第三話
堺の町から雑賀の町に向かう三人。
その中の一人、東風双葉は手に入れたばかりの若駒に驚いている。
整備された道で鞭を軽く一発入れてみたら、待ってました!と言いたげな顔でブヒヒーンといななき徐々に速度を上げていく。
これはもう駆けるというより飛ぶに近い速さにまで達した。さながら風のごとく!
気性は残念だが能力は超一級品と言っても過言ではないと感じざるを得ません⁉
(アパレル君風に)
上方に着いてすぐにこれほどの馬が格安で手に入るとは!
これはご先祖様の加護があったとしか思えない。
(ちなみに双葉は菅原道真公の末裔で、文学や学問に優れた菅原家には珍しく武芸に秀でた分家の東風家に生を受けた。
また13歳のときに東風流武術の免許皆伝は最年少記録)
夏風と名付けた若駒は後ろの二人を待つ気などさらさらないぞ、と言いたげな顔で走り続ける。
(まあ早く着いたら朝飯が物足りなかったので、何か軽く食べて待っていれば良いか)
雑賀の町につくと良い匂いがした。
匂いのする方に向かうと蕎麦屋があった。
(しめた!)双葉は蕎麦が大好物だ。
店に飛び込み、もりそば5枚とおにぎり4個を頼みお茶をすすりながら待つ。
まずはもりそば3枚とおにぎり2個が目の前に並べられた。
少しでも待つ時間をなくそうとの配慮なのだろうが有難くて涙が出そうになる。
最初に蕎麦を一本、つゆをつけずに口に入れる。十分うまい。
次は適量の蕎麦を箸でつまむと高く持ち上げ、少しだけつゆに浸けてから
一気にすする。
見惚れるほど鮮やかな食べ方だ!
お握りを一口かじると梅の味がする。
故郷の筑前にいたときに紀州の梅干しは最高だと聞いたことがある。
これは噂以上にうまいな。
店主に梅干しを一包み頼んで持ち帰ることにした。
全て綺麗に平らげたあと、代金を支払い深々とお辞儀をして店を出た。
雑賀の町の座に着いたが龍馬たちはまだ来ていないようだ。
二人が来るまでこの辺で日課の鍛錬をしていればそのうちに来るだろう。
身体じゅうの筋肉をほぐし腱をのばしてから、さらに念入りに柔軟体操。
屈伸の次は腕立て伏せから指立伏せ、腹筋と背筋の強化、足さばきからの蹴り...
そのとき背後から拍手が聞こえた。
いつの間にか龍馬と藤吉郎が立っていて鍛錬を見ていたようだ。
藤吉郎は双葉の両手を取りブンブン振り回しながら
「素晴らしい!見事なもんだぎゃ」としきりに感心している。
「どうやら双葉どのは護衛も任せられる腕前のようだ、実に頼もしい!
龍馬さんも相当腕がたちそうだし野盗と出くわしても安心だがや」
(藤吉郎が勝手に思い込んでるだけで、実は龍馬は武芸に関してはド素人)
「野盗といえども無用の殺生はあまり気が進みません。交渉した上で相手が引かなければやむを得ませんが」と龍馬。
「それがしも同感。人と人が殺しあうことこそ最も愚かなことかと」
藤吉郎はうんうんと頷き、したり顔だ。
「さて、座も開く時間だし交易といきましょうか」
雑賀の町では何と言っても蜜柑が名産品で利益が大きい。他には硯もかなりの利益がでるが、重くて運ぶのが大変だ。
「重い硯はそれがしの馬で運びます。その上で余裕があれ自腹で蜜柑の取り引きをしても良いですか?」おそるおそる双葉。
「勿論いいですとも。どんどん儲けてくだされ」二つ返事の藤吉郎。
「では、積み荷があるので三人一緒に堺の町に戻りましょう」と龍馬。
野盗に襲われることもなく無事に堺の町に着いたのは昼前だった。
座に入り双葉の積み荷も含めて全て交渉の上で捌き、硫黄を買えるだけ値切って買った。
今日も交易は絶好調!
ここで三人は意気揚々と飯屋に向かう。
それぞれが好きなものを好きなだけ注文した。
基本は丼飯に味噌汁、沢庵、焼きのり、焼き魚、自前の梅干し...
双葉は丼飯を4回お代わりで箸を置いた。
龍馬と藤吉郎は結構食うじゃないかぐらいに思ったそうな。
ほんの少し前にそば5枚とおにぎり4個を平らげたことは知る由もない。
昼飯の後は交易を再開。
硫黄は京の町で売るのが良いので移動しながら双葉に交易のレクチャーをする。
近畿地方では京の町の茶と茜を交易の中心にするのが良い。
雑賀の町の蜜柑や奈良の町の筆も悪くない。
亀山の町の生糸も利益が大きい。
出石の町の銅と鉄も重たいが大量に運べるなら名産品に近い利益がでる。
ふむふむと双葉は熱心にメモを取る。
この日は京の町から出石の町、石山の町から奈良の町まで廻って宿を取った。
主命を受けて2日目が終わった段階で資金はなんと250貫(2500万円)を超えた!
