第四話
南蛮商館を出た3人はその足で座に向かった。
座で龍馬の言うままに硫黄を合計20樽買い雑賀の町に急ぐ。
藤吉郎と双葉は取引に関して龍馬に絶大な信頼をしていて、特に何も聞かない。
(話さぬわけにいかないな。双葉さんはともかく、本音では藤吉郎には教えたくなかったが)
雑賀の町までの道中、時間は十分ある今のうちに話すことにした。
「実は現時点で最も利益が大きい取り引きは火薬なのです。
とは言っても火薬の値段は買値が高すぎるので直接買って売るのではほとんど儲けはありません。
そこで硝石と硫黄と木炭で火薬に加工するのです。その際に硝石と硫黄と炭薪を各1樽づつから3樽分の火薬ができます。
できた火薬はなるべく規模の大きい町、京か石山で売れば桁違いの利益が出るのです。
たとえ硝石がぼったくり価格でも!
しかし火薬の加工ができるのは鉄砲を扱える鍛冶職人だけなのです。
さらに火薬は1樽を作るのに職人一人で一日費やしますので今回の20樽分だと20日かかります。
ですが、三人で下働きをして手伝えば10日もかからないでしょう。
報酬に手数料と火薬を少し渡せば、まず受けてもらえるでしょう。
私を信じて後しばらくの間付き合ってもらえませんか?」
「勿論、とことんつきあうだがや」
「ここまできたら、それがしも当然最後まで」
「全力で期待に応えますので!」
「ところで龍馬さん、現時点でということは時が経てばもっと利益の大きな交易品が現れるってことだぎゃ?」
(ギクッ!相変わらず鋭い...が、こ奴には教えるわけにはいかないぞ)
「それは何とも言えませんが...」と言葉を濁しておく。
「では、硝石がぼったくり価格でも売れるのはなぜなんじゃ?」
「この国では産出しないので輸入するしかなく南蛮商館が独占販売しているからです。」
「なるほど。じゃあもし硝石が日の本で生産出来るようになれば火薬は莫大な利益がでるんじゃないぎゃ?
何とか生産できんじゃろうか?」
(ギクッ!それこそが最高の利益が出る取引なのだ。藤吉郎恐るべし⁉)
「生産技術は極秘中の極秘でしょうから難しいでしょうね」
(実は龍馬は生産方法を知っているがとぼけることにした)
「龍馬さんなら何でも知っていると思ったのですが」と双葉。
この場合は「なんでもは知らないわ、知ってることだけ」だっけ?
もうすぐ三人は峠に差し掛かる。
「もしこの状態で野盗に奪われたら最悪だな、損失額が大きすぎる」と余計なフラグを立てる龍馬。
「それに峠は上り下りの両側を同時に見張れるから襲う方には都合が良い」とさらにフラグを立てる双葉。
案の定、先頭を進む双葉が手綱を引き愛馬の夏風を止めて下馬する。
二人も双葉にならって下馬した。
ばらばらっと前に7人、後ろに3人きっちり囲まれた。
「龍馬さん、藤吉郎さんを守ってください」双葉は言い放つと前に出る。
双葉は無手のまま前方の頭らしき野盗に向かって走り出す。
切りかかってくる手下の刃を鮮やかに交わしては蹴りを入れる。
一人、また一人と次々と倒していく。
相手がひるんだ一瞬の隙に双葉は頭らしき?との距離を一気に詰めた。
目の前に現れた小柄な若者に渾身の一撃を交わされ、体制が崩れ前のめりになった。
目の前に双葉のにっと笑った笑顔! 胡蝶し〇ぶとタメが張れるぐらいその笑顔が怖い⁉
あっさりひっくり返された巨体の頭に双葉が
「まだやりますか?」と。
「いや...降参だ。とてもかなわない⁉」格の違いが分かったようだ。
「鮮やかな手並み、感服しましたぞ、双葉どの」と藤吉郎。
「私の見せ場が無かったではありませんか」と実は内心ビビっていた龍馬。
「あんた達、野盗なんかやっててもこの先ろくなことがないだがや。
違う生きる道を探す方が良いと思うぞ。
どうしようもなくなったら清州の町まで、この木下藤吉郎を頼ってきなされ。
わしがなんとかしてやる」
と言いながら一人当たり2貫(20万円)ずつ渡した。太っ腹だ。
「わかった、野盗はもうやめて心を入れ替えると約束する。
銭までもらって...」少し涙ぐんでいる。
「野盗団を一つぶせたのだから、少しは世のため人のためになったかな」と双葉。
「では雑賀の町に急ぎましょう」と晴々した表情の藤吉郎。
雑賀の町の座で炭薪を20束を買いその足で鍛冶屋に向かった。
「親父さん、20樽分の硝石で火薬の加工を受けてもらえましょうか?
