ若いが忍びの技は一流、戦働きにも秀でておる。
今川家との戦が終わるまで使ってもよい。
会ってご自身の目で確かめますかな」
「是非とも」
現れたのは双葉よりも一回り小柄な忍び装束のくノ一だった。
伊賀衆の手練れと戦うことになるやもしれぬ。大丈夫だろうか?
「腕前を拝見しても?」
「むろんじゃ。忍よ、おぬしの秘術を見せてやるがよい。」
「合点承知の助!」
秘術!それは面白い。見せてもらおうじゃないか。
双葉と対峙したくノ一は9字を切った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前‼」
煙玉により視界が遮られると、双葉は目を閉じて気配を探った。
煙が次第に薄れていくと...なんと!
顔と姿が全く同じ、くノ一が二人現れたではないか。
これぞまさしく分身の術!
噂で聞いたことはあるが、見るのは初めて。
見事なものだ。
「見たか⁉これぞ東雲流(自称)三大秘術の一つ。分身の術ぞ!」
すこし間合いを大きめにとり、影と実体を見極めようと観察する。
...違和感がある。
どこだ? 何が違う?
見破ったぞ! 秘術敗れたり⁉
一気に間合いを詰め、同時に飛びかかってきたくノ一をふわりと地面に転がした。
ここだ!ここが決定的に違う。
二人のくノ一の胸を次々にはだけると、一方はとても大きく、もう一方は双葉並み?だった。
久方ぶりのサービスシーン!
他のものならいざ知らず、胸に関して敏感?な双葉であればこそ、見逃すはずもない!
秘術がただの双子かい⁉ あぱれる君の如く突っ込まざるを得ませんと感じざるを得ません。
「お見事!よくぞ見破った」と軒猿の里の頭。
「いえ、それがし以外なら易々とは見破れまい」
とは言え秘術が双子による張ったりとは、あまりにもお粗末であるが。
「戦に備えて、有能な忍びは多すぎることなどない。二人を雇わせてもらおう」
「報酬は月に一人当たり本人に1貫ずつ渡し、里に1貫納めるで良いか?」
「本人に2貫ずつ、里に2貫納めましょう」
「おお!それなら永遠に契約を望みたいぐらいだ」と頭は手土産の酒を飲みながら上機嫌だ。
くノ一二人は半ば金で売られたに等しい。
なんとも薄情な頭である。
「そういえば名はなんと申すのか」
「分身の術を使う以上、二人とも東雲忍と申す。」
「二人同じ名だとまぎわらしい。そうさな...大胸と小胸で良いか?」
うんうんとうなずく大胸と
「いいわけないないじゃろうが!」と怒りの小胸。
「ちなみに、仰々《ぎょうぎょう》しく九字を切ったりする必要があるのか?あの術に」
「あれはその、言ってみれば...そう、雰囲気⁉」
まあ、本人たちが気に入ってるなら好きにすればいいか。
軒ざるの里を出るときに、二人の東雲忍は頭にもう戻ってやらないぞと捨て台詞を吐き故郷を捨てた。
満を持して東雲姉妹が登場したが今は駆け出しの下っ端に過ぎない。
後の凄まじい?活躍はまだ先の話。
〇野忍さん、〇蝶忍さんと共に日本3大忍となるにはまだまだ程遠い。
後に十三を加えて芸人三人衆と呼ばれ称えられる?二人が加わった。
―以下に続く