凄まじい成果だ‼
明日は龍馬の希望で堺の町で買い物をしてから清州に凱旋かな?
その前に250貫の資金をどう扱うか決めておかないとな。
「主命で渡すのは100貫で十分です。
残りはネコババ...もとい我らで分けていただきましょう。
藤吉郎さんと私が70貫ずつ、双葉さんは10貫でいかが?」
「そんなことして良いのだぎゃ? 大丈夫だぎゃ?」
「良いのです、大丈夫です。要は...ばれなきゃ良いのです!」
「なるほど!ばれなきゃい良いのか‼」納得の藤吉郎。
「それがしはそれで異存ありません」と双葉。
これで万事丸く収まった...かな?
「お二方、実はここまでは元手の確保。
ここからが本番なのです。清洲に帰るのはまだ早い」
翌朝、十分な朝食を取った後、三人は堺の町の馬屋に向かった。
馬屋に着くと主の馬鹿丸吉が馬の手入れをしながら
「よう、あんたたちか。この前はありがとうな」と愛想が良い。
「こちらこそ。ちなみに今日は例の栗毛の馬を買いに来ました」と十三。
「毎度おおきに。勉強して19貫でどうだい?」
すかさず藤吉郎が「もう一声、18貫!」
「うーん...まあ、それで手を打とう。
いい馬を仕入れておくからまた買ってくれよな」
借りていた馬は清州まで返してくれるらしい。
「それは助かります。えと..馬鹿丸出しさん?」
「間違え方にも程があるが...まあ良い。また来てくれよ」
「必ず来ます、再見!」
龍馬は買い取った馬を春風と名付けた。
次に三人は南蛮商館に向かった。
ここにはエロイ...もとい珍しい品物が沢山ある。
「イラサーイ、ヨーコソキタアルネ」
見事な金髪の支配人ラファ〇ルが笑顔で出迎えた。
「お邪魔するよ、少し見せてもらって良いかな」
「ドーゾ、ゴユックリネ」
どれどれ...ふむふむ...ほうほう...
龍馬にとって興味深いものばかりで目移りがする。
「ラファ〇ルさん、聞きたいことがあります」
「ナンナリトドーゾ」
「金髪の女性は下の毛も...じゃなくて、この店では硝石は扱ってないのですか?」
「下ノ毛モキンイロデス...ジャナクテ、モチロンアツカッテマスヨ。
一樽2貫デボッタクッテマス」
「ぼったくってる自覚はあるんだ⁉
顔に似合わず、えげつない商いをしてますね」
「テレルナ⁉」
「いや、褒めてないし。
ではこの懐中時計と遠眼鏡でいくらになりますか?」
「フタツデゴウケイ6貫ニナリマスネ」
「少しまかりませんか?」
「コッチモショウバイデース、イチゲンサントハ交渉シマセン」
「分かった、言い値の6貫で買いましょう。これでもう一見客ではなくなったはず。
その上で硝石10樽はいくらにしてもらえますか?」
「ナルホド、ソウキマシタカ。ベンキョウシテ20貫ノトコロ18貫デハ?」
「後ろにいる二人の追加分10樽を加えて20樽ならどうでしょう?」
「オウ、デカパイ...デカイトリヒキアルネ。ソレナラ40貫ノトコロヲ34貫デハ?」
「32貫なら買いましょう。だめならこの話はなかったことに」
(センゲツハ硝石のザイコガサバケナカッタシ...)
「コンカイニカギリソレデ手ヲウツアルヨ」
「ときにラファ〇ルさん、なにか珍しい食べ物は売ってますか?」と双葉。
「アライデカアルヨ、試食シテミル?」
「試食シテミル!」いかん、移った。
「コチラガカステラ、コチラガ金平糖アルネ」
「どれどれ。バクバク、カリンコリン。おお、どちらもうまい!
両方いただこう。カステラ5箱と金平糖2袋を」
「マイドアル、ベンキョウシテゼンブデ2貫デスネ」
「それはないんじゃないかな、ラファ〇ルさん。」と藤吉郎。
「これだけの大口の取り引きをした我らはもはや上得意客。
今後の事も考えてサービス、つまりおま毛...もといおまけがあってもいいのでは?」
「グヌヌ...ジャア1貫デイイデスヨ」
「店を出ましょう、銭を払う前で良かった」出口に向かうふりをする3人。
「マッテクサーイ⁉ ワカリマシタ、モッテケドロボー!」
「泥棒とは人聞きが悪い。31貫にするなら聞かなかったことに...
「モウイイデス、カエッテクサイ!」
「冗談です! はい、これ32貫キッチリ払いますので」
「タシカニ。 ナンダカキョウハトテモツカレタアルヨ」
「それは褒め言葉として受け取っておきます。
では今日のところはこれにて御免」
双葉は嬉しそうにカステラと金平糖を受け取り、訳ありで?無駄に広い懐にしまい込んだ。
―以下に続く―




