第十五話
隠し蔵元を出て炭焼き小屋で東雲姉妹を拾い井ノ口の町に向かった。
町の馬屋で勘三の乗る馬を借りて京から堺を目指す。
堺の豪商、今井宗久に依頼の幻の酒を届けると大喜びで受け取った。
破格の報酬を預けてある銭に加えて預かってくれた。
翔平を宗久に引合わせ、今後も追加に酒が必要なら優先的に持ってくると約束すると、満足そうに頷いた。
こういった信頼関係を築いていく事こそが後になってものを言うのだ。
納屋(宗久の商店)を出て馬屋に向かう。
馬屋の親父、馬鹿丸吉が嬉しそうに出迎える。
「相変わらずいいときに来るな。見てくれよ、この馬を!」
自信満々で芦毛の馬を見せる親父。
「確かにこれは間違いなく名馬ですね、でもお高いんでしょ?」
「当然安くはない。でもあんたたちは今や大のお得意様だ、30貫のところを25貫でどうだい?」
「買いましょう。 勘三さん、どうぞ使ってください」と双葉。
「おお!いいのですか? これほどの名馬を⁉」
「馬に恥じない働きを期待してますよ」
この馬は双葉が冬風と命名した。
馬屋の親父、馬鹿丸吉に十三と翔平用の良馬を一頭ずつ追加で頼み、出来れば清洲の名物屋敷まで届けて欲しいと。
一行は京の町に寄って昼飯を取ることにした。
評判の良い蕎麦屋があるらしい。
更科という屋号のそれらしい蕎麦屋を見つけて皆で暖簾をくぐった。
店の中はまだそれほど混んでいなくて、落ち着いて食べられそうだ。
壁の目立つところに品書きが張ってある。
(ふむふむ。かけそば、ざるそば、たぬきそばにかも南蛮まである!
ジュル。いかん!よだれが...)
小柄な看板娘に声を掛けると「いらっしゃい!おきまりですか。」と笑顔でテテテと近寄ってきた。
なかなかの美人さんだ。
それぞれ好きなものを注文して腹一杯になるまで食べ続ける。
今まさに昼時になろうとしている。
店の中はほぼ満席でごった返している。看板娘の奮闘ぶりが見事だ。
蕎麦を運んでいるときは両手がふさがっているのをいいことに、やたらと尻など触ってくる輩がいて、「触った人はお代倍払いね!」と看板娘。
それでも大半の客は触ろうとするようで売上5割増し!
今風に言えばプリけつ⁉ これぞまさしく黄金の尻‼
うまい蕎麦と良い尻に巡り合えて上機嫌な双葉は、代金を払うときに、尻の名前じゃなくて..看板娘の名前を聴いた。
「更科の娘、小梅と申します。以後ごひいきに。カモネ、、上客様」
「小梅!それは縁起が良い。それがしの家系は代々梅を家紋とするぐらいに梅の花を愛でるが故に。
その名に免じて喜んでカモネギになってやろうぞ」
「失礼ぶっこきましてございます。何卒よしなに」
なかなかにしたたかな娘だ。
ここの蕎麦屋が後の双葉たちの拠点になり、看板娘が連絡網の要になるのはまだ先の話だが。
蕎麦屋を出て一行は軒ざるの里に向かう。
取りあえず翔平は紫忍と一緒に紫雲に乗ることにして、これから一行は軒ざるの里に向かう。
夏風、春風、冬風、紫雲、黒雲の五頭の駿馬は風の如く駆け抜けていく。
この頃から人々は彼らを風の党と呼び始めたと言う。
日暮れ前までに一行は金沢の町までたどり着く。
これは、もし記録というものがあるなら日本記録など遥かに上回る。
今日はここで宿を取り明日は軒ざるの里で遊女の見受け...ではなく東雲姉妹の引き抜きの交渉をする。
うまくいけば良いが...双葉はこれでも姉妹を高く評価している。
斥候能力に優れ探索能力はそこらの警察犬?が裸足で逃げだすほどである。
何より紫忍の巨乳(二類)はサービスシーンに欠かせない。
翌朝、一行は軒ざるの里に向かう最中。
二人乗りの翔平は今、背中に何とも言えない素敵?な感触を味わっている。
言わずもがな、柔らかくて弾力がるあれですよ、あれ!
不覚にも翔平はビンビン⁉ と言えばご理解頂けるでしょうか?
紫忍は翔平を気に入ったらしく、わざとからかっているようだ。
そんな翔平に双葉は問いかける。
「翔平、軒ざるの里の加藤段蔵を知っているか?」
「飛び加藤のあんちゃんね、知ってるよ。
なんでもうちの酒を飲むために仕事をしているって言ってた」
それはそれで少し引くな。
「2級酒一壺で2人まで殺すリストに載せられるって」
かつてのビザンツ=タクゼンを彷彿させるな。
今となっては懐かしい。
惜しい人を亡くしたものだ。
(多分まだご存命だよ、失礼な奴だな)
身内ネタで申し訳ない。
失礼ぶっこきましてございます。
翌日、軒ざるの里に進む枝道に入ったとたん、誰何の声がした。
さすがは忍びの里。警戒が厳重である。
翔平が酒壺を掲げると通って良しと。
忍びの里にしてはチョロすぎておそまつ。ちょろ松とおそ松が腕を組んでスキップするぐらいに。
頭の屋敷に案内され中に入ると頭と向かい合って座った。
「聞き及んでいるぞ、桶狭間の件!まずはめでたきことじゃ。」
「ありがとうございまする。お礼の酒を納めてくだされ」と
一級酒を二壺差し出した。
半分残した酒を見て軒猿の里の頭が
「何か話があるようだな。仕事の依頼かな?」
「いえ、依頼ではなく交渉です。東雲姉妹を見受け..じゃなくて引き取りたい。
特級酒二壺と20貫が条件でいかが?」
「ほう、破格の申し出悪くない。悪くはないが半分の条件で一人だけ、小さい方でどうだ?」
「小さい方とは?」
「胸に決まっとるじゃろうが!」
(決まってるのか?)
