第九話
双葉と東雲姉妹は直江津の町の馬屋で一番ましな馬を二頭借りた。
買うなら断然、堺の馬屋が良い。
昼飯を急いで詰め込み三人は一気に金沢を目指す。
十三に教えられた通り、旅の途中にある町の座を訪れ交易品を調べメモを取ることは今後も続けていくつもりだ。
馬が三頭になった今、交易をしない手はない。
金沢の生糸を京で売ればかなりの利益が出るはず。
夏風は後ろの2頭の馬が遅れるので全力で走れず不満げな顔だ。
そうか、複数の馬が移動するときは一番遅い馬の速度が基準になるのだったと改めて気づかされた。
良い馬を揃えることが移動力の増強に繋がるとも。
一行が金沢の町に着いたときはもう日が暮れかかっていた。
蟹のでない夕食が双葉には不満だったが、東雲姉妹はさながら野良犬のようにがっついている。
軒ざるの里ではよほど粗末な食事だったのであろうか。
この日、三人は明日に備えて早めに寝ることにした。
コケコッコー!
夜明けとともに飛び起きた。
鶏の鳴き声で起こされるのは苦手だ。
寝ぼけながらも朝餉を食べていくうちに、次第に覚醒するのが一番良い。
東雲姉妹は忍びの者としてあるまじき姿で爆睡している。
お約束の寝相の悪さで二人とも半裸に近い。
朝からサービスシーン満点と言いたいが、当然ながら小胸の方は認定されなかった。
東雲姉妹の馬を交換したあと予定どうり座で生糸を買い込み京の町に向かった。
昼前に京の町に着くことが出来た一行は生糸を売り茶と茜を買う。
藤吉郎ほど上手にはできなくても交渉はやったほうが良いのは当然だ。
京から清州ではなく堺に向かう三人。
往路で夏風が頑張ってくれたのおかげで3日で帰れそうだ。
少しぐらい寄り道をしても、ばちも当たるまい。
座で茶と茜を捌いたあと馬鹿丸出しだっけ?の馬屋にむかう。
「おう、目利きのあんちゃんか。いいときに来たな!
とっておきの良い馬を仕入れたぞ、それも二頭⁉ 買ってくれるよな?」
「一応見たうえで判断します」
「当然だ、じっくり見てくれ!」自信満々の丸吉親父。
見れば二頭とも見事な漆黒の黒毛、いや一頭はほんの少し紫が混ざっているか。
闇夜に溶け込むと見えなくなりそうだ。
なんでも馬では珍しい双子だそうで、まさに東雲姉妹に似つかわしいじゃアーリマセンカ...韻はふまなくて良いか。
馬格も申し分なく何より目の輝きに利発さと強靭な意思さえ感じられる。
少々のことでは動じたりしないだろう。
紛れもない名馬だ!
「これは凄いな! でも...さぞかしお高いでしょ?」
「そりゃこれだけの馬だ、安くはない。だがもし二頭とも買ってくれるなら少しは勉強してやる。 50貫と言いたいところだが、45貫でどうだい?」
「それだけの、いやそれ以上の価値があるのは分かる。だが手持ちの銭があいにく40貫しかない。 とりあえず一頭だけ...
「分かった、40貫にまけてやる。姉弟離れ離れにするのも不憫だ。
この二頭は馬の値打ちが分かるあんちゃんにぜひ買ってほしい」
「有難い! 丸出しさん、感謝します」
「丸吉だ! まあ良い、良い馬を仕入れておくからまた来てくれよな」
「必ず来ると約束しましょう」
見ればなにやら東雲姉妹がもめている。
2頭の馬は瓜二つでほとんど変わらぬのだが、僅かに大きさが違う。
大胸が大きい方の馬を取ろうとしたのが小胸には気に入らない。
「だって、あたいの方が胸のある分重いし」と大胸。
ほとんど理由になってないし。
小胸が怒るのも無理はないよな、双葉(八類)はほぼ同類の小胸(七類)の肩を持ちたいが当分は交代で乗るようにとなだめてその場を収めた。
二頭の馬は大きいほうの雌が紫雲、もう一頭の雄が黒雲と命名された。
まさに必要な二人分の馬が手に入るとはきっと道真公の加護があったのやもしれぬな。
さて、唐突ですがここで衝撃の事実を発表しよう⁉
賢明な読者諸兄の中には既に気づいている方もいるかもしれないが、
実は双葉は...男装の女武者なのだ⁉
え?知ってましたって? あれだけ何度も露骨に伏線を張っていれば、わからない方がおかしいですと?
こりゃまた、失礼ぶっこきましてございます!