材料は揃ってます。」
「大口の依頼を断わるはずもない、20日かかるがそれでいいか?」
「我ら三人で全力で手伝えばどのぐらいで仕上がりますか?」
「働きにもよるが10日ぐらいかな」
「今日から泊まり込みでお願いいたします」
親方を含めた四人はさっそく火薬の加工に取り掛かる。
一刻(約2時間)ほど働いたら双葉が空腹を訴えた。
四人は昼飯とついでに買い出しに鍛冶屋を出た。
双葉がうまい蕎麦屋を知っていると言うので急いで向かう。
蕎麦屋はわりと空いていてそれぞれ席について注文。
双葉はもりそば10枚とおにぎり8個を注文、さらに夕食の持ち帰りにおにぎり10個を追加した。
店主は米が足りないので追加分は夕方に鍛冶屋まで届けることで落ち着いた。
店主には明日からしばらく通うから十分な量を用意するようにと。
藤吉郎は双葉の本来の胃袋の容量がようやく分かったようだ。
満腹で満足した四人は買い出しに向かう。
朝飯用の米、みそ、茶、漬け物、梅干し、焼き海苔、大根、干し魚、卵。
酒と肴も忘れずに、湯飲み茶わんや丼ばち、箸、布団など。
あと双葉は座で蜜柑を一箱、自分で食べるために買った。
藤吉郎は座の主になにやら相談していたが満足気に頷き
店を出た。
何を話していたか気にはなったが特に聞く必要もなかろう。
鍛冶場に戻った四人は汗が落ちないように鉢巻きをして作業に取り掛かる。
全員が一心不乱に働く。この調子だと思ったよりも早く仕上がるかもしれないな。
龍馬が懐中時計を見ると3時を指していた。
一息入れませんかと提案。そう、まさしくおやつの時間だ。
龍馬は双葉にカステラを食べましょうと言うと、双葉はキョトンとしている。
全部自分一人で食べるつもりだったのだろう。
渋々懐から一箱だけ取り出して反対の方を見ながら、いやいやながらも龍馬に差し出す。
小刻みに差し出す手が震えている。
龍馬が切り分けて藤吉郎がお茶を入れる。
おもむろに双葉は懐から残りの四箱のカステラを取り出し丸かじり。
あっという間に平らげてゲップを一つ。
さすがに気まずく思ったのか、双葉は懐から蜜柑を3個取り出して、申し訳なさそうにそれぞれの前に置いた。
三人はその様子を呆然とみていたが、少し間があってからゲラゲラと笑い出した。
休息のあとは作業に戻る。 誰一人手を抜く者はいない。
気が付けば、あっと言う間に夕方近い。
双葉が空腹を感じたタイミングで蕎麦屋の親父が夕食を届けに来てくれた。
双葉が10個、龍馬が6個、藤吉郎と親方が4個で全部梅干しが入っている。
沢庵となすびの漬け物が何気に嬉しい。
良ければ明日以降も炊き立てご飯でのお握りを届けてくれるという。
断る理由も見当たらず頼むことにする。
夕食後にはささやかな酒宴が始まった。
談笑の中で峠の野盗団を解散させた事を知った親方はしきりに感心と感謝。
四人とも酒はあまり強くない。すぐに酔いが回って皆で大笑い。
酔いつぶれた者から一日目の下働きが終わっていく。
―以下に続く―