「双葉殿、ここはその条件で全くよろしいかと!」と黒忍。
「見捨てないでけろお⁈」泣き叫ぶ紫忍!
「頭、ここは一つ武で決めませぬか?
それがしと軒猿の代表者で素手の申し合いで勝った方の言い分でいかが?」
「面白い!承知した。 こちらからは...段蔵を呼んでこい!」
「やはり飛び加藤か⁈ 相手にとって不足なし!」
想定の範囲内だ。
双葉は軽く体をほぐし準備を終えると段蔵が現れた。
段蔵は双葉を見て何かを感じたのか不敵に笑った。
飛び加藤は忍術もさることながら体術にも長けていて、二つ名に恥じぬ跳躍力を活かせる森のなかでは無敵、 いや、猿飛と双璧か。
この申し合いは平地なのでかなりの救いではあるが強敵には違いない。
二人は向き合ってお互い相手の様子をうかがう。
少しずつ間合いを詰めてきた段蔵が牽制の拳を放つが、双葉は微動だにしない。
間合いに入っていないのがわかっているからだ。
段蔵は間合いに入った双葉に蹴りを、拳を放つが双葉は受けずにかわす。
受けることによる減速を嫌ういつものスタイルだ。
段蔵に放った拳が頬をかすめた。
段蔵から笑みが消えた。予想外に速い拳に驚きを隠せない。
たまらず後ろに下がり距離を置く段蔵。
双葉は相手に考える隙を与えない。
ブルースリーが本気モードに入った時のような軽やかなステップを刻み始めた。
ゆっくりと段蔵の周りを反時計回りに回りだした。
徐々に速度を上げていく。
残像が残るほどの速度まで上がると...
時計回りに反転!
段蔵の視界から双葉が消えた⁉
双葉の必殺技[釣られて回れば思う壺]だ!
とっさに段蔵は上方に跳躍した。
さすがの判断⁉
しかし双葉が一枚上手だった。
宙に飛んだ段蔵に向かって跳躍すると二人の目が合う。
段蔵の背筋が凍った。
双葉はニッと笑って
「それがしの勝です!」と言うと同時に段蔵の心臓に掌底を当てていた!
二人同時に着地すると段蔵はガクッと膝をついた。
双葉の完勝と言ってもいいだろう。
その場にいた全員が固まっている。
龍馬以外誰一人双葉が勝つと思っていなかっただけに。
「頭、約束どうり大小両方の胸、いただいていきます」
(まさか段蔵が敗れるとは⁈ こ奴は一体何者?)
「分かった、好きにするがよい」
「今後の仕事の依頼のためにつなぎの配下をつけてもらえると助かります。
あと今日の事は他言無用で!」
「承知した、これからも良き関係を続けたいものじゃな」
(こ奴らは絶対敵に回したくないな。)
「これからも良しなに。では今日のところはこれにて失礼いたす。」
双葉は深々と頭を下げお辞儀をした。
帰途につく際、黒忍に帰りはこっちに乗りなと誘われた翔平。
黒忍の胸を見て「いえ、大きい方に乗ります...馬が」
「チッ、馬じゃなく胸だろうが。これだから男ってやつは」御機嫌斜めの黒忍である。
それから双葉たちは尾張に向かう5騎の風となった。
東雲姉妹が加わり諜報力と戦闘力に加えて宴会芸が大幅に強化された。
久しぶりの我らが名物屋敷に帰ると三吉が風呂が沸いていますと。
風呂に向かうとすでに娘たちの行列ができていて、もちろん今日も見物客が大勢押しかけてきている。
屋敷の前の桜並木がそろそろ満開なので花見をかねて集まるのであろう。
なんでも娘たちがよく見える桜の木の下は場所代を取られるそうだ。
一ヶ月ぐらい先まで予約が詰まってるとも。
桜が散るまでは仕方ないか。
部屋に戻りくつろいでいると、夕餉の支度ができたという。
皆腹が減って目が回りそうだったので、我先に席に急ぐ。
3日ぶりの我が家の飯だ。
見ればこれまでよりも豪勢な料理が大量に並んでいるじゃアーリマセンカ。
刺身に天ぷら、尾頭付の鯛、うなぎの蒲焼に鶏のから揚げ、茶わん蒸しにたけのこご飯、味噌汁に香の物等々。
給仕係の娘が4人、声を揃えて
「どうぞ召し上がれ、ご主人様!」
かなり色っぽい娘が二人増えてる。
ここは極楽浄土なのか?
なんでも藤吉郎の手の者が見物客から集めた場所代で賄ったという。
(また藤吉郎に借りが増えたな。倍返しも大変だぞ、これは。)
満腹でひっくり返り動けない4人に娘たちの膝枕付き。
「お尻でもどこでも好きなところを触ってもよござんすよ。」
双葉と龍馬についた色っぽい姉ちゃん二人は、サービス過剰!
後に虎の女子穴の指南役となるお色気姉妹の登場である。
一方、藤吉郎は弟の小一郎を配下に誘い順調に主命をこなしていく。
中でも、冬に備える炭奉行に抜擢され、かなりの成果を上げたとか。
他にも、城壁修理の責任者として短期間に仕上げたとか、その活躍ぶりは枚挙にいとまが尽きない。
今や足軽大将に昇進した藤吉郎、出世街道まっしぐら、猿も猫もまっしぐらだ。
―以下に続く