馬屋から次は南蛮商館に向かう三人。
その道すがら小胸が双葉に問いかける。
「道中の取り引きでかなり稼いだのに手持ちが40貫しかなかったのです?」と
けっこう鋭い。
「さて、どうなのでしょう?」と双葉はとぼけて舌を出す。
南蛮商館の前で双葉は東雲姉妹に謎の指示を出す。
「二人とも今日は朝からとても暑い。これで汗を拭くと良い」と手ぬぐいを渡す。
「汗だくなのでこれは助かるよ、双葉さん」と無邪気にあちこちの汗をぬぐう。
ぬぐい終わって衣服を直そうとする二人に
「胸元は開けておく方が涼しいでしょう。閉じないでおいてね」と。
「少し胸が窮屈だったしそれも良いか」と大胸。
小胸は怪訝そうな顔だが、まあ良いかと指示に従う。
双葉の狙いは南蛮商館の店主、ラファ〇ルの反応を見ることだ。
今後も取り引きをすることは確実。ならば交渉に色仕掛けが必要になる。
双葉は故郷の筑前の国にいたころ2年間ほど中国拳法の達人に鍛えてもらったことがある。
その師匠、林石龍が半端ないエロ爺で散々セクハラを受けた。
双葉のエロに関する考え方はそのエロ師匠に学んだと言っても過言ではない。
普通は師匠のようにエロければ相手を選ばないのは特殊なほうで、一般的には十人十色の好みによるところが大きい。
両極端な東雲姉妹の胸ならラファ〇ルの反応で好みが大体わかるかもと考えての指示なのだ。
準備は整った。
三人は南蛮商館の扉を開けて入るとラファ〇ルが
「ヨーコソキタアルネ、双葉サン」と笑顔で迎える。
「今日は友を二人連れてきたよ」と双葉。
「おこんにちは」「ニャンパス~」と二人も挨拶?
「早速だがカステラを6箱と金平糖を2袋、紅茶1缶オネシャス」
「毎度アルネ...と言いながらもラファ〇ルは二人の胸元が気になる様子。
少し首をのばせばアレが見えそうなのだ。
アレってなにかって?赤子が乳を飲むときに口にする部位...て、説明させないで頂きたい。わかってるくせにこのどスケベ!
注文の品物を揃えながら、大小をチラ見をするラファ〇ルの視線がやがて大の方に集中しだした。
(大小の説明はしなくても当然わかりますよね? え、わからない?
胸に決まってるでしょうが!)
この時点でラファ〇ルの好みは大科(巨乳)だとほぼ確信した双葉。
今日はあえて値切らずに言い値で支払っておく。
いずれ硝石や高価な南蛮商品を買う時には色仕掛けで値切り倒してやるから覚悟しとけよ、上も下も?金髪のお兄さんよ!
「また来るよ、ラファ〇ルさん」「おさらばえ」「バイチャ」と三人。
「クビナガリュウデマッテマースアルヨ」と上下金ちゃん。
南蛮商館を出た三人は最終目的地の清州に向かう。
夏風は一番若いが体格は一番大きい。
新入りの2頭に先輩風をふかして俺より前を走るんじねえぞとでも言いたげな顔。
紫雲は夏風にまだまだ子供ね、ぼくちゃん⁉とでも言いたげな顔で大人の対応。
黒雲は生意気そうな若造に格の違いってやつを見せてやるぞとでも言いたげな顔。
三頭の馬は風のごとく駆け抜けていく。
夏風は何馬たりとも前にはいかせん!と先頭を譲らない。
どうだ? これでもついてこれるか、新入りども!と速度を上げていく。
これまで、この速度についてこれた馬はいない。
だが後ろの二頭は余裕でついてくるではないか!
髭面の堺の馬屋の親父、馬鹿丸吉があの春風以上の値段をつけて評価したのだから当然か。
夏風にプレッシャーがかかりリズムが狂いだす。
敏感に様子の変化を感じ取った双葉は手綱を緩めて速度を落とした。
双葉は小休止を取って一息入れた方が良いと判断したのだ。
「お前はまだ若い、これからもっと成長するから焦らずとも良い、今はまだ無理をするなよ、相棒」と声をかけてやった。
夏風は少し涙目で今日のところは負けといてやらあと言いたげで悔しそうな顔。
双葉は黒雲と紫雲に見えないように懐から蜜柑を一つ取り出して与えた。
途端に機嫌が治った夏風がもう一個おくれと言いたげな顔。
調子に乗るなよと言いたげな顔の双葉にチェッ、けちと言いたげな顔の夏風。
黒雲は夏風の方を見て格の違いが分かったかと言いたげな顔。
その反面、思ったよりやるな。半年もすればどうなるかわからんなと言いたげな...
顔の表情による会話が多すぎたかなと言いたげな顔の著者ケロボッチ。
小休止の後は余裕を持った速度で清州に向かったが、それでも出発から三日目の夕方前に戻ってこれたのは往路の夏風の働きが大きかったのは間違いない。
誇って良いぞ、相棒!と双葉は心底思った。
―以下に続く




